65話 久しぶり
神様サバイバル11日目
【人類残り40%】
扉が閉まる。
重たい音だった。
入室を許されたのは、夢見のみ。
夢見は部屋を見回した。
散らかっている。
化粧道具。
洋服。
割れた鏡。
壁際には意味を失った鏡が何枚も立て掛けられていた。
鏡が消えた日から。
この部屋の時間だけ止まっているようだった。
静寂。
やがて暗闇の奥から声が響く。
「久しぶりね、羽衣」
夢見は小さく笑った。
「お久しぶりですぅ」
椅子が軋む。
ゆっくりと立ち上がる人影。
そして光の届く場所へ歩いてきた。
夢見は相手の顔を見る。
少しだけ目を細めた。
「夜ちゃん」
「綺麗になりましたねぇ」
夜は鼻で笑う。
「相変わらずね」
「そんなおばあさんの顔して、あてつけも
いいところだわ」
夢見は自分の頬を触った。
「この顔が一番楽なんですよぉ」
「そう」
夜は夢見を見つめる。
そして言った。
「B面を出しなさい」
夢見は困ったように眉を下げた。
「え〜」
「久しぶりなのに私と話すことはないんですかぁ〜?」
夜の声が強くなる。
「いいから早く!」
夢見は肩を竦めた。
そして。
表情が変わる。
空気が変わる。
目付きが変わる。
『んだよ』
低い声だった。
『なにそんな焦ってんだ』
夜を見る。
数秒。
そして。
『ひでぇ顔だな』
夜は怒らなかった。
むしろ少し安心したように笑う。
「相変わらず失礼ね」
『事実だろ』
Bちゃんは椅子へ腰を下ろした。
『それで?』
『なんの用だ?』
夜は少し俯いた。
「羽衣、力を貸して」
Bちゃんの眉が動く。
『随分都合いいな』
空気が冷える。
『自分から目の前から消えてくれって言ったくせに』
『困ったから助けてくれ?』
『はいそうですかってなると思ってんのか?』
夜は否定しなかった。
「そうね」
静かな声だった。
「あの時の私が最低だったのは分かってる」
Bちゃんは黙る。
夜は続けた。
「あの後、なんで怒ってたのか分からなくて」
「ずっと考えてた」
少しだけ笑う。
「A面にも謝るわ」
その言葉に。
Bちゃんの表情が少しだけ和らいだ。
『……』
『で?』
夜は机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
それをBちゃんへ差し出す。
紙にはこう書かれていた。
【嘘つきには死の制裁を】
【神愛教】
Bちゃんは眉をひそめる。
『なんだこれ?』
「神愛教」
夜は答えた。
「神様サバイバルが始まってから急速に勢力を伸ばしている宗教団体よ」
Bちゃんは紙を見つめる。
『嘘つきねぇそれがどうした?』
夜は真剣な顔で言った。
「2日前にうちのスタッフが殺されたわ、
その子は整形していたの」
「特殊メイクで顔を偽る」
「それをもし嘘だと解釈されたら?」
沈黙。
夜は続ける。
「あなたも狙われる理由になる」
Bちゃんの目が細くなる。
初めて少しだけ興味を持った。
⸻
その頃。
不知火は別室へ案内されていた。
広いソファ。
甘い香水の匂い。
気付けば。
周囲を五人の女性に囲まれていた。
「ねぇお兄さん〜」
「夢見って何者なの〜?」
不知火は背筋を伸ばした。
妙な緊張感がある。
「占い師だ」
女性達が顔を見合わせる。
「占い?」
「へぇ〜」
一人が首を傾げた。
「メイクは?」
「あぁ」
「メイクも得意だ」
別の女性が身を乗り出す。
「どれくらい?」
「かなり上手い」
「ふ〜ん」
女性達は再び顔を見合わせた。
そして。
一人が意味深に笑う。
「なんか怪しいなぁ〜」
不知火の背中を嫌な汗が流れた。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”




