11話 パーティー中②
結局、パーティーを組んで二人並んで町を歩いていた。
ペット解放クエストの受付へ向かう。
『この子、やっと飼える』
嬉しそうなチャットが流れてくる。
そのあとに続く文字は、少し勢いが落ちた。
『このクエスト、Mくんもう終わってるよね』
『付き合わせるのやっぱり悪いよ』
確かに、一度終わらせたクエストだ。
もう一度やる意味なんてない。
経験値も報酬もほとんど入らない。
効率だけ考えるなら、別のことをしていたほうがいい。
それでも、一人で行かせる方が落ち着かなかった。
少し考えてから、チャットを打つ。
『オレも行く』
すぐには返事が来ない。
『でも、一回終わってるよね?』
リサはクエストが解放できるレベルに上がっただけで、クリアできるかはギリギリといったところだ。
それだけが理由でもなかったけれど。
『ストーリー覚えてないし』
少し間を置いて、続ける。
『どんな話だったか見てみたい』
覚えていない、というのは少し違う。
ストーリーなんて、まともに読んだ記憶がない。
クエストは、解放条件を満たすためのものだとしか思っていなかった。
決定ボタンを連打して、テキストもムービーも飛ばすのがいつものやり方だ。
だから本当は、どんな話だったのか知らない。
以前の自分なら、こんなことは思わなかった。
今はなぜか、ストーリーが少しだけ気になっている。
リサがクエストを受注すると効果音が鳴って、目的地が地図に表示された。
◇
受付を終えると、目的地まで並んで歩く。
リサは寄り道をしては足を止める。
天気と時間によって変化する景色、フィールドを歩くモンスター、採取ポイントや珍しい花、風車や遺跡のオブジェ。
何かを見つけるたびに立ち止まり、そのたびにチャットで報告してくる。
寄り道ばかりしているせいで、目的地に着くまでの時間は確実に伸びている。
それなのに、不思議と時間はあっという間に過ぎていた。
目的地に着くと、イベントが始まった。
画面が暗転し、ムービーが流れ出す。
傷だらけの小さなモンスターが、岩の陰で怯えながら身を縮めていた。
人間の姿を見るたびに毛を逆立て、低く唸る。
近づいた主人公の手を、爪で払いのけた。
『この子、人間にお母さん殺されちゃったんだ』
そのせいで、人を信じられなくなったモンスターの話だ。
『絶対助けよう』
リサが打つ。
その一言で、目的が少し変わった。
クリア報酬のためじゃない。
この子を助けるため。
そんな気持ちでボスへ向かうクエストは、初めてだった。
別の魔物に襲われている場面を、何度か主人公が助ける。
少しずつ心を許してくれて、最後にはこの世界を一緒に歩いてくれる相棒になった。
(……こんな話だったのか)
何年も遊んできたゲームなのに、ペットがどうして仲間になるのか、考えたこともなかった。
マサキは天井を仰ぐ。
(見て良かった…)
ムービーが終わると、リサからチャットが送られてくる。
『一度終わったクエにも付き合ってくれるなんて』
『Mくん優しいね』
『ストーリー見たかっただけ』
打ち返す。
『またそんなこと言って』
『なんか、いい話だった』
『ね!めちゃ良かった!』
入力中の表示がしばらく表示された。
『あたしの気になる人もねー、Mくんと同じくらい優しいんだよ』
(優しい……?)
マサキは画面を見つめる。
『話したことないんだろ』
『それで優しいって分かるのか』
送る。
リサの返事は、少しだけ間が空いた。
『分かる』
『なんか、クールだけど優しそう』
(クール……?)
マサキは椅子の背にもたれる。
そういうタイプか。
目立つのに騒がしくない。
おそらく、めちゃくちゃ顔がいい。
自分から話しかけなくても、勝手に人が寄ってくるようなやつ。
(初期ステがオレとは違う)
自分からグイグイいかないくせに好かれるってことは、そういうことなのだろう。
勝手に想像だけがふくらむ。
そして何故かイラだっている。
『あんまり話したことないのに、優しそうって変かもだけど』
『でも絶対優しいよ』
絶対。
その二文字が、やけに強い。
(……そこまで言うか)
『見た目だけで決めるのは危ない』
つい、硬い文になった。
送ってから、自分でも分かる。
頼まれてもいないのに、口を挟んでしまった。
これは助言の形をしているが、どこか納得できていない。
今の話には、背中を押す気になれなかった。
リサから、すぐに返事が来る。
『見た目だけじゃないよ』
(……だいぶ惚れてるんじゃないのか、それ)
そう思った瞬間、余計にモヤついた。
自分には関係ない。
何度目かも分からない言い訳を、また頭の中で繰り返す。
◇
『今日はこのへんにしとくか』
『うん!』
いつものように雑談をしながらレベル上げをしていると、思ったより時間が経っていた。
パーティーを解散する前に、聞いておきたいことがある。
『リサは、明日も来るか』
送ってから、意味もなく画面を見つめる。
返事が来るまでの数秒が、やけに長く感じた。
『来るよ!』
『ちゃんと来るからね!』
『明日も一緒に遊ぼ!』
『お疲れ様でした!』
『ばいばい!』
『また明日!』
立て続けに勢いのあるチャットが流れてきて、思わず口元が緩む。
自分が返したのは、いつも通り短い一言。
『お疲れ』
そのまま、ログアウトのボタンにカーソルを合わせる。
今日一日を振り返る。
嫌われたと思った。
必要なくなったと思った。
勘違いだった。
明日も来る。
(……よかった)
リサのアバターが、ログアウトする直前まで手を振っていた動きが、なぜか目に焼き付いて離れなかった。
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