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引退するはずだったオンラインゲームで、オレは初心者とこの世界をもう一度好きになる  作者: 空色いろはに


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10/13

10話 パーティー中①

 いつものログインの効果音とともに、いつもの取引所の前に自分のキャラクターが降り立った。

 真っ先にフレンド欄を開くのが、習慣になりつつある。


 リサの名前の横に、見慣れない表示が出ていた。


〈パーティー中〉


(……は?)


 思わず画面に顔を近づけて、二度見する。


〈パーティー中〉


 見間違いではない。


(誰とだよ)


 討伐依頼なら、一人よりパーティーを組んだ方が効率がいい。

 それは分かっている。

 何もおかしなことじゃない。


 分かっているのに、指がしばらく動かなかった。


 今まではログインすると、大抵リサが待っていた。

 だから今日もそうだと、勝手にそう思い込んでいた。

 先に始めていたって、何ひとつ間違っていない。


 リサはいつも楽しそうに話しかけてきた。

 なのにこっちは短く返すことしかできなくて、話を広げるのはいつもリサの方だった。


(あれ、ノリ悪かったよな)


 初心者なんだから、もっと褒めるとか、盛り上げるとか、そういうことをすればよかったんだ。


 教える時だって。


(ちょっと、偉そうだったか……)


 思い出すのは、


 「こっち」「それでいい」「次はこれ」


 指示ばかり並べていた気がする。

 頼まれてもいないのに攻略メモまで作った。


(押しつけだったかもしれない)


 高い蘇生アイテムを使わせた相手だから、断りたくても断れなかったんだろう。

 付き合わなきゃ悪いと、思わせていたんじゃないか。


(……同じくらいのレベルの奴と遊ぶ方が、楽しいよな)


 同じレベル帯なら、会話だって噛み合う。

 変に気を遣わなくていい。

 上級者ぶってるオレを相手にするより、よっぽど気楽なはずだ。


 考えれば考えるほど、その方がしっくりくる気がしてくる。


 画面の中の〈パーティー中〉の表示は、まだ光ったままだ。


 いや、別にいいけど。

 ゲームなんだから、好きに遊べばいい。

 オレが許可することでもない。


 それは別にいいんだ。

 それより、


(初心者だけで募集に入るの、危ないだろ)


 装備だけ見て文句を言うやつとか

 効率厨とか。

 初心者だって分かると偉そうにするやつだって、少なくない。


(……大丈夫か?)


 いや、過保護か。

 大丈夫じゃなかったら、抜ければいいだけの話だ。


 それに、初心者だからっていつまでもオレと遊ぶ理由なんかない。

 野良のパーティーに入れば友達だって増えるし、気の合う相手が見つかることだってある。


 そのほうが、このゲームはもっと楽しくなるはずだ。


 ……それでいいはずだった。


 メッセージを打とうとして、送信ボタンの手前で迷う。

 「大丈夫か」なんて送ったら、どう思われる。

 心配性だと笑われるだけならまだいいが、うっとうしいと思われたら嫌だ。


 一旦フレンド一覧を閉じ、見ないようにした。

 とりあえず、所持品の整理でも始める。

 しかし、すぐにフレンド一覧をもう一度開く。


〈パーティー中〉の文字は、まだ消えていなかった。


 取引所の前で、キャラクターを意味もなく歩かせる。

 時間だけが、無駄に過ぎていく。


 しばらくして、〈パーティー中〉の表示が消えた。

 ほぼ同時に、チャットが送られてくる。


『Mくん!こんばんわ!』


 目の前にワープの光の柱が立ち上ると、その中からリサが姿を現した。


『ただいまー!』


 その四文字を見ただけで、さっきまで張りついていた肩の力が少し抜けた。


『どうだった』


『難しかった』


『目的地わかんなくて、マップ開いて探してたら』


『みんな先に行っちゃってて』


(置いてかれたのか)


『チャット早くて追いつけなくて』


『よろしくって打ってる間に』


『火力とかバフとか言われて分かんないまま終わってて』


 画面の向こうで、リサが一人で言葉を探しながら打っている姿が浮かぶ。

 移動もチャットも、置いていかれた姿を想像すると、胸のあたりがざらついた。


『あと、なんでか分かんないけど』


『いつもと違ってあたしにいっぱい敵きちゃって』


『ここ耐性いらないから守備盛った方がいいって教えてもらった』


 もう一度、同じ行を読み直す。


(違うだろ)


 魔法職に守備を盛れなんて聞いたことがない。

 タンクが敵をきちんと固定できていないだけだ。

 パーティーが崩れた原因を、初心者の装備のせいにするな。


 腹は立つが、もう解散したパーティー相手に愚痴を言っても仕方ない。


 言いたいことはいくつも浮かんだけど、送るのはやめた。


『大変だったけど、勉強になったよ』


『それ、悪いのはリサじゃない』


『そうなんだ』


 チャットだけでは、画面の向こうの相手がどんな顔をしているのか分からない。

 それでも、なんとなく落ち込んでいるような気がした。


 何を送ればいいのか、言葉を探す。

 とにかく今日は、リサがもう野良に行かなくて済むようにしたい。

 理由なんて何でも良かった。


『今日、他にやりたいことあるか』


 間が空く。


『もう少し1人でやってみる』


(なんで)


『あんま迷惑かけたくないし』


 意味が分からなかった。

 迷惑なんて、一度も思ったことがない。

 それどころか…。


(いや、本当に一人か?)


 また誰かの募集に入るんじゃないか。

 今度こそ気の合う相手でも見つけて。

 さっきは難しかった、大変だったと言っていたけど


(オレといるより、マシだったのかも知れない)


『もう少し強くなったら』


『また一緒に遊びたい』


 違った。

 負担だったわけじゃなかったのか。

 普通に遠慮してるのか。


(じゃあ、ほんとに迷惑かけてるとか思ってるのか)


『迷惑じゃない』


 送信する。

 返事までに、間があった。


『リサと遊ぶの、普通に楽しいし』


 送ってから、指が固まった。


(なに言ってんだこれ)


 楽しいのは事実だ。

 でも、相手が本当に女の子なら、今の言い方は引かれてもおかしくない。


(……まずった?)


 そう思った瞬間。


 リサが、その場でぴょんぴょんと跳ねはじめる。

 跳ねるたびに、髪と衣装の裾がふわりと揺れた。

 そのまま拍手をすると、次は万歳。

 くるりとオレの周りを一周し、また拍手をして、今度はくるくると回りだす。

 最後にもう一歩近づいてぴょんっと跳ねてから、ようやく動きが落ち着いた。


『あたしもー!』


(……そんなに喜ぶことか)


 アバターに表情なんてついていないのに、動きだけで不思議なくらい嬉しさが伝わってくる。

 顔は見えないし声も聞こえないけど、相手の気持ちだけが先に分かる。

 その人らしさは、画面越しでもちゃんと見えていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しでも気に入ってもらえたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

今後の励みになります(・v・)♥

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