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28話 正義の引き金

神様サバイバル6日目

夕方。


古民家の空気は、思ったより穏やかだった。

楓がテーブルに頬杖をつきながら、不満そうに呟く。


「……BBQ、どうすんのよ」


肉が消えた。

昨日まで当たり前にあったものが、跡形もなく。


冷蔵庫の中のソーセージも、ベーコンも、ジャーキーも。


全部。

消えていた。


「楽しみにしてたのに……」


本気で悔しそうだった。

盗丸が笑う。


「お嬢ちゃん、贅沢だな」


「木の実あるだけマシだろ」


テーブルには、


* 水

* スナック菓子

* 缶詰の残骸

* 盗丸が拾ってきた木の実


生きるだけなら、しばらく困らない。

満足は、しないが。


「的場なら肉とか隠し持ってそうだったのにね」


楓のその一言で、空気が少し変わった。

沈黙。

不知火が顔を上げる。


「……的場」


誰も口にしていなかった名前。

けれど、全員ずっと引っかかっていた。


盗丸が首を傾げる。


「誰だ?」


廃人が答える。


「ヤバい武器オタク」


「正義感強すぎるやつ」


楓が続ける。


「黒闇ってやつのアジトから逃げるとき、一人残ったの」


盗丸の表情が少し変わる。


「……あぁ?」


「黒闇から?」


「そりゃ無茶だ」


不知火が立ち上がる。


「……見に行く」


「え?」


楓が顔を上げる。


「不知火?」


「一回、マンションを確認する」


「医楽」


不知火が振り向く。


「留守番頼めるか」


医楽は酒瓶を揺らした。


「構わん」


「わしはじじいだ」


「長距離歩くのは勘弁じゃ」


盗丸が肩をすくめる。


「じゃ、おれも行くか」


「土地勘あるしな」



外。


夕暮れ。

オレンジ色の光が街を染めていた。


けれど、人の気配は少ない。

あれだけ暴れていた囚人たちの姿も見えない。


「逆に不気味ね」


楓が呟く。

そのとき。


「……あ」


廃人が足を止めた。

前方。

交差点。

いた。


ピエロ。

白い顔。

赤い口。

派手な衣装。


誰もいない道路の真ん中で、

ムーンウォークをしている。


何もない空間に向かって、

風船芸。


パントマイム。

見えない壁。


誰に見せるでもなく。

淡々と。


不知火が足を止めた。


「……あいつ」


一歩、前に出る。


「ちょ、待て」


盗丸が腕を掴む。


「やめとけ」


「なんでだ」


「見りゃ分かるだろ」


盗丸が顔をしかめる。


「完全にイカれてる」


「関わるな」


楓も即答。


「絶対やだ」


「怖い」


廃人も頷く。


「関わるメリットゼロ」


不知火はしばらく見ていた。

ピエロは、一度もこちらを見なかった。

ただ、踊っていた。


マンション。


変わっていなかった。

不知火の部屋。

人の気配なし。


「……いない」


「じゃあ」


廃人が顔を上げる。


「田中一家」


隣。


扉は開いていた。

中から声。

怒鳴り声。

物音。


不知火たちは駆け込んだ。

そして。

止まる。

床。


田中が押さえつけられていた。

その上に、的場。

銃口が田中の額に押し当てられている。


「っ――」


楓が息を呑む。


「的場!!」


不知火の声。

的場の肩が震える。


振り返る。

目が合う。


数秒。


そして。


「……不知火」


楓の顔が明るくなる。


「生きてた!!」


「しぶとっ!!」


廃人も息を吐く。


「ゾンビかよ……」


けれど。

不知火だけは田中を見ていた。


「……なぜだ」


低く聞く。


「なぜ田中さんに銃を向けている」


沈黙。


田中は顔を逸らす。

的場が言った。


「帰ってきたんだ」


静かに。


「痛みもなかったし、身体も動いた」


「マンションに戻った」


「そしたら」


少しだけ、声が変わる。


「聞こえたんだよ」


泣き声。


「やめて」


女の声。

子供の声。

助けを求める声。


「覗いた」


「そしたら」


田中の妻。

娘。

泣いていた。


そして。

田中が殴っていた。


「日常的らしい」


的場が言う。


「ずっと」


「この世界になる前から」


沈黙。


「だから」


的場の手に力が入る。


「決めた」


「殺すべきだって」


楓が息を呑む。

盗丸は黙る。

不知火が一歩前へ。


「的場」


「人は、人を殺してはいけない」


的場が笑った。


乾いた笑い。


「……それが悪でもか?」


真っ直ぐ。

不知火を見る。


答えは、簡単じゃない。

けれど。


「……それでもだ」


短く。

不知火は言った。


一拍。


「それに」


視線を逸らさない。


「俺たちは、お前が人を殺すところを見たくない」


沈黙。

長く。


やがて。

的場が目を閉じた。


そして。

ゆっくり銃を下ろす。


「……分かったよ」


力が抜ける。

田中の妻が泣きながら的場に頭を下げる。

娘も。

何度も。


「ありがとうございます……!」


「ありがとうございます……!」


田中は何も言えなかった。

その後。

彼らがどうなったかは、誰も知らない。



帰り道。


夜。

不知火は、ふらつく的場に肩を貸していた。


「……で」


廃人が聞く。


「どうやって生き延びた?」


的場が笑った。


「変なホームレスに拾われた」


「は?」


「天涯ってやつ」


空気が変わる。


そして。

古民家に戻り。

的場は、全部話した。


地下の王。

ネズミとカラス。

政府。

巨大シェルター。

国を捨てた連中。


誰も、すぐには喋れなかった。

時計。

23:59


静寂。


その瞬間。

空が黒く染まった。

スクリーン。

神の顔。


『やぁ』


笑っている。


『神だよ』


『今日も元気かな?』


誰も答えない。


『じゃあ』


『7日目、始めようか』

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― 新着の感想 ―
ぐろさぁぁーん!! 一気に…一気に読み進めてしまいました! 続きっ!続きはいずこ!?(ガサゴソ) 神様サバイバル、めちゃくちゃ面白いです! 最初は世界から何かが30個消えるって聞いても、え?30個何…
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