34話 話せない
神様サバイバル7日目
【人類残り70%】
医楽の診断は早かった。
「栄養失調じゃ」
ピエロのまぶたを開き、
脈を見て、
腕を確認して。
それだけで判断した。
「脱水もある」
「しばらく寝かせる」
「点滴打っとく」
誰も異論はなかった。
白塗りのまま眠るピエロは、
妙に不気味だったが。
「……で」
不知火が夢見を見る。
「この人は誰?」
「占い師!」
楓が即答。
夢見が、ぺこりと頭を下げる。
「どうも」
「夢見羽衣と申します」
不知火は軽く会釈した。
的場も普通に受け入れている。
この世界になってから、
変な人間が増えすぎて、
“占い師の老婆”程度ではもう驚かない。
⸻
夜22時。
古民家のリビング。
鍋がぐつぐつ音を立てている。
山菜。
木の実。
そして。
松茸。
香りだけでテンションが上がる。
「やば……」
楓が目を輝かせる。
「文明の香りする……」
「大げさだろ」
盗丸が笑う。
「いや、これは分かる」
廃人も頷いた。
医楽は一度ピエロの様子を見にいく。
夢見はちゃっかり上座寄り。
「そういえば」
不知火が夢見を見る。
「黒闇が来たって話だったな」
夢見が頷く。
「えぇ」
「怖かったですよぉ」
肩をすくめる。
「言葉を間違えてたら、殺されてたかもしれません」
盗丸が鍋をつつきながら言う。
「黒闇の噂は聞いてる」
「脱走してから数日でな」
楓が嫌そうな顔。
「どんな?」
「女子供メインで拉致」
空気が変わる。
「男は?」
不知火。
「奴隷」
盗丸が淡々と言う。
「半殺し」
「下手すりゃ殺される」
楓と夢見が同時に顔をしかめる。
「最悪……」
「怖いですねぇ……」
不知火が考える。
「……なぜ女子供ばかり」
盗丸が肩をすくめる。
「噂だが」
「女は孕ませる」
「子供は洗脳」
「自分の王国作るとかなんとか」
「きもっ!!」
楓。
「きもっ!!」
夢見。
ハモった。
一瞬。
静かになる。
楓が夢見を見る。
夢見も楓を見る。
「……おばあちゃん」
「気が合うね」
楓が笑う。
夢見が固まる。
「あ」
しまった、みたいな顔。
廃人と盗丸がじっと見る。
「……」
「……」
夢見が咳払いする。
「気持ち悪いものは気持ち悪いですからねぇ」
強引だった。
「てか」
楓が鍋をよそいながら言う。
「あのピエロどうするのよ」
「やばいやつじゃないの?」
廃人も頷く。
「普通に怖い」
不知火は首を振った。
「いや」
「多分、悪いやつじゃない、黒闇の車を追ってた」
「それに、敵意は感じなかった」
「ん?」
盗丸が的場を見る。
「なんだそれ?」
的場が満面の笑みだった。
「え?」
右手。
そこに。
ダイナマイト。
「ピエロ身体検査したら出てきた」
にこっ。
……沈黙。
楓が絶叫。
「思いっきりやばいやつじゃないのよ!!」
廃人が前のめりになる。
「え、本物?」
的場が鼻を近づける。
「火薬の匂いはする」
的場の目が輝く。
「試していい?」
「ひぃぃ!!」
夢見が素で引く。
「やめとけ」
不知火が即止めた。
「古民家吹っ飛ぶ」
「え〜」
残念そうな的場。
そのとき。
ガラッ。
全員が振り向く。
ピエロ。
立っていた。
「きゃあああ!!」
楓が飛び上がる。
医楽も一緒に出てくる。
「まだ安静にしとれと言っても聞かん」
ピエロは全員を見る。
順番に。
不知火。
的場。
楓。
廃人。
盗丸。
夢見。
医楽。
じっと。
敵ではないと判断したのか、
少しだけ肩の力が抜けた。
不知火が前に出る。
「聞きたい」
ピエロを見る。
「なぜ黒闇の車を追っていた?」
ピエロが困る。
声を出さない。
身振りで伝えようとして、
諦めた。
紙。
ペン。
要求する。
盗丸がすぐ投げる。
「話せねぇみたいだな」
ピエロは書く。
迷いなく。
【知り合いの家族が拉致された】
【助けにいく】
【治療ありがとう】
それだけ。
短い。
紙を置く。
そして。
立ち去ろうとする。
「待て」
不知火が止めた。
ピエロが振り返る。
「一緒に行く」
沈黙。
的場が即反応。
「いいね!」
「ダイナマイトって本物?」
「作れるの?」
目キラキラ。
ピエロ。
少し間。
書く。
【作れるよ】
「マジ!?」
的場大興奮。
楓が引く。
「増えちゃいけないタイプの仲間増えた」
不知火が続ける。
「俺たちも黒闇とは因縁がある」
「女子供の拉致も放っておけない」
ピエロは少しだけ考えた。
そのとき。
医楽。
「まず飯じゃ」
鍋を置く。
「倒れかけのやつが戦えるか」
ピエロを見る。
楓が恐る恐る。
松茸を差し出す。
「……食べる?」
ピエロが見る。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
笑ったように見えた。
受け取る。
静かに食べる。
夢見が時計を見る。
「でも、もう夜ですよぉ」
盗丸も頷く。
「今動くのはアホだ」
「暗いし危険だ」
不知火が頷く。
「行くなら朝」
的場も珍しく素直だった。
「日の出と同時だな」
ピエロは静かに頷いた。
窓の外。
夜は深い。
黒闇の車は、
もうどこにも見えなかった。




