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118話 生きたいように

神様サバイバル16日目

三階層へ続く階段。


その長い階段を、金剛と雲雀は無言で降りていた。

一段。

また一段。

地下へ。

さらに地下へ。


二階層までとは、明らかに空気が違う。

さっきまでの華やかな街並みが、少しずつ遠ざかっていく。


「……。」


雲雀は、前を歩く金剛の背中を見つめていた。

先ほどまでとは違う。


ほんの少しだけ。

金剛との距離が縮まったような気がしていた。


「……。」


「おい。」


突然、金剛が足を止める。


「え?」


雲雀も立ち止まる。

金剛は階段の先を見ていた。


「……下がれ。」


「え?」


「隠れろ。」


その声には、いつもの苛立ちとは違うものがあった。


雲雀はすぐに金剛の横から顔を出す。

階段の先。

三階層の入口。


そこには。

武装した男たちがいた。

銃を構え、一定の間隔を保ちながら巡回している。


「……。」


雲雀の喉が鳴る。

一階層で見た兵士たちとは違う。


立ち方。

銃の持ち方。

周囲を見る目。


全てが違う。

金剛が小さく笑った。


「……ありゃあ。」


「一筋縄じゃいかねぇ連中だな。」


雲雀は息を潜める。

金剛も。

今は前へ出ない。


その事実だけで。

あの兵士たちがどれほど危険なのか。

雲雀にも伝わった。



一方。

エレベーター前。

不知火とブリ子は、扉の前に立っていた。


「……。」


不知火が操作盤を見る。


一階層。

二階層。

三階層。

表示されているボタンは、それだけ。


「……四階層がない?」


不知火が眉をひそめる。


「直接は行けないってことか?」


ブリ子も覗き込む。


「ほんとだぁ。」


「どういうことだ……?」


考えている間に。

ガコン。

突然、エレベーターの扉が閉まり始めた。


「え?」


不知火が振り返る。


「誰も押してないぞ。」


ブリ子が笑う。


「天涯さんが動かしてるんじゃない?」


「なるほど。」


二人を乗せたエレベーターは。

ゆっくりと下降を始めた。


ゴウン……。


ゴウン……。


階数表示が変わっていく。

三階層へ。

地下へ。

さらに深く。


広いエレベーターの空間の中で。

ブリ子が不意に口を開いた。


「ねぇ、ほむほむ。」


「なんだ?」


「ほむほむはさ。」


「なんで参加したの?」


不知火は少し考えた。

すぐには答えなかった。

エレベーターの低い駆動音だけが響く。


「……知りたかったんだ。」


「何を?」


「この世界のこと。」


不知火は前を向いたまま答える。


「神が何なのか。」


「なぜこんなことをしているのか。」


「この世界で何が起きているのか。」


一つ一つ。

頭の中にあった疑問を並べる。


「全部知った上で。」


「その上で、判断したかった。」


ブリ子は黙って聞いていた。

そして。


「ん〜。」


少し考えて。


「そっか。」


それだけ言った。

不知火は少し拍子抜けした。


だが。

次の言葉に。


「でもさ。」


ブリ子が笑う。


「ほむほむ、もっと自分のやりたいようにしたら?」


「……。」


不知火が振り向く。


「難しく考えなくてもいいじゃん。」


「こんないつ死ぬか分かんない世界なんだから。」


ブリ子は天井を見上げる。


「思いっきり、自分の生きたいように生きたほうが。」


「楽しいじゃん。」


不知火は。

何も言えなかった。


ほんの数時間前。

初めて会った少女。


それなのに。

その言葉が。

妙に胸の奥へ入ってきた。


自分はずっと。

考えていた。


知る。

調べる。

理解する。

判断する。


そうやって。

答えを出してから動こうとしていた。


でも。

もし。

答えなんて。

最後まで出ないのだとしたら。


もし。

考えている間に。

死んでしまったら。


「……。」


頭の中で。

何かが動いた。


バラバラだったパズルのピースが。

一つ。

カチッ。

とはまった。


「……そうか。」


不知火が呟く。


「そうだよな。」


「ん?」


「自分がどうしたいか。」


不知火は。

初めて自分自身に問いかけた。


そして。

ブリ子を見る。


「じゃあ。」


ブリ子が首を傾げる。


「ほむほむは、なにがしたいの?」


不知火は少しだけ笑った。


「このシェルターを作った奴。」


「この国を捨てたトップを。」


拳を握る。


「ぶん殴りたい。」


ブリ子の顔がぱっと明るくなる。


「よくできました〜!」


「……なんだそれ。」


不知火は笑った。


「でも。」


不思議だった。

さっきまで胸の中にあった重たいものが。

少し軽くなっていた。


エレベーターが減速する。

ゴウン……。


そして。

停止。

三階層。


チン。


扉が開く。

不知火は。

反射的に前へ出た。

その瞬間。


「――!」


目の前に。

三人。


武装した兵士が立っていた。

不知火の身体が動く。


「ブリ子!」


咄嗟に。

後ろにいたブリ子を庇う。


「逃げろ!」


パンッ!


パンッ!


パンッ!


乾いた銃声が。

三階層に響いた。

不知火の身体が大きく揺れる。


「……っ。」


そのまま。

床へ倒れた。


「ほむほむ!?」


ブリ子は目を見開く。

だが。

不知火の身体が邪魔になって。

エレベーターの外が見えない。


何が起きているのか。

分からない。


ただ。

目の前で。

自分を守ろうとした男が。

倒れた。


「……。」


ブリ子の顔から。

血の気が引いていく。


「ほむほむ……?」


返事がない。


「……。」


怖い。

足が震える。

助けなきゃ。

そう思う。


でも。

無理だった。


自分一人では。

不知火を抱えて逃げることなんてできない。


敵は三人。

銃も持っている。


「ボリューム……最大。」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


三階層全体を揺らすような爆音。

特務隊3人が一瞬、意識を失う。


ここで立ち止まれば。

自分まで殺される。


「……ごめん。」


小さく。

震える声が漏れた。


ブリ子は。

一人で走り出した。


エレベーターを飛び出し。

特務隊の視界から外れるように。


三階層の死角へ。

必死に。

必死に。

走った。

涙が止まらない。


「……。」


曲がり角。

物陰。

ようやく身を隠す。


膝から力が抜ける。

その場にしゃがみ込む。


そして。

能力を発動する。


“ あなただけに”


遠く離れた。

制御室。


天涯の耳に。

少女の震える声が届いた。


『天涯さん……。』


天涯が顔を上げる。


『ほむほむが……。』


声が震えている。

泣いている。


『ほむほむが……しんじゃった……。』


天涯の表情から。

笑みが消えた。


そして。

三階層のどこかで。


一人の少女が。

声を殺して泣いていた。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

13日目 “ 財産”

14日目 “ 嘘”

15日目 “ 四季”

16日目 “ 嫌悪感”

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