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84話 また会おう

神様サバイバル13日目


【人類残り37%】

「……夜ちゃん?」


夢見はゆっくりと目を開けた。

頭が痛い。

視界がぼやける。


何があったのか思い出せない。

ゆっくり身体を起こす。


その瞬間。

視界の端に、赤いものが映った。


「……。」


床に横たわる夜。

胸元は真っ赤に染まり、床へ流れた血は既に乾き始めている。


夢見は笑った。


「もぉ〜……。」


「こんなところで寝ちゃだめですよぉ。」


返事はない。

夢見はゆっくり夜の肩へ触れる。


「夜ちゃん。」


「起きてぇ〜。」


揺する。

動かない。


「夜ちゃん……?」


もう一度。

少し強く。


「ねぇ……。」


手のひらへ、冷たくなった血が付着する。

夢見の笑顔がゆっくり消えていく。


「……。」


何も理解できなかった。

理解したくなかった。


「夜ちゃん……?」


震える声。


「ねぇ起きてよぉ……。」


「せっかく……。」


涙が一滴。

夜の頬へ落ちる。


「せっかく仲直りできたのにぃ……。」


「嘘だって言ってよぉ……。」


「夜ちゃん……。」


「夜ちゃぁぁぁぁぁん!!」


警察署中へ、悲痛な叫びが響き渡った。


その叫びで、不知火が目を覚ます。

頭には血が流れている。

意識は朦朧としていた。


それでも。

あの叫びだけで、全てを察した。

ゆっくり署長室へ向かう。


盗丸も目を覚ます。

的場も身体を起こす。

三人は言葉もなく部屋へ入った。


夢見は夜を強く抱き締めている。

何度も。

何度も。


名前を呼び続けていた。

返事はない。


不知火はその場で立ち尽くす。

拳を握る。

爪が掌へ食い込む。


血が滲むほど強く。

それでも。

痛みは感じなかった。


守ると約束した。

それなのに。

守れなかった。


盗丸は帽子を外す。

そのまま床へ座り込んだ。


「……くそ。」


たった一言だけ漏れる。

的場は壁へ歩いていく。


そして。

ゴンッ!!

勢いよく額を打ち付けた。


「くそっ!!」


もう一度。

ゴンッ!!


「くそ!!」


「くそぉぉぉッ!!」


誰も止めなかった。

止められなかった。

不知火は静かに夢見の隣へしゃがみ込む。


「夢見。」


声が震える。


「……すまない。」


「君の親友を。」


「守れなかった。」


夢見は涙を流したまま、不知火を見た。

その瞳には悲しみしかなかった。


それでも。

小さく口を開く。


「不知火さん……。」


「神様サバイバルを生き抜いたらぁ……。」


涙を拭う。


「報酬がもらえるんですよねぇ……?」


「あぁ。」


不知火は頷く。


「なんでも叶うんですよねぇ……?」


「あぁ。」


夢見は夜を見つめる。

優しく髪を撫でた。


「私……。」


「絶対に生き抜いてみせます。」


「夜ちゃんを……。」


「生き返らせます。」


その決意だけは、涙に負けていなかった。

不知火は静かに立ち上がる。


「あぁ。」


「一緒にクリアしよう。」


その約束だけが。

今の二人を繋いでいた。


夕方。


警察署裏。

小さな墓が作られていた。


夢見は静かに化粧道具を広げる。

今日は特殊メイクではない。

誰かになりきるための化粧でもない。


夜が、生まれ持った顔。

その素顔を、一番綺麗に見せるためだけの化粧。


ブラシを握る手は何度も震えた。

涙で視界が滲む。


それでも丁寧に。

優しく。


頬へ色を乗せる。

唇を整える。

髪を撫でる。

最後に少しだけ微笑んだ。


「夜ちゃん……。」


「今日はぁ……。」


涙がぽろりと零れる。


「一番可愛いですよぉ……。」


夢見は夜の額へそっと触れた。


「また会おうねぇ……。」


土が少しずつ被せられていく。

誰も声を出さなかった。

静かな風だけが吹いていた。


神愛教本部。


突然。

ゴホッ!!


呪崎が大量の血を吐いた。

身体がふらつく。

壁へ手をつく。


「総帥!」


信者達が慌てて駆け寄る。

呪崎は口元の血を拭き、夜に切られた頬の傷へ触れた。

傷口が黒く変色している。


「毒……。」


静かに呟く。


「あの時ですか。」


少し考えたあと、一人の信者を見る。


「あなた。」


「魂レベル30になりなさい。」


「え……?」


「ど、どうすれば……。」


呪崎は穏やかに答える。


「神は言いました。」


「殺した者の魂レベルは、自らへ加算されると。」


信者は息を呑む。

すぐに意味を理解した。


十字架のナイフを抜く。

隣の信者へ突き刺した。


ズブッ。

誰も悲鳴を上げない。

誰も逃げない。

誰も抵抗しない。


「神は絶対。」


「神は絶対。」


祈るように微笑みながら、次々と命を差し出していく。


20人。

床へ倒れた。


個人モニター。

魂レベル30

信者は震える手で防衛キーワードを設定する。


《解毒》


能力が発動する。

呪崎の身体から毒が抜けていく。


ゆっくり立ち上がる。

足元には20人の亡骸。

それを静かに見下ろした。


「女王蜂。花魁夜。」


少しだけ目を閉じる。


「蜂の巣退治は……。」


「随分高くつきましたね。」


その日の夕方。

不知火達は古民家へ戻ってきた。


「おかえり!」


楓と廃人が笑顔で駆け寄る。


「無事だったんですね!」


だが。

誰も笑っていなかった。


血だらけの服。

沈んだ表情。

それだけで全てを察した。

誰も、それ以上聞かなかった。


その時だった。

ピエロが慌てて駆け寄る。


【医楽が大変】


部屋へ入る。

医楽は布団で汗を流しながら眠っていた。

苦しそうに何度もうなされている。


ピエロはおろおろしていた。


的場が腕を組む。


「もう一人医者連れてくるか?」


誰もツッコまなかった。

笑う余裕など、もう誰にもない。


しばらく沈黙が流れる。

やがて医楽がゆっくり目を開けた。


「どうした……。」


「勢揃いで。」


弱々しく笑う。


「わしの葬式には……まだ早いぞ。」


冗談だった。

だが、顔色は悪い。

不知火が近寄る。


「医楽。」


「持病でもあるのか?」


医楽は首を横へ振る。


「いや。」


「ただ疲れが溜まっただけじゃ。」


「心配するな。」


その言葉を聞いた盗丸が眉をひそめる。


「疲れ……?」


「神が消したんじゃなかったのか?」


部屋の空気が変わる。

医楽もゆっくり目を開いた。


「……そうじゃな。」


「それがおかしい。」


少し考え込み、小さく息を吐く。


「薬も必要じゃ。」


「明日……。」


「わしの診療所まで付き添ってくれるか?」


「あぁ。」


不知火は静かに頷く。


「今日はゆっくり休んでくれ。」


その時。

華の母親が部屋へ入ってきた。

湯気の立つお粥。


「先生。」


「温かいうちにどうぞ。」


医楽はゆっくり受け取り、一口食べる。


「あぁ……。」


「身体に染みるわい。」


誰も言葉を発さなかった。

静かな時間だけが流れていく。


そして0時。


世界中の空が黒く染まる。

巨大な顔。

神が笑う。


『やぁ。』


『神様サバイバル14日目。』


『はじめようか。』

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

13日目 “ 財産”

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