表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/17

13話 リサの一歩と、松前くんの誤解②

 ほんとはゲームの話で盛り上がりたいけど、こんな変に意識した状態じゃ無理だった。


「あ、あたしもゲームするよ。下手だけど」


「モケモンとかともだちの森とか、可愛いやつ」


 それ以上は続けられなかった。


(オンラインゲームも…)


 とまで、広げることはできない。

 この部分に関しては、いま踏み込まれたら自分が困る。


 松前くんは「そうなのか」と意外そうな顔をしただけで、それ以上は聞いてこなかった。

 身構えていた分、拍子抜けするくらいあっさり終わる。


 群れない人、踏み込まない人、と思っていた。

 でも、本当は相手が困らないように、先に引いてるだけだった。


(また、遠慮してる…)


 もっと踏み込んできてもいいと思う反面、松前くんの一歩引いて相手を気遣う距離感は、居心地がよかった。


 それから、

 好きなおかずの話。

 午前中の授業の話。

 次の小テストの話。

 そんな他愛もない話。


 あたしが話しかけるたびに、松前くんは一度考えてから答える。

 返事はいつも短い。

 でも、ちゃんと最後まで聞いてくれる。

 答えながら無理に笑わせようともしない。


 教室の中なのに、ゲームで並んで歩いているときと同じ空気が流れていた。


「そうか」


「ん」


「わかる」


 短い言葉ばかりでも、物足りなさは感じなかった。

 その飾らないところが、なんだか妙にかっこよく見えて、勝手に想像していた『大人の理想のMさん』より、今こうして目の前にいる松前くんの方が居心地がいい。


 気づけば、昼休みが終わりかけていた。


「もうこんな時間」


「早いな」


 その一言に、あたしは思わず笑った。


「うん、早かった」


 本当にそう思った。

 松前くんも、同じこと思ってくれた。


 ゲームの中では、毎日話している。

 なのに、顔を見ながら話す時間は、まだこれだけしかない。


 画面越しでは見えなかった、困ったような笑い方。

 短い返事の合間の、一度考える間。


(やっぱり、いいな)


 もっと話していたかった。

 もっと一緒にいたかった。


(でも)


 蓋を閉じ、包みを結び直す。

 松前くんはもう自分のお弁当箱をしまい終わって、こちらを見てはいない。


 それでもよかった。

 今日は、ちゃんと前に進めた気がした。


「またね、松前くん」


「……ああ」


 あたしはお弁当箱を抱えたまま、椅子を元の場所へ戻し、自分の席へ向かう足を少しだけ弾ませた。


◇   ◇   ◇


 いつもの効果音とともにログインすると、取引所前の噴水の音が真っ先に耳へ届いた。

 水しぶきの向こうに、見慣れた後ろ姿がある。

 オレが近づくより先に、リサが振り返って走ってくる。


『こんばんわ!』


『こんばんは』


 軽く手を振るモーションのあと、リサがその場でくるりと一回転する。

 いつもより機嫌がいいらしい。


 少し雑談を挟んでから、リサがどこか浮ついた調子で切り出した。


『今日ね、その人とお昼食べれたの』


(へぇ)


 誘えたのか。


(……待て、なんでリサから誘ってるんだ)


 男の方から誘うのが筋だろう。

 女の子に言わせておいて、誘われるのをのんびり待ってたのか。


(何やってんだそいつ)


『いっぱい話せたし』


(いっぱい……?)


 文字を見つめたまま、オレは椅子の背にもたれた。

 そんなに喋ったってことは、コミュ力が高いんだろう。


(いや、そういうやつに限って軽いんだよな)


 誰にでも同じようなことを言って、調子だけはいい。

 それでいて、女の子の扱いにだけは慣れてる。


(……偏見か)


 分かってはいる。

 それでも、想像だけが勝手に進んでいく。


『テストの話とかで、めっちゃ笑っちゃって』


 眉を寄せた。

 テストの話で、どこに笑う要素があるんだ。


(それでも笑ったってことは……よっぽど話し上手なんだろうな)


 オレにはできない。

 自然に会話を転がして、気の利いた一言をさらっと返す。

 自分はチャットですら、上手い言葉を返すなんて苦手なままなのに。


 むかつく。

 顔も知らない相手なのに、素直にそう思った。


 自分の今日の昼休みを思い出す。

 如月さんが声をかけてくれたのに、ほとんど相槌ばかりだった。

 話題を振ることもできず、会話を広げることもできなかった。


(如月さん、絶対つまらなかっただろ)


 なのに、如月さんはずっと笑っていた。

 答えに詰まっても急かさず、大して面白くもない返事にまで笑顔を絶やさない。

 話が途切れれば、次の話題を見つけてくれる。

 ゲームとか、絶対やらなそうなのに、話を合わせてくれようとしていた。


 誰にでもそうできる人だから、周りに人が集まるんだろう。

 クラスで浮いてるオレにまで、気を遣ってくれるくらいだ。


 画面の中で、リサのアバターが小さく跳ねている。

 浮かれた足取りが、文字の勢いそのままに見えた。


『気をつけろよ』


『?』


『そういう、誰とでも距離近い男』


『慣れてるやつもいるから』


『簡単に信用しない方がいい』


『そんな人じゃないよ』


『でも心配してくれてありがとう』


『大丈夫、変な人じゃないから』


(届いてないな、これ)


 迷いも、間もなかった。

 リサはもう、その相手を信じきっている。


(そんなに簡単に好きになるな)


 打とうとした続きの言葉を、オレは結局送らなかった。

 キーボードの上で、指だけが止まっている。


 そんなことを言う資格がない。


 どうせオレには、上手い話の振り方も、さりげない拾い方もできない。

 うまく言葉が選べなくて、選んだ結果さらに変な言い方になる。

 それは、今日の昼休みでよく分かったばかりだ。


 リサの気になる相手は、リサが勇気を出して誘って、その気持ちに応えて、一緒に昼を食べて、たくさん話して、笑わせてくれる。


 そんな時間を、誰かと過ごしている。


「なんかムカつく」


 声が、勝手にこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
counter_img.php?id=41111809&main=1
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ