81話 ここから先は
神様サバイバル13日目
【人類残り38%】
硝煙の匂いが鼻を刺す。
撃ち抜かれた頭部。
喉から大量の血を流す風俗嬢。
つい数秒前まで笑っていた人達が、床に転がっていた。
静まり返った警察署。
生き残った者達は、誰一人として動けない。
「……。」
一人の風俗嬢が腰を抜かし、その場へ尻餅をついた。
震えが止まらない。
視線の先には、自ら命を絶った同僚達。
涙が溢れ、息もまともに吸えない。
極限の恐怖に耐え切れず、足元へ温かいものが広がる。
失禁していることにすら気付かなかった。
その姿を見た呪崎は、ゆっくりと歩み寄る。
革靴が血溜まりを踏むたび、小さな水音が響く。
「おや。」
穏やかな笑みを浮かべたまま、優しく語りかける。
「可哀想に。」
「そんなに震えているじゃありませんか。」
風俗嬢は必死に後ずさる。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら首を横へ振った。
「こ、来ないで……。」
「お願い……。」
呪崎はその場へしゃがみ込む。
まるで怯える子供を安心させるような柔らかい声だった。
「改めて、お聞きします。」
「あなたは神を信じますか?」
風俗嬢は何度も何度も頷く。
「し、信じます!」
「信じます!」
「だから……!」
「お願い……殺さないで……!」
必死だった。
生きたかった。
呪崎は満足そうに微笑む。
「それは素晴らしい。」
そして静かに命じた。
「では。」
「あの方達を救出してきなさい。」
風俗嬢の瞳から光が消えた。
「……わかりました。」
「呪崎様。」
数人の風俗嬢が立ち上がる。
表情はない。
迷いもない。
ゆっくりと網へ近付き、拘束された白装束の信者達を解放し始めた。
二階からその様子を見ていた盗丸は、思わず声を漏らす。
「お、おい……。」
「待て……。」
声が小さい。
身体が動かない。
解放された信者達は静かに立ち上がる。
そして、寝返った風俗嬢達は当然のように白装束の列へ加わっていく。
盗丸は歯を食いしばった。
(まだだ。)
(足元は油まみれ。)
(今ここで火を付ければ、一気に焼ける。)
(何割かは確実に仕留められる。)
マッチを握る手へ力が入る。
その瞬間だった。
「おぉぉぉぉッ!!」
白装束を何人も弾き飛ばしながら、一人の男が突っ込んできた。
的場だった。
身体中煤だらけ。
服は焼け焦げ、至る所から血が流れている。
それでも笑っている。
頭上には個人モニター。
《不屈 残り30秒》
「おい盗丸!」
「どうなってる!」
「こいつら全員敵か!?」
盗丸は思わず頭を抱えた。
(あの馬鹿……!)
(今お前がそこへ来たら火を付けられねぇだろ……!)
だが、次の瞬間には考えを切り替える。
(いや……。)
(今の的場なら。)
(無敵だ、行ける!)
盗丸は勢いよく呪崎を指差した。
「あいつだ!」
「あいつが親玉だ!」
「的場!そいつをやれ!!」
「任せろ!!」
的場は豪快に笑う。
襲い掛かる信者達を片腕で薙ぎ払い、五人、六人と身体へぶら下げたまま前へ進む。
誰にも止められない。
そして。
呪崎の目の前で止まった。
「よう、大将。」
ニヤリと笑う。
「悪ぃがよ。」
「正義は勝つって決まってんだ。」
頭上の表示。
《不屈 残り15秒》
呪崎は少しだけ目を細めた。
「あなた……。」
「面白いですね。」
穏やかに問い掛ける。
「神は信じますか?」
「知らん!!」
的場の拳が一直線に呪崎へ伸びる。
だが。
拳は届かなかった。
まるで時間が止まったように、その場で動きを止める。
呪崎は微笑む。
「では。」
「大人しく寝ていてください。」
的場の表情から力が抜けた。
「……わかりました。」
その場へごろんと横になる。
「ぐぉ〜……。」
数秒後には豪快ないびきが響いていた。
「的場ッ!!」
盗丸が叫ぶ。
「てめぇ……!」
「何しやがった!!」
周囲では信者達が歓喜している。
「さすが呪崎様!!」
「神の御力!!」
「神は絶対!!」
「神は絶対!!」
呪崎はその歓声を気にすることもなく、ゆっくりと階段へ足を掛けた。
コツ。
コツ。
コツ。
革靴の音だけが静かに響く。
署長室。
夜はベッドの上で身体を強張らせていた。
外から聞こえる悲鳴。
爆発音。
銃声。
何が起きているのか分からない。
分かるのは。
少しずつ、その音が近付いてきていることだけだった。
夢見は夜の手を強く握る。
「大丈夫ですぅ……。」
そう言った本人の手も震えていた。
階段前。
盗丸は荒い息を吐く。
腕力では敵わない。
昔からそうだった。
だから知恵を使った。
罠を張り。
相手を騙し。
そうやって生き抜いてきた。
(逃げるか……?)
一瞬、その考えが頭をよぎる。
だが、その先には署長室。
夜と夢見がいる。
ここで自分が逃げたら。
二人は終わる。
盗丸は大きく息を吸った。
「上等だ。」
「泥棒だってよ……。」
「守りてぇもんくらい、あんだよ。」
勢いよく飛び出す。
呪崎へ全力のタックル。
しかし。
呪崎は半歩だけ身体をずらした。
腕を軽く添える。
まるで流れる水のような動き。
盗丸の勢いはそのまま利用される。
「うわっ――!」
身体が宙を舞う。
床へ激突。
後頭部を強く打つ。
視界が白く染まった。
そのまま意識が途切れる。
コツ。
コツ。
コツ。
革靴の音だけが止まらない。
呪崎はゆっくりと署長室の前まで歩み寄る。
ドアノブへ静かに手を伸ばした。
その瞬間。
ガシッ。
伸ばした手首が、力強く掴まれる。
呪崎は静かに視線を上げた。
そこに立っていたのは。
全身を返り血で真っ赤に染めた一人の男。
肩で荒く息をしながらも、その目だけは鋭く呪崎を射抜いていた。
不知火は口元をわずかに緩める。
「……お客さん。」
一拍置く。
「申し訳ありませんが。」
その視線は一歩も引かない。
「ここから先は……」
「プラチナチケットが必要です。」
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”




