48話 決めたよ
神様サバイバル9日目
驚く楓を静かにさせて、
改めて盗丸が。
「助けに来たのに、なにくつろいでんだよ……」
盗丸は頭を抱えた。
目の前。
炭酸ジュース。
クッキー待ち。
見張り一人。
手錠なし。
檻なし。
どう見ても捕虜の待遇ではなかった。
楓はむしろ快適そうだった。
「だって仕方ないじゃない」
炭酸を飲みながら言う。
「金剛ってやつに気に入られたのよ」
「帰れそうだったんだけど」
「あんたの名前出したら帰してもらえなくなったの」
盗丸の顔が引きつる。
「……おれの名前出したのか?」
「出した」
「なんで?」
「なんとなく」
盗丸は天を仰いだ。
「終わった……」
深いため息。
「おれが一緒にいるのバレてる可能性あるじゃねぇか……」
楓は首を傾げる。
「そんなにまずいの?」
「まずいに決まってんだろ」
盗丸は声を潜めた。
「なんで?」
楓は素朴に聞いた。
「金剛の大事なもの盗んだんでしょ?」
「返せば許してくれるんじゃない?」
盗丸が顔をしかめる。
「待て待て」
「たしかに脱獄するとき」
「囚人の私物保管庫からありったけ盗んだ」
「でもよ、どれが金剛のもんかなんて見てねぇんだ」
「価値ありそうなもんだけ持ってった」
楓が嫌な予感を覚える。
「それで?」
盗丸は目を逸らした。
「価値なさそうなもんは捨てた」
沈黙。
楓の脳裏に浮かぶ。
盗丸って言ったかぁ?
あの時の金剛。
殺気。
空気。
目。
思わず言葉が漏れた。
「あんた……」
「殺されるわよ?」
盗丸は頭を抱えた。
「あぁくそっ!」
「だから来たくねぇって言ったんだ!!」
◇
古民家。
夢見は腕時計を眺めていた。
金色の時計。
楓の占いをした代金で貰った。
綺麗だった。
だが。
針は動かない。
ずっと0時を指している。
「ん〜……」
時計を振る。
変化なし。
「これ貰ったんですけどねぇ」
「ずっと0時なんですよねぇ」
電気が消えた日。
世界中の時計は死んだ。
腕時計。
掛け時計。
目覚まし時計。
全部。
時間を刻むことをやめた。
それでも。
個人モニターだけは動いている。
残り人類の%。
防衛キーワード。
神様通話。
時間。
神が用意したものだけが生きていた。
「便利なんだか不便なんだか」
夢見は苦笑した。
ふと視線を向ける。
庭。
ピエロが何かを組み立てている。
巨大な筒。
地面に固定されている。
一本。
二本。
三本。
どんどん増えていく。
夢見が近づく。
「ピエロさんなにしてるんですぅ?」
ピエロが振り向く。
紙を取り出した。
【敵が攻めてくるときに】
【攻撃したい】
【大砲みたいなやつ】
夢見は目を丸くした。
「ふぇ〜」
「ほんとに大砲みたいですねぇ」
ピエロは頷く。
花火筒。
本来は空へ打ち上げるもの。
だが今は違う。
古民家を守る武器だ。
夢見は空を見上げた。
青空。
雲。
平和そうな景色。
なのに世界は壊れている。
「花火見たいなぁ……」
ぽつりと呟く。
ピエロの手が止まった。
ほんの一瞬だけ。
そして何事もなかったように作業へ戻る。
◇
刑務所近く。
空き家。
不知火。
的場。
廃人。
三人は息を潜めていた。
盗丸の潜入から一時間ほど。
不知火が窓の外を見ながら言う。
「どれくらい経った?」
「一時間ってとこかな」
廃人が答える。
的場は笑った。
「いいなぁ刑務所」
「脱獄するやつはいても」
「自分から戻るやつは初めて見た」
廃人も少し笑う。
そして不知火を見る。
「そういえばさ、焔くん」
「撃たれた傷、
ほんとに塞がってるんだよね?」
不知火は服を少しめくった。
本来なら残っているはずの傷。
何もない。
綺麗な皮膚だけ。
「あぁ、最初は気付かなかった」
「痛感も無いしな」
傷があっても。
痛くない。
だから忘れていた。
「でも」
黒闇の顔を思い出す。
老け込んだ顔。
塞がった傷。
「黒闇を見て気付いたんだ」
「あいつの傷が目の前で塞がった、そして老けた」
廃人が顎に手を当てる。
「なるほどね」
「神様通話、寿命を取られる」
「でも身体だけ時間が進むなら、傷も治る」
考え込む。
「そういう使い方もできるのか……」
不知火は黙っていた。
寿命を削る。
簡単に使っていいものじゃない。
だが。
生き残るためなら。
選ぶ者も出るだろう。
沈黙。
その空気を破ったのは的場だった。
「おれさ」
二人が見る。
的場が立ち上がった。
「防衛キーワード考えたんだけど」
「設定してもいいかな?」
廃人が眉を上げる。
「なにに?」
不知火も見る。
的場は笑った。
迷いがない。
まっすぐだった。
「“ 正義”」
沈黙。
廃人が固まる。
不知火も言葉を失う。
「正義は守っとかねぇとさ」
的場は笑っていた。
不知火は答えない。
廃人も黙っている。
誰も否定しなかった。
誰も肯定もしなかった。
“ 正義”。
それは守るものなのか。
人によって違うものなのか。
黒闇にも正義はあった。
ピエロにもあった。
金剛にもあるのかもしれない。
不知火は窓の外を見た。
刑務所の方角。
楓は今頃何をしているだろう。
無事だろうか。
その時。
個人モニターが淡く光る。
防衛キーワード。
設定可能。
不知火は画面を見つめたまま。
しばらく動かなかった。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”




