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15話 復讐

四日目、0時。


“鍵”が消えた。


家の扉。

金庫。

倉庫。

車。

あらゆる施錠が意味を失った。


そして、

檻もまた、例外ではなかった。


全国の刑務所で、

重い鉄扉が、音もなく開いた。


三日間。

囚人たちは閉じ込められていた。


法律が消えた日から、

刑務官たちは持ち場を捨て、家族の元へ帰っていった。


残されたのは、囚人だけだった。


食事は止まり、

水も不十分。

情報もない。


薄暗い独房で、

怒りと飢えと渇きだけが育っていた。


そして四日目。

鍵が、消えた。


最初に聞こえたのは、

笑い声だった。

次に、叫び声。


鉄格子を蹴り開ける音。

走る足音。

泣き声。

怒号。


抑え込まれていた三日分の獣性が、

一斉に廊下へ溢れ出した。


食堂は襲われた。

保存食が奪われる。


缶詰を歯で噛み千切る者。

酒保から見つけた酒をラッパ飲みする者。

床に倒れた仲間の口にまで流し込む者。


警務室は荒らされ、

制服は燃やされた。

監視カメラは叩き壊される。


誰も止める者はいない。

その刑務所の所長室。

本来なら、規律の象徴だった場所。


今、

一人の男が椅子に座っていた。


椅子が小さく見えるほどの巨体。

二メートル。

丸太のような腕。

首元には古い傷跡。


葉巻を咥え、

足を机に乗せている。


金剛堕落(こんごうだらく)

元死刑囚。


死刑執行を待つはずだった男。

その目は、

三日間の飢えすら楽しんだ獣の目だった。


「ボス」


舎弟格の男が頭を下げる。


「これからどうします?」


金剛は葉巻の煙を吐く。

少し笑った。


「飯」


指を一本立てる。


「酒」


二本目。


「女」


三本目。

そこで止める。

そして、拳を握る。


「復讐」


舎弟が頷く。


「飯と酒はここにあります」


「女は街で攫ってきます」


「復讐は、誰に?」


その瞬間。

金剛の目が動いた。

舎弟の喉が鳴る。


「……誰に?」


低い声だった。

金剛は立ち上がる。


椅子が軋む。

部屋の空気まで重くなる。


「世界だよ」


一歩、近づく。


「俺たちから自由を奪った世界に」


もう一歩。


「復讐すんだよ」


舎弟は慌てて頭を下げた。


「わ、分かりました!」


金剛は笑う。

牙を見せるような笑みだった。


「手始めにな」


窓の外を見る。

まだ眠っている街。


「ここの刑務官だった連中」


「その家族」


「全員捕まえて、檻にぶち込め」


舎弟の顔が歪む。

興奮だった。


「すぐに!」


警務室へ走る。

職員名簿を漁る。


住所。

家族構成。

緊急連絡先。

全てが、狩りの地図になる。


夜明け前。

一台、また一台と車が刑務所を出ていく。


奪われた公用車。

トラック。

パトカー。

笑い声を乗せて。


この日。

不知火たちの住む地域で、

金剛堕落を含む百二十名の重犯罪者が解き放たれた。


そして全国で。

いや、世界で。

数え切れないほどの犯罪者が、

自由という名の凶器を手にした。

消滅ワード


1日目 “ 法律”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

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