85話 やめてくれ
神様サバイバル14日目
【人類残り37%】
午前0時。
世界中の空が、ゆっくりと染まっていく。
誰もが足を止めた。
眠っていた者も。
食事をしていた者も。
祈っていた者も。
巨大な顔が、世界を見下ろしていた。
神が笑う。
『やぁ。』
『神だよ。』
『神様サバイバル14日目。』
『はじめようか。』
神は楽しそうに頬杖をついた。
『みんなさ。』
『嫌いな人っている?』
少し間を空ける。
『神がね。』
『一番嫌いな人。』
『嘘をつく人。』
世界中が静まり返る。
『自分を守るために嘘をつく。』
『責任から逃げるために嘘をつく。』
『人を騙すために嘘をつく。』
『周りのことなんて考えず、自分だけ助かろうとする。』
神は肩をすくめた。
『ねぇ。』
『いい嘘って、何?』
『優しい嘘?』
『思いやりの嘘?』
『神はね。』
『そんなもの無いと思う。』
ニコリと笑う。
『だから今日は、“ 嘘”を消します!』
ぱちぱちぱち!!
神が拍手する。
『はい、拍手〜。』
『今までついた嘘。』
『全部なくなります。』
『もちろん今日からも。』
『もう嘘はつけません。』
その瞬間だった。
古民家。
「っ……!」
不知火が突然頭を押さえ、その場へ膝をつく。
「不知火!?」
楓が慌てて駆け寄る。
頭が割れる。
脳の奥を無理やり掻き回されるような感覚。
(なんだ……。)
(やめろ……。)
(思い出したくない……。)
額から冷や汗が流れる。
夢見も心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですかぁ?」
「……。」
平気だ。
そう答えようとした。
しかし。
「いや……。」
「平気じゃない。」
勝手に口が動く。
不知火は自分の口を押さえた。
(まずい。)
世界中でも異変が起きていた。
「あの時、女とは別れたって言ったじゃない!」
「……別れてない。」
「え?」
「浮気してた。」
「は?」
悲鳴。
怒号。
殴り合い。
「あのとき会社の金が消えた!」
「やっぱりお前だったのか!」
「……俺だ。」
家庭。
「あなた、本当に残業だったの?」
「……違う。」
世界中で。
嘘という積み木が、一斉に崩れ始めた。
神はその様子を見ながら笑う。
『まぁまぁ。』
『落ち着いてよ。』
『本当のこと話してるだけじゃん。』
ケラケラと笑う。
そして指を鳴らした。
『そうそう。』
『今日は14日目だからね。』
『特典も用意しました!』
世界中の個人モニターが光る。
『神様マーケット!!』
画面へ色鮮やかな文字が並ぶ。
神様マーケット OPEN
『自分の所持金を使って、好きな商品を購入できます。』
『もちろん。』
『不定期で商品追加もしまーす。』
楓がモニターを覗き込む。
「なになに……。」
「え?」
最初に目へ飛び込んできたのは。
神様ストラップ 100万円
神様ぬいぐるみ 1000万円
楓は思わず叫んだ。
「誰が買うのよ!!」
神はニヤリと笑う。
『いるかもしれないじゃん。』
『神ファン。』
盗丸が吹き出す。
「そんなやついるか!」
だが、商品はそれだけではない。
個人情報 1000万円
フサフサ薬 1000万円
「おい。」
盗丸が廃人を見る。
「お前に必要じゃねぇか?」
「……。」
廃人は真顔だった。
「いや。」
「盗丸さんの方が必要。」
「誰が薄いんだ!」
久しぶりに少しだけ笑い声が生まれる。
その先には。
若返り薬 5000万円
医楽の目が止まる。
小さく息を呑む。
さらに。
生後からの記憶 5000万円
夢見が静かに画面を見つめる。
そして。
最期の晩餐セット 1億円
「なんだこれ……。」
的場が苦笑する。
一番下。
赤い文字。
リセマラ券 1億円
※魂レベル100000以上限定
「リセマラ……?」
意味が分からない。
神だけが楽しそうだった。
『あとねぇ。』
『最近、神様通話全然来ないんだけど。』
『遠慮しないでね?』
『神、寂しい。』
神は満面の笑みで手を振る。
『じゃあ。』
『またね。』
その姿がゆっくり空へ溶けていく。
静寂。
誰もすぐには動かなかった。
不知火だけが、まだ頭を押さえていた。
(……まずい。)
(このままだと。)
(思い出してしまう。)
不知火は歯を食いしばる。
誰にも見られないよう、拳を強く握り締めた。
世界はまた一つ。
神によって、当たり前を失った。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”




