21話 命の悲鳴
神様サバイバル5日目
光は、少しだけ傾いていた。
縁側から差し込む日差しが、床を斜めに切っている。
昼は過ぎている。
時間だけが、何も起きていないみたいに進んでいた。
「……起きてるか」
医楽の声で、意識が浮く。
不知火は目を開けた。
古い天井。
木の匂い。
そして。
痛みは、ない。
「……ああ」
身体を起こす。
躊躇がない。
本来あるはずの“止まる感覚”が、抜けている。
医楽がすぐ横にいた。
椅子に座り、静かに見ている。
「腕、見せろ」
短い言葉。
不知火は差し出す。
包帯が巻かれている。
血は止まっているように見える。
「……見た目は、な」
医楽が呟く。
包帯を解く。
乾いた血。
裂けた皮膚。
「どうだ」
「どう、とは?」
「違和感だ。重いとか、鈍いとか」
少し考える。
「……ある」
「だろうな」
医楽は頷く。
傷口に触れる。
押す。
本来なら、反射で身体が跳ねる。
だが、動かない。
「痛くないだろ」
「ああ」
「それが問題だ」
医楽の声が低く落ちる。
「痛みはな、命の悲鳴だ」
一拍。
「それが聞こえん人間は、簡単に死ぬ」
静かに続ける。
「特に内臓は厄介だ」
「外は見える。血も出る」
「だが中は見えん」
視線が、不知火の傷に落ちる。
「撃たれてるな」
「……ああ」
「弾は抜いた」
間。
「だがな、内部の損傷までは分からん」
指で軽く押す。
「痛みがない以上、“悪化”にも気づけん」
一拍。
「気づいたときには、終わりだ」
言葉が、重く落ちる。
「だから動くな」
医楽が言う。
「“動ける”と“動いていい”は違う」
不知火は、何も返さない。
ただ一度だけ、自分の腕を見る。
居間に出る。
楓が電気で湯を沸かしている。
白い湯気が立つ。
それだけで、妙に現実感が戻る。
廃人は床に座り、何かを考えている。
盗丸は縁側から外を見ている。
「……楓」
不知火が言う。
「電気、平気か」
「んー」
少し考える顔。
「使えるけど、ちょっとだけ疲れる」
軽い調子。
けれど、その“ちょっと”は軽くない。
廃人がすぐ拾う。
「……負荷あるな」
「無限じゃない」
盗丸が笑う。
「チートも万能じゃねぇってことか」
楓が肩をすくめる。
「壊れたら終わりってやつね」
誰も否定しない。
「そういやさ」
廃人が言う。
「神様通話」
空気が変わる。
「7日目で使えるやつ」
「寿命と引き換え」
盗丸が口笛を吹く。
「10秒で1年、だったな」
「そう」
廃人が頷く。
「情報は取れる」
「でもコストが重すぎる」
少し間。
「……俺がやるよ」
あっさり言う。
「一番若いし」
「削っても、まだマシ」
軽い言い方。
だが。
「やめとけ」
医楽がすぐに言う。
短く。
「若いから削っていい命なんて、ねぇ」
空気が止まる。
廃人が視線を落とす。
楓が腕を組む。
「じゃあ誰がやるのさ」
そのとき。
「……俺がやる」
不知火が言った。
三人が同時に見る。
「は?」
楓が眉を寄せる。
「怪我してるでしょ」
「関係ない」
即答だった。
「どうせ誰かがやるなら、俺でいい」
「よくないでしょ」
「理由は?」
廃人が聞く。
不知火は、少しだけ考える。
そして。
「判断する役が必要だ」
短く言う。
「聞く内容も含めてな」
一拍。
「その責任は、俺が持つ」
沈黙。
盗丸が小さく笑う。
「教師っぽいな」
医楽は何も言わない。
ただ一度、不知火を見る。
否定もしない。
止めもしない。
不知火は、自分の腕を見る。
傷。
血。
感覚はない。
医楽の言葉が、遅れて浮かぶ。
痛みは、命の悲鳴だ。
その悲鳴は、もう聞こえない。
だから。
自分で決めるしかない。
どこまで進むか。
どこで止まるか。
「……準備するぞ」
顔を上げる。
「神様通話」
視線が集まる。
「質問を絞る」
「無駄は削る」
「一回で、できるだけ引き出す」
廃人が小さく笑う。
「いいね、ゲームっぽい」
楓が息を吐く。
「失敗できないやつね」
盗丸が肩をすくめる。
「寿命賭けるとか、イカれてるけどな」
医楽は、静かに頷いた。
「……時間はある」
不知火が言う。
「7日目までに決める」
一拍。
「“何を聞くか”で、生き残り方が変わる」
外では、遠くで何かが壊れる音がした。
止まらない世界。
その中で。
「……やるぞ」
短く言う。
誰も否定しなかった。
準備だけが、静かに進み始めていた。
現在
不知火陣営
・不知火焔(元教師)
・水無月楓(女子高生)
・音棘廃人(中学生)
・的場射檻(武器オタク)退場中
・医楽世捨(医者)
・盗丸頼斗(泥棒)




