89話 聞いてほしい
神様サバイバル14日目
診療所をあとにし、三人は静かな山道を歩いていた。
誰も、すぐには口を開かなかった。
風が木々を揺らし、葉の擦れる音だけが耳に届く。
やがて、不知火がゆっくり口を開いた。
「……医楽。」
医楽は歩いたまま振り向く。
「前に言ってくれたよな。」
「話せば、少しは楽になるって。」
医楽は小さく笑う。
「あぁ。」
「なにかあったら聞くとも言った。」
「もちろんじゃ。」
「わしも、お前さん達に話を聞いてもらって、少しだけ心が軽くなった。」
「一人で抱え込むより、ずっとな。」
廃人も静かに頷く。
「……うん。」
「話した方がいいと思う。」
短い言葉だった。
だが、その一言には重みがあった。
不知火は空を見上げる。
雲一つない青空。
しばらく黙ったあと、小さく呟いた。
「……今夜。」
「みんなに話したい。」
その横顔には、どこか覚悟のようなものが浮かんでいた。
◇
夕方。
古民家へ戻ると、香ばしい匂いが家中に広がっていた。
「おかえりー!」
楓が笑顔で手を振る。
「今日は豪華よ!」
盗丸が得意げに胸を張る。
「へへっ。」
「また松茸見つけてきた。」
「今回は前よりデカいぞ。」
夢見は目を輝かせる。
「すごいですぅ!」
「松茸ご飯ですかねぇ〜!」
「焼いても美味しいよねぇ〜!」
医楽は苦笑する。
「また山へ入ったんか。」
盗丸は肩をすくめた。
「元気ないジジイ見てられなくてな。」
「ちょっと探してきた。」
楓も笑う。
「医楽には元気でいてもらわないと困るし。」
医楽は照れ臭そうに鼻をかいた。
「まったく……。」
「年寄りを甘やかしおって。」
それぞれが個人モニターから食材を取り出す。
野菜。
米。
水。
財産が平等になった世界だからこそ、誰も遠慮なく食卓へ並べられる。
焼き網の上では松茸が音を立て始めた。
じゅう、と脂が弾ける。
部屋いっぱいに秋の香りが広がる。
「うわぁ〜。」
夢見は思わず頬を緩めた。
「いい匂いですぅ。」
「幸せぇ〜。」
みんなで食卓を囲む。
笑い声が少しずつ戻る。
医楽も、昼間より顔色が良かった。
それを見た楓は嬉しそうに笑う。
「やっぱり医楽は元気じゃないとね。」
医楽も笑い返した。
「そう言ってもらえるうちは、まだ働けそうじゃ。」
その光景を。
廃人だけは静かに見ていた。
視線の先には、不知火。
笑っている。
だが。
どこか無理をしている笑顔だった。
◇
食事を終え、華と母親は先に部屋へ戻る。
静かな夜。
囲炉裏の火だけが小さく揺れている。
誰からともなくお茶を飲み、ゆったりとした時間が流れた。
その沈黙を破ったのは、不知火だった。
「みんな。」
全員が顔を上げる。
「これから、どうする?」
楓が首を傾げる。
「どうするって?」
「なにが?」
不知火は静かに続けた。
「神様サバイバルが終わったあと。」
「なにをしたい。」
「どうなりたい。」
「そういう話だ。」
楓は少し考えてから笑った。
「私は決まってる。」
「神様サバイバルをクリアする。」
「それだけ。」
「生きて帰る。」
「それが今の夢。」
夢見も頷く。
「私もですぅ。」
「夜ちゃんを生き返らせたい。」
「だから絶対にクリアします。」
その瞳に迷いはなかった。
医楽も穏やかに笑う。
「わしも同じじゃ。」
「取り戻したいものがある。」
廃人は頭の後ろで手を組んだ。
「ゲームなんだからさ。」
「クリアしないと。」
「そのためにはレベリングかな。」
「まずは強くならないと。」
的場は豪快に笑う。
「ん?」
「俺ぁまだまだ悪いやつぶっ飛ばしてぇな!」
「神愛教も倒して。」
「全部片付けてから考える!」
盗丸は静かに立ち上がる。
「おれは……。」
「一旦抜ける。」
みんなが振り向く。
「探したい人がいる。」
楓は驚く。
「え?」
「なんでよ。」
「一緒に探せばいいじゃない!」
夢見も寂しそうに俯く。
「寂しいですぅ……。」
盗丸は少し笑った。
「ありがとな。」
「でも。」
「これは俺が自分で探さなきゃ意味がねぇ。」
ピエロは紙へ文字を書く。
【花火、作ろうかな】
その文字を見た楓の表情が一気に明るくなる。
「え!」
「いいじゃん!」
夢見も手を叩いた。
「花火見たいですぅ!」
「夏祭りみたいですねぇ〜!」
さっきまで重かった空気が、少しだけ和らぐ。
笑い声が広がる。
その輪を見つめながら。
不知火は静かに息を吸った。
(みんな……。)
(未来を見てる。)
(俺だけが。)
(過去に縛られている。)
拳を強く握る。
もう。
嘘はつけない。
ついてはいけない。
不知火はゆっくり顔を上げた。
「……おれは。」
笑い声が止まる。
全員の視線が集まった。
「話さなきゃいけないことがある。」
囲炉裏の火が、小さく揺れる。
「今まで。」
「だれにも話せなかった。」
誰も口を挟まない。
静寂だけが流れる。
不知火はゆっくりと目を閉じた。
そして。
覚悟を決めたように口を開く。
「……おれは。」
「自分の生徒を殺した。」
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”




