46話 指切りげんまん
神様サバイバル9日目
0時。
神が現れた。
『やぁ』
聞き慣れた声。
誰も驚かない。
驚く元気も残っていなかった。
神は楽しそうに続ける。
『みんなさ』
『簡単に約束するよね』
静かな夜。
神の声だけが響く。
『守れないのに』
『すぐ忘れるのに』
『未来の自分が守る保証なんてないのに』
少し笑う。
『なら最初からするなよ』
間。
『てことで』
『神様サバイバル九日目!』
『今日消滅するのは“ 約束”』
誰かが息を呑む。
神は構わず続けた。
『みんな神に感謝してね』
ぷつり。
声が消えた。
◇
古民家。
静寂。
不知火は天井を見ていた。
何かがおかしい。
胸の奥。
引っ掛かる。
何か大事なことを忘れている気がする。
でも。
何を忘れたのか分からない。
楓。
刑務所。
救出。
違う。
もっと前。
もっと些細なこと。
思い出せない。
不知火は眉をひそめた。
「……なんだ?」
隣では盗丸も首を傾げている。
「なんか気持ち悪ぃな」
的場は欠伸をした。
「腹減った」
こいつだけ平常運転だった。
◇
同じ頃。
刑務所。
所長室。
ガンッ!!
机が吹き飛んだ。
「金剛さん!」
囚人たちが慌てる。
金剛が暴れていた。
椅子を蹴り飛ばす。
壁を殴る。
額に血管が浮いていた。
桐山が近づく。
「どうしたんですか?」
返事はない。
また机を殴る。
「金剛さん!」
桐山が声を張る。
金剛が振り返る。
目が血走っていた。
「それが分からねぇから問題なんだろうが!!」
怒鳴り声。
部屋が静まり返る。
金剛自身も困惑していた。
何かを失った。
そう思う。
だが。
何を失ったのか分からない。
胸の奥が、妙にざわついていた。
◇
楓は刑務所内を歩いていた。
昨日とは違う服。
見張り役付き。
とはいえ、手錠も縄もない。
妙な扱いだった。
廊下を歩く。
鉄格子。
檻。
その中には元刑務官たち。
そして家族。
不安そうな顔。
疲れ切った顔。
皆、自由に歩く楓を見ていた。
「なんだあいつ」
そんな視線。
楓は気にしない。
すると。
「あっ!」
女の声。
「楓!」
楓が振り返る。
下着姿の女。
どこか見覚えがある。
「……誰?」
女が固まる。
「ひどっ!」
「橋本よ!」
楓は思い出した。
同じクラス。
橋本恵。
「あぁ」
橋本は鉄格子にしがみつく。
「楓!」
「あんたなんでそんな自由に歩いてるのよ!」
「てかその服!」
目を見開く。
「私の服じゃない!?」
楓は自分の服を見る。
「あぁ」
納得した。
「これあんたのだったの」
昨日夕方。
見張り役の囚人が。
「ちょうど良さそうなのがあった」
と言って持ってきた服だった。
橋本は半泣き。
「返してよ!」
「いや今着てるし」
楓は即答。
橋本がさらに必死になる。
「楓!」
「お願い!」
「あんた囚人と知り合いなんでしょ!?」
「親のコネでも何でもいい!」
「出して!」
「友達だって言って!」
楓は少し考える。
橋本。
橋本恵。
クラスメイト。
破られた制服。
陰口。
笑い声。
橋本はいつも中心にいた。
楓は冷めた目で見た。
「橋本……だっけ?」
橋本が頷く。
「そう!」
「そうよ!」
「同じクラスでよく話して――」
楓が遮った。
「悪いけど」
静かな声。
「それはできない」
橋本の顔が引きつる。
「なんで!?なんでよ!!」
楓は振り返らない。
「嘘つきは泥棒の始まり」
歩き出す。
「なんでしょ?」
橋本の顔が歪んだ。
「待って!」
楓は止まらない。
「楓!!」
絶叫。
「悪魔!!」
「くそビッチ!!」
「死ね!!」
楓は無視した。
見張り役へ言う。
「新しい服用意して」
「この服は捨てといてね」
囚人が吹き出した。
◇
数時間前。
刑務所。
廊下。
金剛が立ち止まる。
ゆっくり振り返った。
「あ?」
楓が一瞬だけ息を呑む。
「お嬢ちゃん」
低い声。
「今」
一歩近づく。
「盗丸って言ったか?」
凄まじい圧。
楓の背筋に冷たい汗が流れる。
「え……えぇ」
少しだけ声が上擦った。
「囚人だったって聞いたから」
「知り合いかなって」
金剛は数秒黙る。
そして。
「探してたんだ」
ぽつりと言った。
「盗丸の居所をな」
楓は嫌な予感がした。
金剛は歩き出す。
「悪いなお嬢ちゃん」
振り返らないまま言う。
「今日は泊まりだ」
楓は何か言い返そうとして。
やめた。
本能が告げていた。
今は逆らうなと。
見張り役の囚人が付き。
楓はそのまま刑務所に泊まることになった。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”




