16話 王達の夜明け
朝日は昇っていた。
世界が壊れても、空だけは何も知らない顔で明るくなる。
けれど、地上にあるものはもう違った。
法律が消え、電気が消え、罪悪感が消え、鍵が消えた。
世界が止まるには、
四日で十分だった。
そして、この街にはもう王がいた。
──
ホームセンター。
資材売り場の奥に作られた簡易拠点。
男たちは拘束され、女と子供には毛布と食事が配られていた。
泣いている女もいる。
怯えて子供を抱く母親もいる。
その中央で、黒闇破滅は椅子に座っていた。
腕を組み、静かに全体を見ている。
部下が近づく。
「ボス、女共が解放しろと騒いでます」
黒闇は鼻で笑った。
「泣く相手を間違えてる」
「……え?」
「殴られてたのは誰だ」
部下は黙る。
黒闇は立ち上がる。
「表では好きに言わせとけ」
「俺は悪党でいい」
「その方が、怯えて従う」
少しだけ視線を細める。
「女子供は守る」
「使えねぇ男は、働かせる」
「それが今の秩序だ」
部下は頭を下げた。
「はい、ボス」
黒闇はその呼び名を否定しなかった。
──
警察署。
本来なら正義の象徴だった建物。
今、受付には香水の匂いが満ちていた。
ソファでは元警察官たちが、だらしなく笑っている。
制服姿のまま、女の膝に頭を乗せて眠る者もいた。
署長室。
机の上に脚を組み、一人の女が座っている。
花魁夜。
脚線美すら武器に変える女だった。
元キャバ嬢。
現風俗嬢。
そして現在、元警察官を束ねる
“ 女王蜂”
「夜様」
若い警官が入ってくる。
頬を赤らめながら敬礼する。
「東口の男たち、食料欲しさに揉めています」
花魁は爪を眺めながら言った。
「じゃあ働かせなさい」
「強い男は外へ」
「弱い男は中へ」
「役に立たない男は……捨てていいわ」
警官はうっとりした顔で頷く。
「はい……!」
花魁は笑う。
「男って、本当に簡単」
その笑みは美しく、
だからこそ恐ろしかった。
──
地下水路。
街の下に広がる、もう一つの都市。
段ボール、毛布、簡易ベッド。
拾われた家具。
修理された家電。
数十人のホームレスたちが生活していた。
中央。
椅子代わりの木箱に腰掛ける男。
天涯帝。
かつて年収三千万を稼いだ男は、
今、裸足で王になっていた。
肩にカラスが止まる。
足元ではネズミが走る。
仲間の一人が報告する。
「天涯さん、東区で火事」
「南は刑務所崩壊」
「西は女の勢力が警察署占拠したらしい」
天涯は頷いた。
「上は忙しいな」
小さく笑う。
「だから地面の下が生き残る」
ネズミにパンくずを投げる。
「食料班、今日も回収だ」
「壊れた世界ほど、捨てられる物は増える」
周囲の者たちが笑った。
ここでは誰も飢えていなかった。
──
元刑務所。
門は開きっぱなし。
監視塔には誰もいない。
中庭では焚き火が上がり、
囚人たちが酒と肉で騒いでいる。
その中心。
コンクリートの段差に座る巨漢。
金剛堕落。
二メートルの肉塊。
人を殴るために生まれたような身体だった。
隣には細身の男。
眼鏡をかけた参謀、桐山。
机代わりの板に地図を広げている。
「金剛さん」
「次は物流倉庫を押さえるべきです」
「食料、薬品、燃料」
「そこを持てば街は従います」
金剛は骨付き肉を噛みちぎりながら笑った。
「いいねぇ」
「頭いいやつ、好きだ」
桐山は続ける。
「それと、刑務官の家族狩りも並行して」
金剛の笑みが深くなる。
「復讐は、飯がうまくなる」
周囲の囚人たちが歓声を上げた。
──
その頃。
不知火たちのマンションでは、
まだ静かな朝が始まろうとしていた。
的場は戻らない。
世界は壊れ続ける。
それでも彼らは、
この街にもう四人の王がいることを知らない。
そして。
その王たちもまた、
いずれ“不知火焔”という男を知ることになる。




