63話 見つけた
神様サバイバル11日目
【人類残り40%】
神様サバイバル11日目。
世界は限界を迎え始めていた。
法律が消えた。
電気が消えた。
罪悪感が消えた。
鍵が消えた。
痛覚が消えた。
肉が消えた。
地図が消えた。
鏡が消えた。
約束が消えた。
アルコールが消えた。
そして。
血の繋がりが消えた。
たった11日。
されど11日。
文明はゆっくりと崩壊していた。
病院。
患者で溢れていた待合室。
一人の医師が白衣を脱ぐ。
机に置く。
そして帰った。
誰も止められない。
患者達は叫ぶ。
だが。
医師は振り返らない。
数日前まで。
命を救うことに人生を捧げていた男だった。
今は違う。
使命感も。
責任感も。
少しずつ擦り減っていた。
繁華街。
路上で男が暴れていた。
アルコール依存症。
酒が消えて一日。
身体は震え。
汗が止まらない。
存在しない何かを見て叫ぶ。
警察はいない。
止める者もいない。
ただ人々が距離を取るだけだった。
海外ではさらに深刻だった。
酒造会社。
薬品工場。
消毒設備。
医療現場。
アルコールを前提に成り立っていた場所が次々と機能停止していた。
感染症。
暴動。
略奪。
飢餓。
誰も全体を把握できない。
世界は静かに壊れていた。
古民家。
朝。
みんな神の発言について話していた。
血の繋がり。
消滅ワード11個目。
楓は腕を組む。
「不思議ね」
窓の外を見る。
「お父さんとかお母さんとか」
「ちゃんと覚えてるのよ」
少し考える。
「でも何か……」
言葉を探した。
「前より気にならない」
盗丸も頷く。
「あぁ」
「分かる気がする」
不知火も同意した。
記憶はある。
親もいる。
だが。
そこにあった特別な感情が薄れていた。
廃人は一人縁側に座っていた。
海外にいる両親。
神様サバイバルが始まってから何度も心配していた。
今も心配だ。
そのはずだった。
「……なんだこれ」
呟く。
心配している。
だが。
昨日までとは何かが違う。
感情が遠い。
自分でも説明できなかった。
その時だった。
ピエロが突然立ち上がる。
そして。
部屋を飛び出した。
「ん?」
的場が首を傾げる。
数秒後。
華達の部屋。
勢いよく襖が開く。
華の母親が驚いた。
「きゃっ!?」
ピエロは何も言わない。
華を見る。
すやすや眠っている。
次に。
華の母親を見る。
また華を見る。
数秒。
そのまま襖を閉めた。
そして。
とことこと歩いて戻ってくる。
誰も意味が分からなかった。
ピエロだけは何かを確認したようだった。
夕方。
警察署。
真っ暗な部屋。
カーテンは閉め切られている。
光はない。
部屋の奥。
花魁夜は一人座っていた。
ノック音。
コンコン。
「夜さん」
風俗嬢の声だった。
「警察犬班から報告です」
夜が顔を上げる。
「言いなさい」
「夢見羽衣と思われる人物の手掛かりを発見しました」
空気が変わった。
夜は静かに立ち上がる。
「どこ」
風俗嬢が答える。
「山付近の古民家です」
沈黙。
数秒。
夜は小さく笑った。
「羽衣……」
その名前を口にする。
懐かしそうに。
憎らしそうに。
愛おしそうに。
そして。
「やっと見つけた」
暗い部屋の中で。
夜だけが笑っていた。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”




