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引退するはずだったオンラインゲームで、オレは初心者とこの世界をもう一度好きになる  作者: 空色いろはに


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11/14

11話 パーティー中②

 結局、パーティーを組んで二人並んで町を歩いていた。

 ペット解放クエストの受付へ向かう。


『この子、やっと飼える』


 嬉しそうなチャットが流れてくる。

 そのあとに続く文字は、少し勢いが落ちた。


『このクエスト、Mくんもう終わってるよね』


『付き合わせるのやっぱり悪いよ』


 確かに、一度終わらせたクエストだ。

 もう一度やる意味なんてない。

 経験値も報酬もほとんど入らない。

 効率だけ考えるなら、別のことをしていたほうがいい。


 それでも、一人で行かせる方が落ち着かなかった。

 少し考えてから、チャットを打つ。


『オレも行く』


 すぐには返事が来ない。


『でも、一回終わってるよね?』


 リサはクエストが解放できるレベルに上がっただけで、クリアできるかはギリギリといったところだ。

 それだけが理由でもなかったけれど。


『ストーリー覚えてないし』


 少し間を置いて、続ける。


『どんな話だったか見てみたい』


 覚えていない、というのは少し違う。

 ストーリーなんて、まともに読んだ記憶がない。

 クエストは、解放条件を満たすためのものだとしか思っていなかった。

 決定ボタンを連打して、テキストもムービーも飛ばすのがいつものやり方だ。


 だから本当は、どんな話だったのか知らない。


 以前の自分なら、こんなことは思わなかった。

 今はなぜか、ストーリーが少しだけ気になっている。


 リサがクエストを受注すると効果音が鳴って、目的地が地図に表示された。



 受付を終えると、目的地まで並んで歩く。


 リサは寄り道をしては足を止める。

 天気と時間によって変化する景色、フィールドを歩くモンスター、採取ポイントや珍しい花、風車や遺跡のオブジェ。

 何かを見つけるたびに立ち止まり、そのたびにチャットで報告してくる。

 寄り道ばかりしているせいで、目的地に着くまでの時間は確実に伸びている。

 それなのに、不思議と時間はあっという間に過ぎていた。


 目的地に着くと、イベントが始まった。

 画面が暗転し、ムービーが流れ出す。


 傷だらけの小さなモンスターが、岩の陰で怯えながら身を縮めていた。

 人間の姿を見るたびに毛を逆立て、低く唸る。

 近づいた主人公の手を、爪で払いのけた。


『この子、人間にお母さん殺されちゃったんだ』


 そのせいで、人を信じられなくなったモンスターの話だ。


『絶対助けよう』


 リサが打つ。

 その一言で、目的が少し変わった。

 クリア報酬のためじゃない。

 この子を助けるため。

 そんな気持ちでボスへ向かうクエストは、初めてだった。


 別の魔物に襲われている場面を、何度か主人公が助ける。

 少しずつ心を許してくれて、最後にはこの世界を一緒に歩いてくれる相棒になった。


(……こんな話だったのか)


 何年も遊んできたゲームなのに、ペットがどうして仲間になるのか、考えたこともなかった。

 マサキは天井を仰ぐ。


(見て良かった…)


 ムービーが終わると、リサからチャットが送られてくる。


『一度終わったクエにも付き合ってくれるなんて』


『Mくん優しいね』


『ストーリー見たかっただけ』


 打ち返す。


『またそんなこと言って』


『なんか、いい話だった』


『ね!めちゃ良かった!』


 入力中の表示がしばらく表示された。


『あたしの気になる人もねー、Mくんと同じくらい優しいんだよ』


(優しい……?)


 マサキは画面を見つめる。


『話したことないんだろ』


『それで優しいって分かるのか』


 送る。

 リサの返事は、少しだけ間が空いた。


『分かる』


『なんか、クールだけど優しそう』


(クール……?)


 マサキは椅子の背にもたれる。


 そういうタイプか。

 目立つのに騒がしくない。

 おそらく、めちゃくちゃ顔がいい。

 自分から話しかけなくても、勝手に人が寄ってくるようなやつ。


(初期ステがオレとは違う)


 自分からグイグイいかないくせに好かれるってことは、そういうことなのだろう。

 勝手に想像だけがふくらむ。

 そして何故かイラだっている。


『あんまり話したことないのに、優しそうって変かもだけど』


『でも絶対優しいよ』


 絶対。


 その二文字が、やけに強い。


(……そこまで言うか)


『見た目だけで決めるのは危ない』


 つい、硬い文になった。

 送ってから、自分でも分かる。


 頼まれてもいないのに、口を挟んでしまった。

 これは助言の形をしているが、どこか納得できていない。

 今の話には、背中を押す気になれなかった。


 リサから、すぐに返事が来る。


『見た目だけじゃないよ』


(……だいぶ惚れてるんじゃないのか、それ)


 そう思った瞬間、余計にモヤついた。


 自分には関係ない。

 何度目かも分からない言い訳を、また頭の中で繰り返す。



『今日はこのへんにしとくか』


『うん!』


 いつものように雑談をしながらレベル上げをしていると、思ったより時間が経っていた。

 パーティーを解散する前に、聞いておきたいことがある。


『リサは、明日も来るか』


 送ってから、意味もなく画面を見つめる。

 返事が来るまでの数秒が、やけに長く感じた。


『来るよ!』


『ちゃんと来るからね!』


『明日も一緒に遊ぼ!』


『お疲れ様でした!』


『ばいばい!』


『また明日!』


 立て続けに勢いのあるチャットが流れてきて、思わず口元が緩む。

 自分が返したのは、いつも通り短い一言。


『お疲れ』


 そのまま、ログアウトのボタンにカーソルを合わせる。


 今日一日を振り返る。


 嫌われたと思った。

 必要なくなったと思った。

 勘違いだった。


 明日も来る。


(……よかった)


 リサのアバターが、ログアウトする直前まで手を振っていた動きが、なぜか目に焼き付いて離れなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しでも気に入ってもらえたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

今後の励みになります(・v・)♥

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