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18話 泥棒

夕方だった。


日が落ちきる前の街は、

昼よりも不気味だった。


人の顔が見える分、

欲望も警戒心も隠れない。


不知火たちは部屋で簡単な食事を取っていた。

缶詰。

乾パン。

残り物のレトルト。


贅沢とは程遠いが、生きるには足りる。


「……的場、遅いね」


楓がぽつりと言う。

誰も返さない。

返せなかった。


そのときだった。

隣の部屋から、

鋭い悲鳴が上がる。


「きゃあああっ!!」


田中の娘の声だった。

全員が立ち上がる。


「行くぞ!」


不知火が飛び出す。

廃人の家。


扉は開いていた。

中では田中一家が怯えている。


娘は母親にしがみつき、

田中本人は足の怪我で立てずに床に這っていた。


その奥。

男が一人、固まっていた。


細身。

三十代ほど。


目つきだけは妙に鋭い。

両手には袋。

中にはアクセサリーや札束が覗いている。


「……悪い悪い」


男は両手を軽く上げた。


「人がいるなら、今日は帰るよ」


飄々とした口調だった。

逃げ道を探る視線だけが忙しい。


「待て」


不知火が前に出る。


「待つ必要ある?」


楓が横から言った。

次の瞬間。


バチッ――!


青白い火花。

スタンガンが男の脇腹に押し当てられる。


「ぎゃあああっ!?」


身体が跳ねる。

そのまま白目を剥き、崩れ落ちた。

楓が鼻を鳴らす。


「はい、退場」


「……早いな」


廃人が感心する。


「こういうのは初動が命よ」


──


男が目を覚ましたとき、

椅子に縛り付けられていた。


手足をロープで固定。

口にはタオル。


目の前には、

不知火、楓、廃人、医楽。

四人並ぶと、妙に圧があった。


楓がタオルを外す。


「で、こいつどうするの?」


「話を聞く」


不知火が言う。


「野放しにはできない」


医楽が男の瞳を覗き込む。


「スタンガンの痺れはもう切れとる」


「口は元気そうじゃ」


廃人がベランダの方を見る。


「飼うにしても面倒だし、落とす?」


「おいおいおい!」


男が飛び上がるように叫ぶ。


「物騒な家だなここ!」


楓が笑う。


「さっき盗みに入ったやつが言う?」


床には男の持ち物が広げられていた。


金の指輪。

ネックレス。

腕時計。

現金。

財布。


どれも複数。


「……泥棒起きたわよ」


楓が呆れたように言う。

男は観念したように肩をすくめた。


盗丸頼斗(とまるらいと)


少し顎を上げる。


「職業、泥棒」


「囚人だった」


空気が変わる。


金剛堕落(こんごうだらく)ってやべぇ奴、いたろ」


「あいつと同じ刑務所だ」


「鍵が消えた瞬間、みんな檻から出た」


「でも俺ぁ、他の囚人の目を盗んで一人逃げた」


誇らしげだった。


「……なんで盗みなんだ」


不知火が聞く。


「この状況で金なんて意味ないだろ」


盗丸は鼻で笑った。


「今はな」


少し身を乗り出す。


「けどよ、三十日後どうすんだ?」


「生き残りました」


「でも無一文です」


「元囚人です」


「身寄りなしです」


「詰みだろ?」


指を鳴らす。


「おれは先の先まで見てんの」


「投資ってやつ」


また格好つける。

楓が顔をしかめる。


「泥棒の理論、腹立つわね」


廃人は逆に感心していた。


「でも合理的ではある」


「現金価値が戻る可能性に賭けてるってことか」


「……お、分かる?」


盗丸が嬉しそうにする。


「君、話せるねぇ」


「黙れ」


楓が即答した。


不知火は盗丸を見る。

武器はなかった。

襲ってきたわけでもない。


見つかった瞬間、

立ち去ろうとしていた。


少なくとも、

人を傷つけるタイプには見えない。


そして何より、

今の拠点には問題があった。


出口一つ。

逃げ場なし。

施錠不能。


「……盗丸」


「ん?」


「住める場所、知らないか」


盗丸の目が光る。


「住処ねぇ」


少し考える。


「あー、ある」


「でかい空き家」


「古民家みてぇなとこだ」


「塀あり、庭あり、裏口あり」


「しかも今んとこ無人」


廃人が身を乗り出す。


「マジ?」


「泥棒ネットワーク舐めんな」


胸を張る盗丸。

楓がため息をつく。


「自慢するとこじゃないでしょ」


話し合いは長くはかからなかった。

ここに留まる危険は大きい。

移る価値はある。


そして、

罪悪感が消えている今、

他人の空き家を使うことへの抵抗も薄かった。


「……決まりだな」


不知火が言う。

盗丸の縄を解く。


「逃げたら?」


楓が睨む。

盗丸は肩をすくめた。


「案内役がいなくなるだけだろ」


「それに」


にやりと笑う。


「面白そうな連中に拾われたしな」


夜。


荷物をまとめる。

最低限だけ持つ。


田中一家は残ることになった。

足の怪我もある。

移動は難しい。


「もし的場が戻ってきたら」


不知火が田中に言う。


「俺たちは古民家へ移ったと伝えてくれ」


田中は頷いた。


「……分かりました」


不知火は部屋を見回す。

数日だけ過ごした場所。


だが、

世界が変わってからの全てが詰まっていた。


「行くか」


新しい拠点へ。


そして、

新しい厄介者を連れて。

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