32話 分担
神様サバイバル7日目
朝。
古民家の食卓。
並んでいるのは、水とスナック菓子。
木の実が少し。
あまりにも寂しい。
「……BBQ……」
楓がぽつりと呟く。
「肉……」
「一昨日の夜まであったのに……」
盗丸が笑う。
「姉ちゃん、まだ言ってんのか」
「だって楽しみにしてたのよ!!」
「知らねぇよ」
「てかよ」
盗丸が木の実をひとつ投げる。
「これでも生きられる」
「人間、案外しぶてぇぞ」
楓が嫌そうな顔をする。
「いやよそんな生活」
「23日あるのよ!?」
その言葉で、少しだけ空気が変わる。
残り23日。
まだ長い。
不知火が口を開く。
「今後、単独行動は禁止だ」
全員が見る。
「地図がない」
「土地勘のない場所に行ったら、戻れない」
楓が頷く。
「たしかに」
「昨日、遠出とか行ってたら終わってたわ」
「知らない道で迷子は洒落にならん」
盗丸も同意する。
「しかも今の世界、迷った先で誰に会うかわからねぇしな」
「……食料はどうする」
的場が聞く。
盗丸が肩をすくめた。
「木の実」
「山菜」
「食えるやつなら判断できる」
「マジ?」
楓が少し目を輝かせる。
「あと」
楓が指を立てる。
「卵!」
「ニワトリの卵なら肉じゃないじゃん!」
「牛乳もいけるか」
不知火が頷く。
的場が言う。
「少し距離あるけど、牧場に心当たりある」
「じゃあ」
役割が決まる。
盗丸と楓。
山。
木の実、山菜。
不知火と的場。
牧場。
卵、牛乳。
廃人はニヤニヤしていた。
「おれ留守番でいい?」
「防衛キーワード考えたい」
「絶対攻略してやる」
完全に楽しんでいる。
医楽が酒瓶片手に笑う。
「わしも残る」
「坊主ひとりになるしの」
不知火と的場を見る。
「お前達、痛くなくても傷は傷だ」
抗生物質を差し出す。
「化膿したら死ぬぞ」
「……はい」
二人は素直に飲んだ。
⸻
数時間後。
山。
「ちょっと泥棒!!」
楓が叫ぶ。
「すごいじゃない!!」
「これ松茸じゃない!?」
盗丸が笑う。
「おぉ、姉ちゃんナイス」
「今日は豪勢だな」
袋の中。
木の実。
山菜。
そして松茸。
かなりの収穫だった。
「やるじゃない」
「泥棒ってサバイバルもできるのね」
「泥棒関係ねぇだろ」
「褒めてんのよ」
帰り道。
楓の足が止まる。
「……あ」
小さな建物。
【夢見占い館】
古びている。
でも、妙に雰囲気がある。
「占いかぁ」
「やってみたいな」
盗丸が即答する。
「やってねぇだろ」
「こんな世の中だぞ」
楓がじっと建物を見る。
その顔を見て。
盗丸がため息をついた。
「……しょうがねぇな」
「中だけ見るぞ」
ガラッ。
「お〜い」
「やってるか〜?」
少しして。
奥から老婆が出てきた。
「はいはい」
「いらっしゃいませ」
夢見羽衣。
内心、少し驚く。
(……あれ?)
(黒闇とかいう人じゃない)
楓が前に出る。
「おばあちゃん!」
「占いできるの!?」
目がキラキラしていた。
夢見が微笑む。
「えぇ、できますとも」
「ただ……」
少し申し訳なさそうに。
「お代は先にいただけますか」
「こんな世の中ですから」
「わかった!」
楓が即答。
「よし、盗丸、出しなさい!」
「おいおい」
盗丸が服の中をごそごそする。
取り出したのは、金の腕時計。
「これでいいか?」
夢見が受け取る。
「えぇ、十分です」
「ではお嬢さん」
「何を見ましょう?」
楓が考える。
「ん〜」
「これからどうしたらいいか、みたいな感じ?」
「わかりました」
水晶。
夢見が静かに見つめる。
数秒。
そして。
ぴたりと止まった。
楓を見る。
じっと。
表情が変わる。
楓の笑顔が少し引く。
「……なに?」
夢見がゆっくり口を開いた。
「お嬢さん」
一拍。
「死相が見えますよ」
⸻
同じ頃。
牧場。
結果は、最悪ではなかった。
牛はほとんど奪われていた。
ニワトリも少ない。
牛乳は無理。
けれど。
卵を10個、譲ってもらえた。
「ありがたいな」
不知火が言う。
「こんな状況だしな」
的場が卵を確認する。
帰り道。
自転車。
風が冷たい。
そのとき。
一台の車が通った。
不知火の目が止まる。
「……あれ」
的場も見る。
「あぁ?」
「黒闇の……車?」
特徴が一致していた。
その直後。
後ろ。
足音。
振り向く。
ピエロ。
あのピエロだった。
全力で走っている。
息を切らしながら。
必死に。
車を追っている。
不知火たちの前で。
力尽きた。
倒れる。
「おい!」
不知火が駆け寄る。
的場も自転車を投げる。
ピエロの手。
何かを握っていた。
小さな風船。
犬の形。
不知火と的場が顔を見合わせる。
ピエロは、震える手で。
黒闇の車が去った方向を、指差した。




