61話 夢見羽衣B
夢見過去回
Bちゃんは顎に手を当てた。
『で?』
『どんな顔になりたい』
Aちゃんは首を傾げる。
「どんな顔ですかぁ?」
『老婆でも、おっさんでも、ブスでもいい』
『どうせなら自分で決めろ』
Aちゃんは少し考えた。
どんな顔。
どんな人。
頭に浮かんだのは一人だった。
幼い頃から占いを教えてくれた人。
夢見館を作った人。
祖母だった。
「おばあちゃんですぅ」
『あ?』
「おばあちゃんみたいな顔になりたいですぅ」
Aちゃんは少し笑った。
「私が占い好きになったのも」
「おばあちゃんがきっかけですからぁ」
Bちゃんは数秒黙った。
そしてニヤリと笑う。
『いいじゃねぇか』
立ち上がる。
『よし変えるぜ』
それから数週間。
夢見館は休業した。
Bちゃんは朝から晩まで外を走り回った。
特殊メイクの本。
舞台用の化粧品。
映画関係の資料。
必要な物を片っ端から集める。
Aちゃんは呆れた。
「寝ないんですかぁ?」
『やるなら完璧だ』
「何と戦ってるんですかぁ」
『お前の顔』
「ひどいですぅ」
毎日そんな会話を繰り返した。
そして。
ついにその日が来る。
鏡の前。
Aちゃんは目を見開いた。
「え……」
鏡の中。
そこにいたのは二十歳の夢見羽衣ではなかった。
深い皺。
白髪。
優しそうな目元。
どこか祖母に似た老婆。
Aちゃんは自分の頬を触る。
「これ……」
「私ですかぁ?」
Bちゃんは満足そうに頷いた。
『完璧だ』
Aちゃんは笑った。
「すごいですぅ」
「本当におばあちゃんみたいですぅ」
『だからそうしたんだよ』
その日。
夢見館は再開した。
結果は大成功だった。
顔目当ての客は消えた。
代わりに訪れるのは。
占いが好きな人。
人生に迷った人。
家族との関係に悩む人。
恋愛に悩む人。
仕事に悩む人。
本当に占いを求める人達だった。
「息子と仲直りできますか」
「転職した方がいいでしょうか」
「妻の病気が心配で……」
Aちゃんは嬉しかった。
心の底から嬉しかった。
占いの結果を真剣に聞いてくれる。
相談してくれる。
帰る時には。
「ありがとうございました」
と頭を下げてくれる。
夢見館は再び人気店になった。
いや。
以前よりも人気になった。
口コミ。
紹介。
噂。
よく当たる占い館として。
予約が取れない店として。
夢見館は有名になっていった。
ある日の閉店間際。
扉が開く。
カラン。
入ってきたのは若い女性だった。
ボサボサの髪。
猫背。
暗い表情。
俯いたまま。
誰とも目を合わせない。
Aちゃんは微笑んだ。
「いらっしゃいませぇ」
女性は震えるように椅子へ座る。
Aちゃんは向かいへ座った。
「それでぇ」
優しい声。
「何に悩んでるんですかぁ?」
女性がゆっくり顔を上げる。
──────
現在。
『まぁそんな感じだな』
古民家。
羽衣B面の説明が終わる。
部屋の空気は妙に静かだった。
不知火が不思議そうに聞き返す。
「そ……そんな感じなのか……?」
『そんな感じだ』
楓は目をぱちぱちさせた。
「え?」
「じゃあおばあちゃんの顔って特殊メイクなの?」
羽衣は肩を竦める。
『おう』
そして。
迷いなく顔へ手を掛けた。
べりっ。
驚く楓。
「うわっ!?」
特殊メイクが剥がれる。
現れたのは。
手配書そのままの顔だった。
長い黒髪。
整った顔立ち。
吸い込まれそうな瞳。
的場が感心する。
「おぉ〜手配書の顔だ」
医楽も頷いた。
「べっぴんさんじゃのう」
羽衣は気にも留めない。
カバンからタバコを取り出す。
一本咥える。
そして盗丸を見る。
顎で合図。
盗丸。
「へ?」
羽衣。
『火』
盗丸。
「火?」
『火だよ』
『ただで特殊メイクしてやったんだからそれくらいしろ』
「あ、おう」
盗丸は慌ててライターを取り出した。
火を付ける。
羽衣は深く煙を吸い込む。
『くぅ〜……』
幸せそうだった。
『やっぱシャバで吸うタバコはうめぇなぁ』
肩を回す。
ピエロを見る。
『凝ったわ〜』
ピエロは無言で肩を揉んでいた。
「そこそこ」
満足そうな羽衣。
ピエロは無言。
不知火が口を開く。
「それで」
「なぜ君が指名手配されている?」
羽衣は煙を吐いた。
『いやぁ心当たりねぇな』
少し考える。
『素顔知ってるやつなんて限られてるし……』
そして。
『あっ!』
何か思い出したような顔。
持っていたタバコを不知火へ渡す。
「ん」
不知火。
「?」
意味も分からず受け取る。
その瞬間だった。
羽衣の表情が変わる。
目が丸くなる。
声が変わる。
「あれぇ?」
不知火。
「ん?」
羽衣。
「えっ!くさぁ〜」
全員。
「……」
羽衣は鼻を摘まんだ。
「ちょっ不知火さん!」
「タバコは外で吸ってくださいよぉ!」
「私タバコ大嫌いなんですからぁ!」
不知火は手元を見る。
タバコ。
数秒前まで。
羽衣が吸っていた物だった。
不知火。
「……」
ピエロ肩揉み継続中。




