119話 12年振り
神様サバイバル16日目
「……ち。」
天涯が舌打ちした。
短い音だった。
だが、その一音だけで。
制御室の空気が変わった。
「……何があった?」
チー牛が振り返る。
天涯は、しばらく何も言わなかった。
目の前の操作盤。
三階層を示す表示。
そして。
さっきまで聞こえていたブリ子の声。
その全てを頭の中で繋ぎ合わせる。
「不知火が死んだ。」
「……。」
チー牛の表情が固まった。
「マジかよ……。」
声が漏れる。
だが。
悲しみというより。
もっと別の感情だった。
本当に。
ここでは。
捕まったら死ぬ。
一階層の兵士たち。
銃。
特務隊。
そして。
目の前で何が起きたのかすら分からない不知火の死。
今までどこかで。
「まあ、なんとかなるだろ。」
そんな甘い考えがあった。
だが。
消えた。
この世界は。
本当に。
簡単に人が死ぬ。
「……。」
チー牛は唇を噛んだ。
天涯は、そんなチー牛を一瞥する。
「チー牛。」
「ん?」
「ここは任せる。」
「……。」
「いいな?」
チー牛は数秒。
天涯の顔を見つめた。
そして。
「丸投げで草。」
「任せたぞ。」
「聞いてる?」
天涯はもう聞いていなかった。
踵を返し、制御室を出ていく。
「おい!」
チー牛が呼び止めようとする。
しかし。
天涯はそのまま走り去っていった。
「……。」
チー牛はため息を吐く。
「本当に丸投げじゃん。」
制御室に残ったのは。
チー牛。
そして。
負傷して床に座り込んでいる兵士、一人。
兵士はまだ意識が朦朧としていた。
「エレベーターはどうする?」
兵士が聞く。
「いつ動かせばいいのか分からない。」
チー牛は少し考える。
そして。
迷いなく答えた。
「なら。」
「ずっと下の階層と往復させろ。」
「え?」
「誰か乗ったら動かす。」
「階層に着いたら、また戻す。」
「タイミングはお前が勝手に判断してくれ。」
兵士は少し考え。
頷いた。
「……分かった。」
「頼む。」
チー牛は操作盤を見る。
そして。
小さく呟いた。
「……一人でやるの、効率悪くて草。」
その頃。
三階層へ続く階段前。
金剛と雲雀は、物陰に身を潜めていた。
遠くから。
「パンッ!」
「パンッ!」
「パンッ!」
銃声。
雲雀の身体がビクッと震える。
金剛は。
じっと音のした方向を見ていた。
「……。」
次の瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
地下施設そのものを揺らすような。
凄まじい爆音。
「……!」
雲雀が耳を塞ぐ。
金剛も目を細める。
あまりにも異常な音だった。
遠くにいた特務隊員たちも、明らかに様子を変える。
「なんだ今の!?」
「エレベーター側か!」
「確認するぞ!」
複数の隊員が。
一斉に走り出した。
金剛はその瞬間を見逃さなかった。
「……今しかねぇ。」
「え?」
金剛が走り出す。
「ちょっ、金剛さん!」
雲雀も慌てて追いかける。
二人は。
建物の間を走り抜けた。
国会議事堂。
政府関係者の施設。
特務隊の寮。
国家を守るために造られた巨大な地下都市。
その間を。
二人は息を殺して駆け抜ける。
「こっちだ!」
金剛が方向を変える。
雲雀も必死についていく。
やがて。
金剛が足を止めた。
「……ここだ。」
「?」
雲雀は周囲を見回す。
そこにあったのは。
三階層では。
あまりにも異質な建物だった。
一軒家。
古びた。
年季の入った和式の家。
木造の外壁。
古い瓦。
まるで。
地下施設の中にだけ。
昔の日本から切り取って持ってきたような家だった。
「……。」
雲雀は眉をひそめる。
「なんで、こんなところに……?」
国会議事堂。
政府機関。
特務隊の施設。
そんな建物が並ぶ中。
この一軒だけが。
あまりにも生活感を持っていた。
「金剛さん。」
「なんだ。」
「ここ……絶対誰かいますよ。」
「入るぞ。」
「え?」
金剛は躊躇しなかった。
玄関を開ける。
ガラッ。
「ちょっ!」
雲雀は慌てて周囲を見る。
「中に人いたらどうするんですか!」
「いたら分かる。」
「それが怖いんですよ!」
しかし。
返事はない。
二人は中へ入った。
「……。」
雲雀は。
さらに驚いた。
和室が三部屋。
広いリビング。
畳。
古い家具。
どこか旅館を思わせる造り。
それなのに。
人の気配がない。
金剛はゆっくり部屋を見回した。
そして。
「……いねぇな。」
椅子を引く。
ドカッ。
そのまま腰を下ろした。
胸ポケットから葉巻を取り出す。
「……。」
口に咥える。
そして。
懐を探る。
「……ち。」
火がない。
金剛の顔が露骨に不機嫌になる。
「雲雀。」
「はい?」
「ライターかマッチ探せ。」
「え?」
「早くしろ。」
「なんで僕が……。」
「いいから探せ。」
「……。」
雲雀は頭を抱えた。
「もう……あの人、無茶苦茶だよ……。」
文句を言いながら。
部屋を探す。
引き出し。
棚。
机。
そして。
金剛の目の前に火が灯る。
「お。」
金剛の葉巻へ近づける。
赤い火が。
ゆっくりと葉巻へ移っていく。
「……ふぅ。」
金剛が煙を吐く。
金剛が少しだけ笑った。
「早かったな。」
金剛が葉巻を吸いながら火元を見上げる。
その時。
「12年振りかな?」
「……。」
金剛の葉巻に火を付けたのは。
雲雀ではなかった。
いつからそこにいたのか。
一人の老人が立っていた。
穏やかな顔。
白髪。
優しい笑み。
老人は。
まるで旧友に会ったかのように。
微笑んだ。
「久しぶりだね。」
金剛の目が。
大きく見開かれる。
老人は。
もう一度。
ゆっくり名前を呼んだ。
「金剛堕落くん。」
「……。」
12年。
その名前を。
その呼び方を。
金剛が最後に聞いたのは。
12年前だった。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”
15日目 “ 四季”
16日目 “ 嫌悪感”




