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60話 夢見羽衣A

夢見羽衣過去回

夢見羽衣(ゆめみはごろも)は幼少期から、

その整った顔立ちと、

少し天然なおっとりした性格から、

悩みなど無縁の人生を歩んできた。


男子にも女子にも人気があった。


転んでも可愛い。

失敗しても可愛い。

天然な発言をしても可愛い。


周囲はそんな羽衣を笑顔で受け入れた。


小学。

中学。

高校。


将来の夢を聞かれるたびに、羽衣の答えは変わらなかった。

白馬に乗った王子様と結婚すること。


友人達は笑った。

先生も苦笑した。

だが羽衣は本気だった。


高校卒業後も、頭の中は相変わらずお花畑だった。


両親は容姿の良い羽衣をモデルや女優にしたかった。


だが。

羽衣が唯一興味を持ったもの。

それは祖母が趣味で続けていた占いだった。


二十歳。

祖母が引退することになり、羽衣が夢見館を継ぐことになる。


最初は順調だった。

客は毎日のように訪れた。

予約も埋まった。


だが。

羽衣は次第に違和感を覚える。


「占い当たりましたかぁ?」


そう聞いても。


「羽衣ちゃんって彼氏いるの?」


「今度一緒にご飯行かない?」


「写真撮っていい?」


そんな返事ばかりだった。

占いの結果について聞く客は少ない。


悩みを相談しに来たはずなのに。

帰る頃には占いの話など忘れている。


ある日。

羽衣は水晶玉の前に座り込んでいた。


「どうしたらみんな占いを聞いてくれるんだろう……」


ぽつりと呟く。


「この顔が悪いのかなぁ……」


すると。

誰もいないはずの部屋で声がした。


『じゃあ顔隠せば?』


羽衣は飛び上がった。


「きゃああああっ!?」


部屋を見回す。

誰もいない。


窓の外を見る。

誰もいない。


「だ、誰ですかぁ!?」


『羽衣だよ』


羽衣の顔が青ざめる。


「ひぃっ」


『その顔やめろ』


「怖いですぅ!」


『お前だよ』


「怖いですぅぅぅ!!」



翌日。


羽衣は病院にいた。


脳の検査。

精神科。

あらゆる診察を受けた。


だが結果は同じだった。

異常なし。


医師は首を傾げる。


「疲れているのかもしれませんね」


羽衣は安心した。


「そうですよねぇ……」


「きっと気のせいですよねぇ……」



その日の夜。


羽衣は恐る恐る自宅の扉を開けた。


ガチャ。


静かだった。

誰もいない。

ほっと息を吐く。


「やっぱり疲れてたんですねぇ」


扉を閉めた。

その瞬間だった。


『てめぇ』


羽衣が固まる。


『いい度胸じゃねぇか』


「ひぃぃぃぃっ!?」


『病院連れていくとか喧嘩売ってんのか?』


「ご、ごめんなさぁい!!」


『なんで謝ってんだよ』


「だって怒ってますぅ!!」


『怒ってるからだよ』


「理不尽ですぅ!!」


羽衣は泣いた。

こうして。

羽衣は、自分の中にもう一人の人格がいることを認めざるを得なくなった。


だが。

思い返せば心当たりがあった。


友人から。


『羽衣ってたまにめちゃくちゃ口悪くなるよね』


と言われたこと。


彼氏と喧嘩した記憶など無いのに、相手が泣きながら帰っていったこと。


説明のつかない出来事はいくつもあった。



それから数日。


羽衣はもう一人の人格を無視した。


だが。

勝手に話しかけてくる。


『その男浮気してるぞ』


「そんなことありませんよぉ」


数日後。


本当に浮気していた。


『だから言ったろ』


「当たってましたぁ……」


『占い師向いてねぇな』


「ひどいですぅ」


そんなやり取りが続くうちに。

羽衣は少しずつもう一人を怖がらなくなっていた。


それから数週間。


羽衣は少しずつ別人格に慣れていた。


相変わらず口は悪い。

性格も悪い。


だが。

意外と頼りになった。


「裏面さん」


『やめろ』


「え?」


『面ってなんだよ』


「だってぇ……」


『名前で呼べ』


羽衣は困った。


「でもどっちも羽衣ですしぃ……」


たしかにそうだった。


夢見羽衣。

夢見羽衣。


同じ名前が二人。

これではややこしい。


『じゃあお前がAでいいだろ』


「A?」


『表に出てる方』


『A面』


羽衣は少し考える。

レコードの表と裏。

そんなイメージだろうか。


「じゃああなたは、B面さんBですねぇ」


『さん付けやめろ』


「じゃあBちゃん?」


沈黙。


『……好きにしろ』


羽衣は少し嬉しくなった。


「じゃあ私はAちゃんですねぇ」


『気持ち悪ぃ呼び方だな』


「お互い様ですぅ」


『あ?』


「怖いですぅ」


『怖がってねぇだろ』


その日からだった。

占い好きで、おっとりした羽衣。

Aちゃん。


口が悪く、現実主義で、特殊メイクの天才。

Bちゃん。


奇妙な共同生活が始まった。


ある夜。


また占い館で落ち込んでいた。

客が帰ったあとだった。


「今日も占いの話聞いてくれませんでしたぁ……」


水晶玉を見つめる。


『なぁ』


B面が声を掛ける。


『お前何になりたいんだ?』


「占い師ですぅ」


『じゃあ顔隠せ』


「え?」


『お前が欲しいのは客か?』


『占い師か?』


羽衣は黙った。

B面は続ける。


『可愛いって言われたいのか』


『占いを見てもらいたいのか』


その言葉は。

初めて羽衣の胸に深く刺さった。


『決めろ』


『両方は無理だ』


羽衣は長い時間考えた。


そして。

小さく頷く。


「占い師になりたいですぅ」


すると。

B面が笑った。


『よし』


『じゃあ顔消すぞ』

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