49話 宝物
神様サバイバル9日目
桐山が楓の元へやってきた。
「楓」
「金剛さんが呼んでる」
楓はソファに寝転がったまま答える。
「また?」
「まただ」
面倒そうに起き上がる楓。
その様子を見ていた盗丸は、内心ほっとしていた。
夢見の特殊メイク。
完璧だった。
桐山はまったく気付いていない。
楓が立ち上がる。
「じゃあ行ってくるわ」
「おう」
盗丸は小さく頷いた。
楓が連れていかれる。
扉が閉まる。
そして盗丸は立ち上がった。
「さて」
楓の救出も大事だ。
だが今は別のことも気になる。
金剛。
あいつがなぜここまで自分を探しているのか。
その理由だ。
盗丸は静かに歩き出した。
向かう先は私物保管庫。
◇
所長室。
ノックもせず楓が入る。
「なによ?」
金剛は葉巻を咥えたまま窓の外を眺めていた。
「なんかよ」
「おめぇのツレだから出してくれって」
「刑務官の娘が騒いでるらしいが」
ゆっくり振り返る。
「知り合いか?」
楓は即答した。
「知らないわよ」
橋本恵。
確かに同級生だ。
だが友達ではない。
助ける理由もない。
金剛は鼻で笑った。
「そうか、ならいい」
それだけだった。
楓は少し考えてから聞いた。
「あの檻に入ってる人たちはどうするのよ?」
金剛は葉巻の煙を吐く。
そして突然言った。
「十二年」
「は?」
「なんの数字か分かるか?」
楓は眉をひそめる。
「なによ急に」
金剛は椅子に深く腰掛けた。
「おれがこの刑務所に入れられてた期間だ」
沈黙。
「最初はな」
「毎日外に出たかった」
「毎日キレてた」
「毎日誰か殴ってた」
苦笑する。
「でも十二年もいるとな、色々諦める」
葉巻の先が赤く光る。
「二度と手に入らねぇもんをな」
楓は黙って聞いていた。
「それはあんたがそれだけのことをしたんじゃないの?」
金剛は怒らない。
むしろ笑った。
「そうかもな」
そして突然聞く。
「楓、親は好きか?」
楓は顔をしかめた。
「急になによ」
「好きか嫌いかだ」
楓は少し考えた。
そして答える。
「あんなのクソよ、どうでもいいわ」
金剛は笑った。
心底楽しそうに。
「お前はやっぱりいいなぁ」
楓は嫌そうな顔をする。
「なによそれ」
「盗丸の件が片付いても」
金剛は言った。
「ここにいろよ」
「不自由はさせねぇぜ」
楓は即答する。
「まぁ正直悪くないけど」
「仲間もいる。だから帰る」
金剛は笑った。
その答えも気に入ったらしい。
楓は少しだけ迷った。
そして聞く。
「なんでそんなに盗丸探してるのよ」
金剛の表情が変わる。
笑顔が消える。
「あいつはな」
低い声。
「おれの“ 宝物”を持っていった」
楓は目を瞬く。
「宝物?」
「バックレたことなんてどうでもいい」
「好きにすりゃいい」
葉巻を灰皿に押し付ける。
「だがな、死刑執行が決まって」
「もう二度と手元に戻らねぇと諦めてたもんを」
拳が握られる。
「あのバカは持っていきやがった」
楓はごくりと唾を飲んだ。
「な、なにを持っていったの?」
◇
地下。
私物保管庫。
盗丸は埃だらけの資料をめくっていた。
「金剛」
「金剛……」
そして見つける。
【金剛堕落】
没収品一覧。
指を走らせる。
財布。
タバコ。
そして。
盗丸の目が止まった。
「……時計?」
「時計だ」
金剛が言った。
◇
場面は変わる。
地下。
さらに奥。
ホームレス達の集落。
今日の収穫報告が行われていた。
段ボール。
空き缶。
毛布。
壊れたラジオ。
様々なガラクタ。
その中に。
一つの懐中時計。
ホームレスの男が持ち上げる。
「今どき懐中時計かよ」
「安物だな」
カチカチと振る。
動かない。
「しかも壊れてる」
「時間も動かねぇ」
肩をすくめた。
「誰か欲しいやついるか?」
沈黙。
誰も手を挙げない。
当然だった。
価値がない。
そう思われた。
「おれがもらう」
低い声。
全員が振り向く。
そこにいたのは。
ホームレスの王。
天涯帝。
「天涯さん?」
男が驚く。
「そいつ安物ですよ?」
「時計としての価値もありません」
天涯は答えない。
懐中時計を受け取る。
ゆっくり開く。
中には一枚の写真。
女性の写真だった。
天涯はしばらく見つめる。
そして小さく笑った。
「バカが」
男達は首を傾げる。
天涯は写真から目を離さない。
「物の価値ってのはな」
静かな声。
「値段で決まるんじゃねぇ」
写真の女性を見つめながら呟く。
「“ 想い”で決まるんだ」
パチン。
懐中時計が閉じられた。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”




