29話 神は嘘つきません
神様サバイバル7日目
0時。
空が黒く染まる。
もう見慣れたはずなのに、
あの光景だけは慣れなかった。
神が映る。
『やぁ』
いつもの、軽い声。
『神だよ』
『今日も元気かな?』
誰も答えない。
『さて』
『7日目だね』
『約束してたよね?』
『特典』
一拍。
『その前に』
神が笑う。
『今日消すもの、発表しようか』
嫌な沈黙が落ちる。
『今日消えるのは――』
間。
『“地図”』
「……は?」
楓が声を漏らす。
『じゃあね〜』
あまりにも軽く。
それだけ言って、神は消えた。
静寂。
「……地図?」
盗丸が眉をひそめる。
「なんだそりゃ」
不知火がすぐに立ち上がった。
紙を引っ張り出す。
ペンを握る。
「え?」
楓が見る。
不知火は紙に線を引こうとして……止まった。
「……市」
呟く。
「いや……県……?」
線が引けない。
「国……」
手が止まる。
日本列島。
頭に浮かばない。
「……なんだ、これ」
楓がスマホを取り出す。
地図アプリ。
開く。
真っ白だった。
「……出ない」
何度やっても同じ。
「ちょっと待って」
「じゃあ車」
古民家の外。
楓が車に飛び乗る。
カーナビ。
真っ暗なマップ画面。
位置だけは点である。
でも。
道がない。
地名もない。
「……終わってる」
楓が吐き捨てる。
戻る。
「知らない場所行けないじゃん!」
廃人が腕を組む。
「……地図そのものが消えたんだな」
「でも」
盗丸が言う。
「ここからマンション戻れるぜ?」
「あ」
楓が止まる。
不知火も顔を上げる。
「……土地勘か」
廃人が整理する。
「記憶してる場所には行ける」
「でも」
「知らない場所には行けない」
「戻れない」
「案内できない」
「……物流終わるな」
盗丸が呟く。
「配送も救助も無理」
「軍も終わりだろ」
的場が低く言う。
「地図なしで作戦とか無理だ」
沈黙。
じわじわ怖くなる。
そのとき。
空が、また光った。
「……え?」
神が戻ってくる。
『あ、そうだ』
軽い。
『特典忘れてた』
ムカつくくらい軽い。
『約束してたよね?』
『神様通話』
それぞれの前に、
小さなスクリーンが浮かぶ。
楓が息を呑む。
「……ほんとに」
『ルール説明するね』
神が笑う。
『10秒につき、寿命1年』
『安いでしょ?』
「高いわよ!」
楓が即ツッコむ。
神は無視した。
『通話は神と1対1』
『周りの声は入らない』
『周りに神の声も聞こえない』
『つまり完全個室』
『あ、もちろん』
少し笑う。
『途中で寿命尽きたら死ぬよ?』
沈黙。
『あと』
神が指を立てる。
『不公平にならないように』
『神は嘘をつきません』
一拍。
『神に誓って』
少し間。
『……なんてね』
消える。
静寂。
誰もすぐ喋らなかった。
やがて。
廃人が小さく呟く。
「……10秒で1年」
指を折る。
「1分で6年」
「10分で60年」
楓が青ざめる。
「……高すぎない?」
「必要なことだけ聞くべきだな」
的場が言う。
盗丸が肩をすくめる。
「おれはパス」
「寿命とか高級品すぎる」
「質問、確認しよう」
不知火が言う。
紙を広げる。
書く。
【神様サバイバルの目的】
【防衛キーワードの詳細】
【“命”を設定した場合どうなるか】
【報酬】
【30日後】
【神の正体】
「……全部は無理だな」
廃人が言う。
「寿命足りない」
「優先順位いる」
時間が過ぎる。
議論。
修正。
削る。
時計。
0:20
沈黙。
「……おれがやろうか?」
的場が言った。
全員が見る。
「こういうの、向いてる気がする」
笑う。
けれど、不知火は首を振った。
「いや」
静かに。
「俺がやる」
「不知火」
楓が見る。
心配そうに。
廃人も何か言いたげだった。
「大丈夫だ」
不知火は答える。
「任せてくれ」
その声には、迷いがなかった。
スクリーン。
中央。
【神様通話】
ボタン。
深く息を吸う。
押す。
コール音はなかった。
即座に、繋がる。
景色が変わる。
真っ黒な空間。
どこまでも黒い。
足場だけがある。
そして。
そこにいた。
神。
笑っている。
まるで、
ずっと待っていたみたいに。
『やぁ』
声が響く。
『不知火焔』
名前を呼ばれる。
心臓が一度、大きく鳴る。
神が、首を傾げた。
『人生、楽しんでるかい?』
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”




