57話 綺麗ですねぇ
神様サバイバル10日目
久しぶりに。
まともな食事だった。
玉子焼き。
野菜炒め。
焼きおにぎり。
華の母親が残り物で作ってくれた料理だったが、それでも十分だった。
誰も文句は言わない。
むしろ。
温かいだけで嬉しかった。
「うまいな」
的場が焼きおにぎりを頬張る。
「久しぶりに人間らしい飯食った気がする」
「普段なに食べてたんだよ」
廃人が呆れた。
「コンビニ」
「人間らしくねぇな」
「失礼だな」
そんなやり取りに。
古民家の空気が少しだけ和む。
食事の最中。
不知火がふと楓を見る。
「そういえば、着てた制服はどうしたんだ?」
楓は箸を止めた。
「あぁ金剛に破られたから」
「着替えたのよ」
数秒。
沈黙。
不知火の表情が変わる。
「破られた?」
声が少し大きかった。
楓が首を傾げる。
「そうだけど」
不知火は立ち上がりそうになる。
「じゃあ新しい制服も用意しないとな」
盗丸を見る。
「盗丸、明日調達に行くぞ」
盗丸が目を瞬く。
「制服を?」
「制服をだ」
楓は呆れた。
「こんな世の中なんだから」
「制服なんてもういいわよ」
その瞬間だった。
「よくないだろ!!」
部屋が静まり返った。
楓が固まる。
廃人も。
的場も。
夢見も。
全員が不知火を見る。
不知火自身も驚いていた。
なぜそんな大声が出たのか。
一瞬。
分からなかった。
「あ……」
視線を逸らす。
「すまん」
それ以上は何も言わなかった。
楓も何も聞かなかった。
だが。
なぜか少しだけ気になった。
食後。
廃人が的場へ話しかける。
「そういえばさ、
結局あれ何だったの?」
「あれ?」
「防衛キーワード“ 正義”」
「あぁ」
的場は個人モニターを開いた。
表示される文字。
【防衛キーワード:正義】
【能力:不屈】
【効果:三分間あらゆる物理攻撃を無効化】
【クールタイム:24時間】
「これだな」
廃人が覗き込む。
「うわ、ちゃんと説明出てる」
「便利だな」
的場はさらにスクロールする。
「あれ?」
「まだ下に書いてある」
全員が集まる。
そこには。
【次回魂レベル50到達】
【能力:不屈】
【継続時間5分】
「魂レベル?」
楓が眉をひそめる。
廃人も首を傾げた。
「急にレベリング要素?」
「ゲームみたいだな」
的場は肩を竦める。
「知らんおれも初めて見た」
誰も答えを持っていなかった。
◇
縁側では。
ピエロが黙々と食事をしていた。
玉子焼きを口へ運ぶ。
野菜炒めを食べる。
どこか感慨深そうだった。
夢見が笑う。
「ピエロさん」
「メイク落ちかけてますよぉ」
汗で少しだけ滲んでいた。
「あとで直しましょうか?」
医楽が頷く。
「そういえば凄かったのう」
「盗丸が全くの別人になっとった」
夢見は照れ笑いを浮かべた。
「昔、メイクの勉強してた時期がありましてぇ」
ピエロは紙を取り出す。
【ありがとう】
医楽が笑う。
「ほれ、喜んどるわい」
すると。
今度はピエロが新しい紙を出した。
【お酒無くなったね】
医楽の動きが止まる。
数秒。
沈黙。
「やかましい」
「考えないようにしとったんじゃ」
その言葉に。
全員が笑った。
◇
一方その頃。
警察署。
風俗嬢の一人が恐る恐る扉を叩く。
「夜さん……?」
返事はない。
ゆっくりと扉を開ける。
部屋の中。
化粧道具が散乱していた。
床。
机。
壁。
どこも滅茶苦茶だった。
そして。
部屋の中央。
花魁夜が座り込んでいた。
鏡が消えた八日目から。
様子がおかしかった。
「あぁ違う」
「違う違う違う」
口紅を投げる。
ファンデーションを落とす。
髪を掻きむしる。
「こうじゃない」
「わからない」
「わからない」
「わからない!!」
ガシャーン。
化粧品が床へ散らばった。
風俗嬢が心配そうに近寄る。
「夜さん、私が手伝いましょうか?」
夜は首を振った。
強く。
何度も。
「だめよ。あなたじゃだめ」
震える声。
「羽衣」
「夢見羽衣じゃなきゃだめ」
◇
古民家。
夢見は縁側へ出ていた。
夜風が心地いい。
空を見上げる。
街灯は無い。
ネオンも無い。
世界は暗い。
だからこそ。
月がよく見えた。
大きな満月だった。
夢見は微笑む。
「街灯がないと」
小さく呟く。
「月が綺麗ですねぇ」
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”




