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24話 食べたい

会議は、そこで一度区切られた。

紙の上には、答えのない問いだけが並んでいる。


「……疲れた」


楓が言う。

そのまま立ち上がる。


「シャワー浴びてくる」


誰も止めない。

楓はそのまま奥に消える。


少しして。

水の音が流れ始める。


「……いいな」


廃人がぽつりと言う。


「文明」


盗丸が笑う。


「特権だな」


不知火は何も言わない。

ただ、その音を聞いている。


しばらくして、楓が戻ってくる。

髪はまだ少し濡れている。


着替えている。

さっきよりも、少しだけ人間らしい顔だった。


「……あんた達もシャワー浴びなさいよ」


開口一番、それだった。


「臭うわよ」


「無理だろ」


廃人が即答する。


「俺ら電気使えないんだぞ」


盗丸が肩をすくめる。


「お嬢ちゃんがシャワー持ちしてくれるなら、順番に入るけどな」


「絶対嫌」


即答だった。

間もなく。


「……はぁ」


楓がため息をつく。


「湯船にお湯溜める」


振り返る。


「それで身体洗いなさい」


一拍。


「感謝しなさいよ」


「神かよ」


廃人が言う。


「違うわ」


楓が言い返す。


「女神よ」


盗丸が笑う。


「ありがたく使わせてもらうわ」


少しだけ、空気が緩む。


そのあと。

楓と盗丸が持ち帰った袋を広げる。


缶詰。

スナック菓子。

ジャーキー。

水。


最低限。


「……たまには肉でも食べたいな」


楓が言う。

ぽつりと。

盗丸がすぐに乗る。


「いいね」


「BBQでもするか」


廃人も笑う。


「精肉店、まだ残ってるかもな」


「じゃあ明日調達よろしく」


軽い会話。

いつも通りみたいな。


「……そんな贅沢言ってる状況じゃないだろ」


不知火が言う。

現実を戻す。


でも。

誰も完全には戻らない。


少しだけ。

“普通”を思い出している。



夜。


それぞれが、少しずつ身体を休める。

湯気の残る部屋。

濡れたタオル。


ほんの少しだけ、

人間らしい時間だった。


不知火は飲み物を口にする。

味は、よく分からない。

それでも、喉を通る。


そのとき。

時計が、0時を指す。


空気が変わる。

全員が顔を上げる。


空が、黒く染まる。

スクリーン。


『やぁ、神だよ』


軽い声。


『痛みがなくなってどうかな?』


間。


『快適じゃない?』


誰も答えない。


『歳を取るとさ』


少しだけ楽しそうに。


『肩が痛い、腰が痛いって』


『人間って不便だよね』


医楽が、ふと肩を回す。


「……」


小さく呟く。


「確かに、軽いな」


誰もそれを笑わない。


『でさ』


神が続ける。


『今日消すものだけど』


一拍。


『生き物って大事だよね』


『犬や猫は可愛がるよね?』


『じゃあさ』


少しだけ声が弾む。


『なんで牛や豚や鳥や魚は食べちゃうの?』


沈黙。


『可哀想じゃん』


誰も、何も言わない。


『だからさ』


軽く言う。


『今日消すのは』


一瞬。

世界が止まる。


『“肉”』


言葉だけが、残る。


『あ、安心して』


すぐに続く。


『身体を構成してる肉が消えるわけでも』


『動物が消えるわけでもないよ』


間。


『ただ──』


ほんの少しだけ、笑う気配。


『食べられなくなるだけ』


沈黙。


『じゃあまたね』


画面が消える。


静寂。

誰も、すぐには動かなかった。

楓が、ぽつりと言う。


「……は?」


その一言が、

やけに現実的だった。

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