四話 調達
外に出たとき、空気が少しだけ重かった。
昨日と同じ街のはずなのに、どこか別の場所みたいに感じる。
人はいる。
車も動いている。
けれど、そのどれもが“ルールなしで動いている”ように見えた。
「とりあえず、食料でしょ」
楓が言う。
軽い調子で。
「スーパーあるよね、近くに」
「ああ」
不知火が頷く。
「じゃあそこ」
決定も軽い。
けれど、誰も反対しなかった。
歩く。
誰も止めない信号を渡る。
視線だけが、やけに多い。
見ている。
誰もが、周りを“観察”している。
スーパーに着く。
シャッターは半分閉じていた。
無理やりこじ開けられた跡がある。
金属が歪んでいる。
「……もう入られてるな」
廃人が言う。
「でも中、残ってるかも」
楓は迷わない。
しゃがんで、その隙間から滑り込む。
「おい」
止める前に入っていく。
「……行くぞ」
不知火も続く。
中は、静かだった。
荒らされた跡はある。
棚はところどころ空。
けれど、まだ残っている。
「水とレトルト優先ね」
楓が言う。
誰も異論はない。
カートを引く。
ガラガラという音がやけに響く。
廃人はスナック菓子を放り込む。
躊躇がない。
楓はチョコやスイーツを選ぶ。
楽しそうですらある。
「……」
不知火は、水と缶詰を中心に入れていく。
現実的なもの。
“生きるためのもの”。
カートが重くなる。
十分だった。
「……出るぞ」
外に出る。
空気が変わる。
視線が刺さる。
それでも、誰も手を出さない。
まだ、“様子見”の段階だ。
マンションに戻る。
荷物を運び込む。
水。
食料。
並べるだけで、少しだけ安心する。
「次、武器ね」
楓が言う。
間髪入れない。
「……ホームセンターか」
廃人が頷く。
「近いし」
再び外へ出る。
今度は、少しだけ足が速い。
“慣れ”が出ていた。
ホームセンター。
入口は開いていた。
中に入る。
広い。
静かだ。
棚には、まだ商品が残っている。
ハンマー。
ノコギリ。
ナイフ。
チェーンソー。
どれも、“道具”だったはずのもの。
「……これ、普通に武器だな」
廃人が呟く。
誰も否定しない。
そのとき。
「おい」
声がした。
低い声。
振り向く。
男がいた。
後ろに、数人。
全員、何かしら手に持っている。
鉄パイプ。
バット。
工具。
「この店は、俺の店にした」
ゆっくりと言う。
名乗るように。
「この黒闇破滅が占拠した」
空気が変わる。
名前が、妙に重かった。
「……なんか用か?」
不知火と廃人は、言葉を失う。
武装。
人数。
差は明らかだった。
そのとき。
「武器が欲しいんだけど」
楓が言った。
軽く。
いつも通りの調子で。
「もらってっていい?」
一瞬の沈黙。
「……あ?」
黒闇の眉が動く。
楓は続ける。
「あ、でもさ」
少し笑う。
「どうせあんた達のものじゃないし、許可とかいらないよね?」
空気が、凍る。
不知火の背中に冷たいものが走る。
(なに言ってるんだ、こいつ)
廃人も息を呑む。
黒闇は、一瞬だけ黙った。
そして。
「……捕らえろ」
短く言う。
部下が動く。
四人。
一斉に距離を詰める。
「大人しくしろ」
手が伸びる。
その瞬間。
パンッ。
乾いた音。
一人が崩れる。
「――動くな」
低い声が飛ぶ。
パンッ。
もう一発。
別の一人が膝をつく。
「……あ、悪い」
軽い声。
「今の、ちょっとズレたな」
さらに、パンッ。
三発目。
「逃げそうだったから、先に潰した」
「っ、どこだ!」
黒闇が叫ぶ。
全員が身を隠す。
棚の陰。
視線が走る。
その隙。
「走れ!」
不知火が叫ぶ。
三人は一斉に走る。
出口へ。
外へ飛び出す。
「こっちだ!」
声。
振り向く。
一台の四駆。
運転席の男が手招きする。
腕には、モデルガン。
「乗れ!」
迷う暇はなかった。
三人は乗り込む。
ドアが閉まる。
エンジンが唸る。
車が走り出す。
バックミラーの中で、黒闇たちが小さくなる。
「……助かった」
不知火が呟く。
男が笑う。
「礼はあとでいい」
軽い声。
「俺は、的場」
名前を言う。
「……楽しいんだよな」
ぽつりと。
「こういうの」
バックミラー越しに目が合う。
「“正義やってる感じ”するだろ?」
「……」
違和感が残る。
「ガスガンだけどな」
あっさり言う。
「当たりどころ次第で、普通に効く」
笑顔。
笑顔のまま、人を撃った話をする。
車は止まる。
マンションの近く。
「ここ、俺ん家」
的場が言う。
不知火達は恐る恐る入る。
そこには、
“戦える手段”が、あった。
そして。
その中心にいる男は、
壊れたまま、笑っていた。




