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58話 指名手配

神様サバイバル10日目

10日目の朝。


街では奇妙な光景が広がっていた。

風俗嬢達の虜となった警察官達が街を歩いている。


その手には大量のビラ。

電柱。

商店街。

コンビニ跡。


あらゆる場所へ貼られていく。

そこに描かれているのは一人の女性だった。


【夢見 羽衣】


【25歳】


特徴をまとめた文章。

そして似顔絵。

驚くほど整った顔立ちだった。


「……指名手配?」


「綺麗な人だな」


街の人々が足を止める。

警察官達は黙々とビラを貼り続けた。


その全ては、

花魁夜(おいらんよる)の命令だった。



古民家。


朝食の時間。


昨日の残りの焼きおにぎりを頬張りながら盗丸が欠伸をした。


「しかしよぉ、酒が消えるとはなぁ」


「大好きな酒飲めねぇじゃねぇか」


医楽が箸を置いた。


「お前さん達」


「アルコールが無くなった意味が分かるか?」


盗丸が笑う。


「だから酒だろ?」


「それもある」


医楽は頷いた。


「じゃがもっと大事なことがある」


全員の視線が集まる。

医楽は指を一本立てた。


「消毒じゃ」


空気が少し変わった。


「傷を負った時」


「手術をする時」


「感染症を防ぐ時」


「アルコールは当たり前のように使っとった」


医楽は静かに続ける。


「今は無い」


楓が眉をひそめた。


「じゃあ怪我したら終わり?」


「そこまでではない」


医楽は首を振る。


「煮沸、石鹸、塩水」


「使えるもんはまだある」


「じゃが難易度は上がる」


「感染症で死ぬ人間は増えるじゃろうな」


誰も笑わなかった。

酒が消えた。


それはただの娯楽の話ではなかった。

命に関わる問題だった。


朝食を終えた後。

楓は縁側から庭を眺めていた。


ピエロがいた。

巨大な花火筒を抱え。

なぜか踊っていた。


くるり。

一回転。

またくるり。

花火筒を抱えたまま。


誰にも分からないリズムで。

楽しそうに。


「なにしてんのあいつ……」


思わず呟く。

盗丸も外を見る。


「知らねぇ」


的場が笑った。


「芸術家なんじゃね?」


「絶対違うでしょ」


楓は呆れた。

しばらく眺めていたが。

やはり気になる。


「結局さ」


部屋にいる全員を見る。


「ピエロと華達ってどういう関係なわけ?」


誰も答えない。


華の母親。

華。

そしてピエロ。


一緒にいるのは自然なのに。

家族にも見えない。

他人にも見えない。

どこか不思議な距離感だった。


楓は頬杖をつく。


「直接聞いてみようかな」


その時だった。

不知火が首を横に振る。


「やめておけ」


楓が振り返る。


「なんでよ」


不知火は庭へ目を向けた。

花火筒を抱えたピエロは。

相変わらず踊っている。


「話さないってことは」


静かな声だった。


「言いたくないんだろう」


少しだけ間を置く。


「あの格好も含めてな」


楓は黙った。

たしかに。


名前も。

素顔も。

過去も。

ピエロは何も語らない。


夢見も小さく頷いた。


「そうですねぇ」


洗濯物を畳みながら微笑む。


「聞かれたくないことって」


「ありますからねぇ」


楓は再び庭を見る。

ピエロは今日も踊っていた。

こちらの会話など聞こえていないように。



縁側。


夢見は洗濯物を干していた。

風が吹く。

平和な昼下がり。


街中で自分の指名手配が始まっていることなど。

まだ知らない。



夜。


古民家は静かだった。

皆それぞれ眠っている。


縁側。

医楽は一人だった。


手には湯呑み。

中身はただのお茶。

いつもの癖で口へ運ぶ。

飲む。


当然。

酒ではない。


「……」


小さく息を吐く。

湯呑みを置こうとして。

手が震えた。


カタッ。


小さな音。

医楽は眉をひそめる。


もう一度持つ。

やはり震える。


カタカタ。


震えは誤魔化せなかった。


「参ったのう」


苦笑する。


その瞬間だった。

脳裏を過る。


白い手術室。

必死に誰かの命を繋ごうとしている。


「先生!」


看護師の叫び。


「もう……!」


「まだじゃ!!」


血。

汗。

途切れる心電図。

無情な音。


医楽は目を閉じる。

記憶を振り払うように。


だが。

今度は別の光景。


玄関。

ランドセルを背負った少年。

振り返らない。


「待て」


医楽が呼ぶ。


少年は立ち止まらない。

ドアが閉まる。

その音だけが残った。


医楽はゆっくりと目を開いた。

震える手を見る。


「酒が無くなったくらいで」


小さく笑う。


「情けないのう」


震えは止まらない。

夜風だけが静かに吹いていた。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

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