五話 武器オタク
エンジン音が止まったあとも、
少しだけ耳鳴りが残っていた。
静かすぎる部屋だった。
さっきまでの銃声も、怒号も、すべて遠くの出来事みたいに感じる。
「……ここ、全部あんたの?」
楓が言う。
壁一面の武器を見渡しながら。
モデルガン。
ナイフ。
トンファー。
ヌンチャク。
日本刀。
“集めた”というより、“揃ってしまった”みたいな量だった。
「そう」
的場は軽く答える。
「趣味」
「趣味でこれは重いでしょ」
楓が笑う。
的場もつられて笑う。
「サバゲーやってるとさ、増えるんだよ」
一歩、棚に近づく。
指で、銃をなぞる。
「……これ、全部」
少しだけ考える。
「人に向けたことある」
笑顔で言う。
まるで“試し打ちした”みたいに。
空気が、一瞬だけ止まる。
「……は?」
楓が小さく声を漏らす。
「いや、サバゲーだけど」
すぐに笑う。
「でもさ」
振り返る。
「“人に当てる”って感覚、覚えといた方がいいよ」
悪気はない。
本気でもない。
ただの“実感”として言っている。
「……さっきのやつ」
不知火が口を開く。
「黒闇破滅」
名前を出すと、少しだけ空気が変わる。
的場は頷く。
「あいつら、あそこ中心に縄張り作ってる」
「ホームセンター?」
「そう」
「武器や食料あるからね」
一拍。
「捕まったら終わり」
軽く言う。
「奴隷扱い」
「……」
言葉が軽い分、内容が重い。
「人足りないからさ」
「働かせる」
少しだけ笑う。
「合理的だよな」
その一言が、妙に引っかかる。
楓が眉をひそめる。
「合理的って……」
「だってさ」
的場は肩をすくめる。
「ルールないんだから」
当たり前みたいに言う。
「使えるもん使うでしょ」
不知火は、少しだけ目を細める。
「……それでも」
言いかけて、止まる。
言葉が見つからない。
「でもまあ」
的場が軽く手を振る。
「俺はああいうの嫌いだけど」
一拍。
「撃てる位置にいたら、撃つだけ」
さらっと言う。
判断基準が、違う。
廃人が、武器棚に近づく。
目が変わっている。
「これ……M4系?」
手に取る。
重さを確かめる。
「ガス?」
「改造してる」
的場が答える。
「威力上げてるから、近距離なら普通に貫通するよ」
「マジで?」
廃人の声が少し上がる。
「ペットボトルくらい余裕」
「缶も?」
「いける」
「やば」
笑う。
完全に“同じ側”の人間の顔だった。
「これ、ハンドガンもカスタム?」
「トリガー軽くしてる」
「いいなそれ」
会話が速い。
専門用語が飛び交う。
楓が少し引いた顔をする。
「オタク同士ってすぐ仲良くなるのね」
「これが普通」
廃人が即答する。
的場も頷く。
「普通だよ」
さらっと言う。
「人を守るための準備だし」
不知火は、その言葉に違和感を覚える。
「……なんで助けた」
ふと、口に出る。
的場が振り返る。
少しだけ、きょとんとした顔。
「理由?」
「……ああ」
少しだけ間。
「人助けに理由いる?」
当たり前みたいに言う。
迷いがない。
打算もない。
そして。
「……あ、でも」
軽く付け足す。
「撃てる理由がある方が、楽しいよな」
空気が、止まる。
本人は気づいていない。
楓が小さく呟く。
「……あんた法律無くなって」
少しだけ笑う。
「よかったわね」
的場が笑う。
「否定はしない」
軽い。
けれど、その軽さが妙に信用できた。
窓の外を見る。
日が傾いている。
夕方。
18時。
「……なあ」
不知火が言う。
「一緒に来ないか」
的場が少しだけ首を傾げる。
楓が続ける。
「荒れてるじゃん、世界」
外を指す。
「一人でどうにかなるレベルじゃないでしょ」
「……まあね」
「だったらさ」
楓が笑う。
「一人でも多く助けたいんでしょ?」
的場の目が、少しだけ変わる。
「……ああ」
「じゃあまず、自分が生きなきゃ」
一拍。
「そのために、うちらと組めばいいじゃん」
軽い言い方だった。
けれど、その中身ははっきりしていた。
的場は少しだけ考える。
短い時間。
「……いいよ」
あっさり言う。
「面白そうだし」
その理由に、迷いはなかった。
武器を選ぶ。
的場は迷わない。
必要なものだけを持つ。
けれど、それでも両手が塞がる。
「これと、これと……ああ、これもいるか」
独り言のように呟きながら選ぶ。
「撃てる距離、広げといた方がいいし」
さらっと言う。
四駆に積み込む。
金属の音が重なる。
「……すごい量だな」
不知火が呟く。
「まだ軽い方」
的場は笑う。
車は動き出す。
マンションに戻る。
廃人の家に武器を置く。
並べる。
整える。
その作業が妙に落ち着く。
夕飯は、不知火の部屋。
缶詰。
レトルト。
味気ない食事。
それでも、誰も文句は言わなかった。
「……なあ」
廃人が言う。
楓を見る。
「料理できないの?」
楓が顔を上げる。
「は?」
「なんで私限定?」
「だってさ」
廃人が箸を動かしながら言う。
「戦闘力ないじゃん」
「はぁ?」
「じゃあ料理くらいしてよ」
空気が少しだけ張る。
「むさ苦しい男パーティに紅一点いるだけありがたく思いなさいよ!」
楓が言い返す。
「は?姫プ要員?」
廃人が鼻で笑う。
「即切りだっての」
「はぁ!?」
声が上がる。
「いいね」
的場が笑う。
「こういうの」
一拍。
「壊れる前の空気っぽい」
その言葉だけ、少し重かった。
不知火がちらりと見る。
的場は普通に食べている。
まるで、何も考えていないみたいに。
そのとき。
時計が、0時を指す。
一瞬。
世界が静まる。
空を見る。
黒。
昨日と同じ。
そこに、“神”が現れる。
『やあ』
軽い声。
『法律がなくなってどうだった?』
間。
『楽しいよね?』
『自由だよね?』
答える者はいない。
『でもさ』
少しだけ、声が弾む。
『まだまだこれからだよ』
『盛り上がるのは』
『夜ってさ』
『暗い方がいいんだよ』
一拍。
『うるさいよね?』
『眩しいよね?』
少しだけ考えるような間。
『……うん、決めた』
その軽さが、怖い。
『二日目の消失は』
世界が、息を止める。
『電気』
沈黙。
音が消える。
本当に、少しだけ。
そして。
世界は暗転した。




