115話 仲間
神様サバイバル16日目
不知火は、エレベーターの前に立っていた。
ようやく辿り着いた。
一階層はあまりにも広く、何度も道を間違えかけた。
それでも。
二人は無事、目的地まで到着した。
「ここですねぇ〜。」
ブリ子がエレベーターを見上げる。
「そうみたいだな。」
不知火も息を整えながら頷く。
巨大なエレベーター。
これに乗れば、一気に下層へ進める。
不知火は壁にある操作盤へ近づいた。
「……。」
ボタンを押す。
カチッ。
何も起こらない。
もう一度。
カチッ。
やはり動かない。
「……駄目か。」
不知火が小さく息を吐く。
やはり、制御室から操作しなければならないらしい。
「どうするんですかぁ?」
ブリ子が首を傾げる。
「天涯たちが制御室を確保するのを待つしかない。」
「なるほどぉ。」
ブリ子はしばらく考え込んだ。
そして。
「あ。」
何か思いついたように、手を叩く。
「じゃあ、私から連絡しますねぇ。」
「連絡?」
不知火が振り返る。
ブリ子は笑った。
「私の能力。」
【相武理子】
【防衛キーワード】
“ 声”
【能力】
“ よく聞こえる”
そして。
その下に。
もう一つの能力名が表示された。
“ あなただけに”
不知火が目を見開く。
「もう一つ能力があるのか?」
「そうですよ〜。」
ブリ子は得意げに胸を張った。
「マーキングした人、一人だけに。」
「どれだけ離れてても、私の声を届けられるんです。」
「……便利だな。」
「でしょ〜?」
ただし。
ブリ子は指を一本立てる。
「でも、会話は一方通行です。」
「私から話すだけ。」
「相手の声は聞こえないんですよ〜。」
「なるほど。」
不知火は頷いた。
「それでも十分だ。」
ブリ子は目を閉じる。
意識を集中する。
そして。
「もしも〜し。」
声が。
消える。
正確には。
この場にいる不知火には聞こえている。
だが。
同じ瞬間。
遠く離れた制御室。
天涯にだけ。
その声が届いた。
『もしも〜し、天涯さ〜ん。』
天涯が顔を上げる。
「……。」
チー牛が不思議そうに見る。
「どうした?」
「ブリ子だ。」
「は?」
『エレベーター着きましたよ〜。』
天涯は口元を緩めた。
「早いな。」
そして制御室に残された兵士へ視線を向ける。
「おい、チー牛。」
「ん?」
「そいつを早く起こせ。」
床に倒れている兵士を指差す。
「エレベーターを動かしてもらうぞ。」
「はいはい。」
チー牛はため息を吐きながら兵士へ近づいた。
その頃。
エレベーター前では。
「……。」
不知火がブリ子を見ていた。
「どう?」
「ちゃんと届きましたよ〜。」
「そうか。」
「天涯さん、返事してくれないけど。」
「一方通行だからな。」
「そうでしたぁ〜。」
ブリ子は笑った。
二人はエレベーターの前で、その時を待つ。
⸻
一方。
「……長ぇな。」
金剛は階段を駆け下りながら呟いた。
目の前には。
どこまでも続いているように見える階段。
一階層。
二階層。
そんな区切りすらまだ見えてこない。
ただひたすら。
下へ。
下へ。
下へ。
「……。」
金剛は息一つ乱していない。
その後ろ。
「ま、待ってください!」
ビビりが必死に追いかけている。
一段。
また一段。
足がもつれそうになりながら、それでも離されないように食らいつく。
「待ってくださいって!」
金剛がようやく足を止めた。
「あぁ?」
振り返る。
ビビりは何とか追いついた。
疲れはない、だが極度の緊張、
ストレスにより呼吸は乱れていた。
「はぁ……はぁ……。」
「……。」
「金剛さん。」
「置いていかないでください。」
金剛の眉が動く。
「……。」
「“ 仲間”なんですから。」
その瞬間。
空気が変わった。
金剛から。
凄まじい殺気が放たれる。
「……仲間?」
ビビりの顔が引きつる。
「ひっ……。」
「おい。」
金剛が低い声を出す。
「勘違いするなよ?」
「だ、だって……。」
「誰と誰が仲間だって?」
ビビりは何も言えなくなった。
金剛は睨みつける。
「仲間ってのはな。」
「足手まといとは違ぇぞ。」
一歩。
ビビりへ近づく。
「“ 対等”なんだよ。」
「……。」
「それが仲間だ。」
吐き捨てるように言う。
「覚えとけ。」
金剛は再び階段を駆け下りていく。
「……。」
ビビりは、その背中を見つめた。
胸の奥が痛かった。
怖い。
もちろん怖い。
でも。
それ以上に。
悔しかった。
何も言い返せなかった。
自分でも分かっている。
今の自分は。
金剛にとって「仲間」と呼べる存在じゃない。
「……。」
ビビりは唇を噛む。
それでも。
置いていかれるわけにはいかなかった。
「待って……。」
涙を堪えながら。
また走り出す。
「待ってください!」
しばらくして。
ようやく。
階段の先に扉が見えた。
「……!」
ビビりの目が輝く。
「金剛さん!」
金剛が扉の前で止まる。
その先。
二階層。
「……やっとか。」
金剛が扉を開ける。
「……。」
ビビりは。
思わず言葉を失った。
目の前に広がっていたのは。
まるで。
別世界だった。
美しい街並み。
整然と並ぶ建物。
豪華な装飾。
広い通路。
まるで貴族の街。
二階層。
ここには。
世界が崩壊する前の「上流階級」が、そのまま切り取られていた。
「すご……。」
ビビりが思わず見とれる。
「こんな場所が……。」
だが。
「……。」
すぐに腹の奥が痛くなる。
「あ。」
そういえば。
さっきからずっと。
我慢していた。
「金剛さん。」
「なんだ。」
「……トイレ。」
金剛が振り返る。
「は?」
「トイレに……。」
「……。」
「少しだけ寄ってもいいですか?」
「てめぇなんか待ってたら日が暮れる。」
「でも……。」
「勝手にしろ。」
金剛はそのまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと!」
ビビりは慌てて周囲を見る。
幸い。
階段のすぐ近くにトイレがあった。
「……助かった。」
慌てて駆け込む。
数分後。
「ふぅ……。」
生き返ったような顔で出てくる。
「間に合った……。」
安堵した、その瞬間。
「……ん?」
背後から。
声がした。
「おい。」
ビビりの身体が固まる。
ゆっくり振り返る。
そこに。
一人の男が立っていた。
上質な服。
整えられた髪。
この場所にいることが当然だと言わんばかりの立ち姿。
そして。
ビビりの顔を見た瞬間。
男の目が見開かれる。
「……お前。」
ビビりの心臓が跳ねた。
「雲雀だろ?」
「……。」
名前。
その名前を。
久しぶりに呼ばれた。
ビビりは無意識に後ずさる。
「……山田……くん。」
男は。
昔と変わらない笑顔を浮かべた。
いや。
昔よりも。
ずっと嫌な笑顔だった。
「なんでお前が。」
「こんなところにいる?」
ビビりは答えられない。
喉が震える。
身体が思うように動かない。
山田がゆっくり近づいてくる。
「懐かしいなぁ。」
そして。
口元を歪める。
「また。」
「おもちゃにしてやるか。」
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”
15日目 “ 四季”
16日目 “ 嫌悪感”




