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25話 本当のこと

神様サバイバル6日目

夜中。


最初に気づいたのは、匂いだった。


「……ん?」


盗丸が鼻を鳴らす。

古民家の居間。


0時前、楓が「肉食べたい」と言った流れで、盗丸が悪ノリしながら炙っていたジャーキー。

その匂いが、消えていた。


「……なぁ」


網の上を見る。

誰も動かない。


そこにあったはずの肉が、ない。

火だけが燃えている。

煙だけが、虚しく上がっている。


「……え?」


楓が近づく。

皿を見る。

空。


「ちょっと待って」


袋を掴む。

開ける。

中身がない。


「……は?」


廃人が缶詰を開ける。

カラン、と軽い音。


汁だけ。

肉だけが消えている。


「……マジか」


盗丸が呟く。


「徹底してんな」


冷蔵庫。

干物。

ベーコン。

ソーセージ。

ツナ缶。


全部。

“肉だけ”が消えていた。


「……魚もか」


楓が言う。


「“動物性”全部だな」


廃人が整理する。

不知火は黙っていた。


神の言葉を思い出す。

食べられなくなるだけ。


それがどういう意味か。

理解し始めていた。


朝。

外へ出る。


街は、昨日までと違う騒がしさに包まれていた。


「なんでだよ!!」


精肉店から怒鳴り声。

中では、人が棚を漁っている。


綺麗に空。

先日まで並んでいたパックだけが残されている。


「せっかく“ 電気”で保存できてたのに」


男が冷凍庫を蹴る。


別の女が、泣きながら手元を見ていた。


「今日食べようと思ったのに……!」


袋の中には、野菜だけ。


「……加工品まで消えてる」


廃人が言う。


「原材料判定か」


「意味分かんないわよ……」


楓が呟く。

その横で。

盗丸は、少しだけ顔をしかめていた。


「……やべぇな」


「何がだ」


不知火が聞く。

盗丸は周囲を見る。


人。

怒号。

奪い合い。

その全部を見てから言った。


「肉ってよ」


低い声。


「贅沢じゃねぇんだ」


一拍。


「“当たり前”なんだよ」


沈黙。


「それ奪われると、人間すぐ荒れる」


その言葉を証明するように、奥で揉め事が起きる。


「返せ!!」


「俺が先だろ!!」


野菜の奪い合い。

小さな争い。


でも。

確実に、悪化している。


同じ頃。


元刑務所。

金剛堕落は、所長室の椅子に座っていた。


葉巻。

足を組む。

机には酒瓶。


「……肉まで消しやがったか」


笑う。


「神様も趣味悪ぃな」


そのとき。

檻の奥から、すすり泣きが聞こえる。


三つの檻。

そこには、元刑務官と、その家族たちが閉じ込められていた。


妻。

子供。

全員、怯えている。


金剛は立ち上がる。


ゆっくり歩く。

檻の前で止まる。


「よぉ、看守さん」


笑う。


「檻の中ってのは、どうだ?」


男が鉄格子に縋りつく。


「……頼む」


掠れた声。


「恨みがあるのは俺だけだろ……!」


「妻と子供は関係ない!」


「解放してくれ!」


金剛が首を傾げる。


「あぁ?」


少し考えるように。

そして。

笑う。


「看守さんよぉ」


一拍。


「前、言ってたよな?」


──


一ヶ月前。


面会室。

看守が笑っていた。

鉄格子越し。


「どうせもうすぐ死刑になるやつだ」


「こいつのしたこと考えりゃ当然だろ」


ニヤつきながら近づく。


「なぁ金剛」


顔を覗き込む。


「親の顔、見てぇよなぁ?」


一拍。


「あっ」


笑う。


「その親、お前が殺しちまったんだったな」


無言。

金剛は、ただ睨んでいた。


「なんだその目」


看守が鼻で笑う。


「どうせ親もクズだったんだろ」


「殺されて当然か」


沈黙。

その中で。

金剛が、ぽつりと言った。


「……看守」


低い声。


「今の言葉、忘れるなよ」


──


現在。


金剛が笑う。


「覚えてるか?」


看守の顔が青くなる。


「……やめろ」


「おいガキ」


金剛が子供を見る。

小学生くらい。

震えている。


「お前の親父はクズだ」


小型ナイフを投げる。

カラン、と音。


「殺せ」


静かな声。


「そしたら自由にしてやる」


子供が首を振る。

涙を流しながら。


「や、やだ……」


「あぁ?」


金剛が笑う。


「まだ知らねぇのか」


振り返る。


「桐山」


目で合図。

少しして。

囚人に連れられ、一人の女性が現れる。


女性刑務官。

顔は腫れ、身体中に痣があった。

看守の顔色が変わる。


「おい」


金剛が聞く。


「俺が言ったことは嘘か?」


女性刑務官は震えている。

それでも。


「……い、いいえ」


小さく答える。


「全部……本当です」


看守が叫ぶ。


「ふざけるな!」


「囚人なんかに屈しやがって!」


金剛が笑う。


「屈した?」


鉄格子を、コン、と叩く。


「違ぇだろ」


「“本当のこと”言っただけだ」


看守の呼吸が乱れる。

金剛は続ける。


「なぁ看守さん」


「囚人を独房に連れてってさ」


「飯も水も抜いてたよな?」


「その代わり、自分の尿かけて笑ってた」


妻の顔色が変わる。

子供も父親を見る。


「や、やめろ……」


「あと窃盗」


金剛が指を折る。


「没収品パクって売ってた」


「囚人の財布から現金抜いてた」


「女遊びも派手だったなぁ?」


ニヤつく。


「女性刑務官と不倫」


「しかも嫁の愚痴まで言ってたっけ?」


「黙れぇ!!」


看守が絶叫する。


「でっち上げだ!!」


その瞬間。

女性刑務官が、震えながら口を開いた。


「……本当です」


空気が止まる。


「全部……」


涙が落ちる。


「本当です……」


そして。

小さく続けた。


「あと……」


震える声。


「妻とは別れるから、早く結婚しようって……」


沈黙。

妻の顔から、色が消える。

子供も父親を見る。


金剛が笑う。

大きく。

腹を抱えて。


「最高だなぁ、おい」


看守は発狂したように暴れる。


「違う!!」


「俺は!!」


囚人たちに押さえつけられる。

縛られる。


その前に。

ナイフが置かれる。

妻と子供の前。


「さぁ」


金剛が笑う。


「こいつが本当に必要か」


ゆっくりと言う。


「お前らで決めろ」


檻の中。

沈黙。

父親の“ 威厳”は失われた。

消滅ワード


1日目 “ 法律”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

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