59話 変えてやる
神様サバイバル10日目
10日目の昼。
不知火と盗丸は古民家を出ていた。
目的は二つ。
食料の確保。
そして。
楓の制服探しだった。
「まだ探す気かよ」
盗丸が呆れたように言う。
不知火は周囲を警戒しながら歩く。
「当たり前だ」
「制服は必要だ」
「いや、なんでだよ」
盗丸が笑う。
「世界終わりかけてんだぞ?」
「学校もねぇ」
「授業もねぇ」
「制服いるか?」
不知火は振り返らない。
「いる」
即答だった。
盗丸は肩を竦める。
「頑固だなぁ」
二人は潰れた衣料品店へ入った。
荒らされた形跡はある。
だが。
奥の方はまだ残っていた。
不知火がハンガーをどかす。
その瞬間。
「おぉ……」
珍しく声が漏れた。
盗丸が振り返る。
「なんだよ」
不知火の手には。
紺色のセーラー服。
状態もいい。
サイズも近そうだった。
不知火は無言で確認する。
袖。
襟。
ボタン。
タグ。
真剣だった。
盗丸がじっと見る。
「なぁ」
不知火は返事をしない。
「楓のためじゃなくて」
「お前が嬉しいだけじゃねぇのか?」
不知火の動きが止まる。
数秒。
沈黙。
そして。
「違う」
即答だった。
盗丸が吹き出す。
「即答かよ」
不知火はセーラー服を丁寧に畳み始める。
「世界がこうなった以上」
「学生服なんて手に入る保証はない」
「見つけたら確保する」
「当然だ」
盗丸はニヤニヤする。
「へぇ」
「じゃあ男子制服でもよかったんじゃねぇか?」
不知火が黙る。
盗丸。
「お?」
不知火。
「女子の方が数が多い」
「絶対今考えただろ」
「考えてない」
「考えたな」
「考えてない」
盗丸は笑いながら両手を上げた。
「はいはい」
「そういうことにしといてやるよ」
不知火は少しだけ眉をひそめた。
店を出たところで。
盗丸が足を止める。
「あ?」
電柱。
そこに一枚の紙が貼られていた。
不知火も見る。
【夢見 羽衣】
【25歳】
特徴。
そして。
似顔絵。
二人はしばらく黙った。
「夢見……羽衣?」
盗丸が呟く。
不知火が頷く。
「あぁ」
「同じ名前だな」
似顔絵を見る。
若い。
どう見ても二十五歳前後。
そして。
かなりの美人だった。
盗丸は首を傾げる。
「同姓同名か?」
「だろうな」
不知火もそう思った。
古民家にいる夢見は。
どう見ても老婆だった。
占い師の婆さん。
少なくとも。
そう見える。
だが。
盗丸はどこか引っ掛かっていた。
楓救出の時。
夢見は自分を別人に変えた。
顔も。
雰囲気も。
完全に。
別人だった。
そこまで考えたところで。
盗丸はもう一度ビラを見る。
そして。
小さく呟いた。
「いや……」
「まさかな」
警察署。
花魁夜は椅子に座ったまま、机の上に置かれたビラを見つめていた。
【夢見 羽衣】
似顔絵。
今でも腹が立つ。
昔からそうだった。
あの女は何でも持っていた。
顔も。
才能も。
人を惹きつける何かも。
「夜さん?」
風俗嬢の一人がおそるおそる声を掛ける。
「その人、本当にそんなに凄いんですか?」
夜は鼻で笑った。
「凄い?」
そして小さく呟く。
「天才よ」
数年前。
占い夢見館。
当時の夜は今とは別人だった。
髪はボサボサ。
猫背。
人の目も見られない。
男と話すだけで声が震えた。
占い館の椅子に座りながら、必死に俯いていた。
向かいには夢見。
特殊メイクをした老婆姿だった。
「それでぇ?」
夢見が聞く。
「何に悩んでるんですかぁ?」
夜は拳を握る。
震えていた。
「変わりたいんです」
小さな声。
夢見は首を傾げる。
「何にですぅ?」
夜は俯いたまま答えた。
「綺麗になりたい」
「誰かに必要とされたい」
「みんなに見てもらいたい」
夢見は数秒黙った。
そして。
突然。
顔を掴む。
ぐちゃり。
夜の目が見開いた。
皺が剥がれる。
白髪が落ちる。
老婆が消えていく。
現れたのは。
信じられないほど整った顔立ちの女性だった。
夜は息を呑む。
夢見は頬杖をつきながら笑う。
さっきまでの穏やかな声ではない。
少し荒っぽい。
別人のような口調だった。
『なるほどねぇ』
『そういう悩みか』
夜は言葉を失っていた。
夢見は笑う。
『じゃあ変えてやるよ』
夜が顔を上げる。
夢見は真っ直ぐ見返した。
『人生ごとな』
夕方。
古民家。
不知火と盗丸が戻ってきた。
「お帰りなさぁい」
夢見が笑う。
縁側では華の髪を結っていた。
夕日に照らされた横顔。
穏やかだった。
盗丸は立ち止まる。
ポケットからビラを取り出す。
夢見を見る。
ビラを見る。
また夢見を見る。
夢見は首を傾げた。
「どうしましたぁ?」
盗丸は数秒黙った。
そして。
ゆっくり口を開く。
「なぁ夢見」
「はい?」
盗丸はビラを見せる。
【夢見 羽衣】
【25歳】
似顔絵。
夢見の笑顔が一瞬だけ止まった。
本当に一瞬。
盗丸は見逃さなかった。
そして。
静かに聞く。
「お前さ」
一拍。
「本当に婆さんか?」
風が吹いた。
縁側の空気が止まる。
夢見は笑っている。
だが。
その目だけは笑っていなかった。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”




