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53話 なぜ逃げた

神様サバイバル9日目

盗丸が目を覚ました時。

そこは刑務所内の檻の中だった。


頬に違和感。

頭も重い。

口の中には血の味が残っている。


「起きましたか」


静かな声だった。

部屋の隅。


椅子に腰掛けていた桐山が本を閉じる。

盗丸はため息を吐いた。


「よう、久しぶりだな」


桐山は笑わない。

ただ真っ直ぐ盗丸を見ていた。


「盗丸さん」


「なぜ逃げたんです?」


盗丸は視線を逸らす。

桐山は続けた。


「不自由は無かったでしょう?」


「俺と金剛さん、盗丸さん」


「三人で上手くやれていた」


「鷲尾刑務所でも」


部屋に沈黙が落ちる。

盗丸は頭を掻いた。


昔から考え事をする時の癖だった。


「あいつはよ」


ぽつりと呟く。


「たしかに手の付けられねぇ化け物だった」


桐山は黙って聞いている。


「けどな」


「それは相手が仕掛けてきた時だけだ」


「囚人相手に暴れてただけだ」


「それにここ数年は穏やかだったろ?」


桐山はゆっくり頷く。


「それは死刑が決まっていたからです」


「思い残すことも無かった」


「だから――」


盗丸が遮った。


「違う」


その声に桐山が目を細める。

盗丸は天井を見上げた。


「あいつを今みたいな暴君にしちまったのは」


少し笑う。

自嘲するように。


「俺たちだよ」


静寂。


桐山は何も言わない。

盗丸も続けない。


二人とも。

その意味が分かっていた。


王国を作ったのは金剛だけじゃない。


ルールを作った桐山。

物資を集めた盗丸。

そして暴力で秩序を守った金剛。


三人で作った王国だった。

やがて桐山が口を開く。


「だからといって」


「何も言わず消える理由にはなりません」


盗丸は苦笑した。


「まぁな」


「それはそうだ」


桐山は続ける。


「それに」


「金剛さんの時計まで持っていった」


盗丸が顔をしかめる。


「あれは完全に俺のミスだ」


「外に出てすぐ襲われてな」


「逃げる道中で荷物半分くらい落としたんだ」


頭を掻く。


「たぶんその中にあったんだろ」


桐山は小さく息を吐いた。


「懐中時計らしいです」


盗丸は目を閉じる。


「あぁ、やっぱ無ぇか」


古民家に置いてきた荷物を思い出す。


だが。

懐中時計なんて見た覚えは無かった。


その時だった。


扉が開く。

囚人達に連れられ。

不知火と廃人が部屋へ放り込まれる。


「うおっ!」


廃人が転がる。

不知火は無言で立ち上がった。

盗丸が呆れる。


「なにしてんだよお前ら」


不知火は申し訳なさそうに視線を逸らした。


「……すまん」


廃人が肩を落とす。


「刑務所の周りを偵察してただけなんだけどね」


「見つかった」


桐山が立ち上がる。


「詳しい取り調べは明日です」


そして盗丸を見る。


「盗丸さん」


「覚悟しておいた方がいい」


それだけ言うと部屋を出て行った。

重い鉄扉が閉まる。


ガシャン。


嫌な音だった。



さらに数分後。


今度は楓が連れてこられる。


「ちょっと!」


「なんで私までよ!」


文句を言いながら部屋へ押し込まれた。

そして気付く。


盗丸。

不知火。

廃人。

的場。


全員揃っている。


「は?」


「全員捕まってるじゃない!」


思わず叫んだ。


その瞬間。

部屋の隅から声がする。


「あれ?」


全員が振り向く。

的場だった。

頭に大きなタンコブを作っている。


「みんな勢揃いってことは」


少し考える。

そして笑った。


「作戦成功か?」


楓は頭を抱えた。


「どこがよ!!」


盗丸が吹き出す。

廃人も笑う。

緊張感が少しだけ消えた。



しばらくして。

廃人が部屋を見回した。


「そういえば」


「ここって入口に一番近い角部屋だよね?」


盗丸が頷く。


「あぁ」


「だからなんだ?」


廃人は鉄格子を見る。

鍵はもちろん機能していない。

だが、銃を持った見張りが3人。


壁を見る。

天井を見る。


盗丸は肩を竦めた。


「逃げる気か?無理だぜ」


「檻も壁も頑丈だ、刑務所だからな」


誰も反論できない。

確かにその通りだった。


重い沈黙。


その時。

不知火が無言で懐へ手を入れる。

取り出したのは一本のダイナマイトだった。


盗丸が固まる。


「お前」


「なんでそんなもん持ってんだ?」


楓も固まる。


「ちょっと待ちなさい」


廃人が後退る。


「焔くん?」


的場だけが目を輝かせた。


「おっ」


全員の視線が集まる。

不知火は平然としていた。


まるでペンでも取り出したかのように。


そして。

ダイナマイトを見せながら言う。


「これでどうだ?」


部屋が静まり返った。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

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