表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/84

76話 祈りましょう

神様サバイバル12日目

署長室。

夜はベッドへ寝かされていた。

瞳は閉じられたまま。


あれほど気丈だった女王蜂は、今は小さく身体を丸めて眠っている。


夢見はベッドの横へ椅子を持ってきて座っていた。

眠る夜の手を、そっと両手で包む。


「夜ちゃん……」


心配そうな声。

隣では、不知火が黙って夜を見つめていた。

特殊メイクを剥がされた素顔。


確かに、プラチナチケットの美しい女性とはまるで違う。


だが。

不知火が受けた衝撃は、その顔ではなかった。


(……この顔を見られることを、あいつはあれほど恐れていたのか)


そう思うと、胸が締め付けられた。

夢見が立ち上がる。


「不知火さん」


「お願いがありますぅ」


「なんだ?」


「夜ちゃんを守るの、協力してくれませんかぁ?」


不知火は迷わなかった。


「あぁ」


「もちろんだ」


夢見は小さく微笑む。


「ありがとうございますぅ」


そして部屋を出た。

ロビー。


騒ぎはまだ収まっていなかった。


「顔違いすぎだろ……」


「騙されてたってことか?」


「神愛教の言う通りだったのか?」


警察官。

風俗嬢。

誰もが口々に話している。

夢見はその真ん中へ立った。


「あのぉ〜」


誰も聞かない。


「神愛教が攻めてくるかもしれなくてぇ〜」


「夜ちゃんを一緒に守ってほしいんですけどぉ〜」


声はざわめきに掻き消された。

誰一人、耳を貸さない。


不知火が前へ出ようとした。

その時だった。


ベリッ。


乾いた音が響く。

夢見が自ら特殊メイクを剥がした。


白髪が落ちる。

皺が消える。


現れたのは。

誰もが息を呑むほど美しい、一人の女性。


空気が変わる。

夢見の目付きも変わる。


『おい!!』


鋭い声がロビーへ響いた。


『聞いてんのかクソ共!!』


全員の視線が集まる。


『誰にだってよ』


『隠したいことくらいあんだろ』


『顔でも、性格でも』


『過去でも、性癖でも』


『墓まで持っていきてぇ秘密なんざ、一つや二つある』


誰も口を開かない。


『夜はよ』


『てめぇらを騙したくて顔隠してたのか?』


一拍。


『違ぇだろ』


『隠さなきゃ、生きられなかっただけだ』


静まり返るロビー。

Bちゃんは一人一人を睨みつける。


『てめぇら』


『腹減ってた時、

寝る場所が欲しかった時、

神愛教が怖くて震えてた時』


『誰に助けてもらった?

全部忘れたのか?』


誰も答えられない。


『勝手に神輿担いで』


『顔が違ったら、はいサヨナラ?』


『ふざけんな』


『人をてめぇらの都合で振り回すんじゃねぇ!!』


沈黙。

長い沈黙だった。


やがて。

一人の男が前へ出る。


警察署署長。

高橋。


この警察署で三度もプラチナチケットを手にした男だった。

高橋は静かに帽子を脱ぐ。


「……一理ある」


周囲が高橋を見る。


「我々は夜さん一人に期待し」


「守ってもらうことを当たり前だと思っていた」


「身勝手だったのかもしれん」


その言葉をきっかけに。

一人。

また一人。


「俺も夜さんに助けられた」


「私も……」


「顔なんて関係ない」


「夜さんは夜さんだ!」


声が広がる。

拍手が起こる。

歓声へ変わる。


それは。

花魁夜が築き上げたものだった。


美しい顔だけではない。

困っている人への一言。


何気ない気遣い。

誰よりも先に動く姿。


その積み重ねが。

今、人の心を動かしていた。


Bちゃんはニヤリと笑う。

そして不知火を見る。


『おい、パンツ』


不知火は辺りを見回した。


「……まさか」


恐る恐る自分を指差す。


『てめぇだよ』


『タバコ持ってこい』


不知火とBちゃんの目が合う。

自分のことだと理解した不知火は。


「……あぁ」


無言で頷き、歩き出した。


ここは警察署。

花魁夜の巣。

巣を傷付けられた蜂は。

もう逃げない。


女王を守るため。

全勢力をもって。

敵を迎え撃つ。



神愛教本部。

薄暗い礼拝堂。


無数の信者達が膝をつき。

静かに祈りを捧げていた。


壇上では。

呪咲黄泉(のろいざきよみ)が両手を広げる。


「皆さん」


「神に感謝しましょう」


恍惚とした笑み。


「疲れないということは」


「二十四時間、祈ることができますね?」


「おめでとうございます!」


片目を失った男。

片足を引きずる老人。

精神が限界を迎えた女。


誰一人休まない。

休めない。


疲れという概念は。

もうこの世界には存在しない。


「さぁ神へ祈りを」


「祈りを止めてはいけません」


静かな祈りが。

礼拝堂を満たしていく。


そして。

誰一人として。

祈ることをやめなかった。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ