114話 よく聞こえる
神様サバイバル16日目
「ホームレスのおじさん。」
ぽつりと。
チー牛が呟いた。
制御室に充満していた火薬の臭い。
床に倒れた兵士たち。
そして、その中心で何事もなかったかのように立っている天涯。
チー牛は改めて、その男を見た。
「……なんだ?」
天涯が振り返る。
「一人で殺れるなら、最初から言ってくれよ。」
チー牛は大きく息を吐いた。
「無駄に焦ったわ。」
銃を向けられていた時の恐怖が、ようやく身体から抜けていく。
天涯はケラケラと笑った。
「ば〜か。」
「さすがに警戒して銃を構えた兵士十人を、最初から一人で殺れるかよ。」
「……。」
「お前のおかげだ。」
「え?」
チー牛が顔を上げる。
天涯は倒れている兵士たちを見ながら続けた。
「お前が嘘をついて命乞いした。」
「それであいつらの警戒が緩んだ。」
「その隙がなきゃ、もっと面倒だった。」
「……。」
チー牛は少しだけ照れくさそうに眼鏡を押し上げた。
「まあ……。」
「俺、頭いいから。」
「はいはい。」
「そこは否定しろよ。」
「褒めたんだが?」
「……。」
チー牛は小さく笑った。
しかし。
ふと、あることに気付く。
「てか。」
倒れている兵士を見回す。
「全員殺ったら、エレベーター動かせないだろ。」
「……。」
天涯が笑った。
「その通り。」
「え?」
その時。
「うぅ……。」
かすかな声。
チー牛が振り返る。
倒れていた兵士の一人が、僅かに身体を動かしていた。
「生きてる……?」
天涯は何でもないように言った。
「ちゃんと操作席にいた奴は生かしてる。」
「……。」
チー牛は兵士を見る。
どうやら銃弾は致命傷を避けて撃ち込まれていたらしい。
気絶はしている。
だが、死んではいない。
「……。」
チー牛は苦笑する。
「ぱなくて草。」
天涯は笑った。
「さぁ。」
「仕事をしてもらおうか。」
二人は制御室の奥へ進んでいった。
⸻
その頃。
不知火とブリ子は、広大な一階層を走っていた。
「……どこだ?」
不知火が左右を見回す。
同じような通路。
同じような扉。
何度角を曲がっても、エレベーターらしきものが見つからない。
「広すぎるだろ……。」
額に汗が浮かぶ。
神様サバイバルが始まってから、何度も死の恐怖を味わってきた。
だが。
こんな巨大な施設の中を、目的地を探して走り回ることになるとは思わなかった。
「ほむほむ〜。」
後ろからブリ子の声。
「なんだ?」
「こっち〜。」
「あったのか!?」
「分かんない!」
「……。」
不知火は無言で走る。
「でも〜。」
ブリ子が笑う。
「なんとなくこっちな気がする〜。」
「勘かよ!」
そんなやり取りをしながら。
しばらく走った、その時だった。
「……!」
不知火が足を止める。
「どうしたの?」
「……あれ。」
通路の先。
巨大な扉。
その横に。
エレベーターの表示。
「見つけた……!」
不知火の顔が明るくなる。
しかし。
喜んだのも束の間だった。
エレベーターの前。
二人の兵士が立っている。
どちらも銃を装備している。
二人は会話をしながら、一定の範囲を巡回していた。
不知火はすぐにブリ子の腕を掴む。
「隠れろ。」
「は〜い。」
二人は物陰へ身を潜める。
兵士が通り過ぎる。
……と思った。
しかし。
数メートル進んだところで。
兵士が反転する。
「……。」
また戻ってくる。
そして。
再びエレベーター前へ。
「ずっとあそこにいるな……。」
不知火が小さく呟く。
これでは近づけない。
「どうする……。」
不知火は焦り始める。
ここで時間を使いすぎれば、天涯たちとの合流にも影響が出る。
そして何より。
一度見つかれば、相手は銃を持っている。
正面から戦うのは危険だ。
「……。」
不知火が考え込んでいると。
「ねぇねぇ。」
耳元から、ブリ子の声。
「ほむほむ〜。」
「……なんだ?」
ブリ子が上目遣いで見つめてくる。
「ほむほむは〜。」
「防衛キーワード設定してないの〜?」
「あぁ。」
不知火は頷く。
「まだ設定してない。」
「そっかぁ。」
ブリ子は少しだけ笑った。
そして。
「じゃあ。」
ゆっくり立ち上がる。
「ここは私の出番かな〜。」
「……?」
不知火が目を丸くする。
「おい。」
「何する気だ?」
ブリ子は楽しそうに指を一本立てる。
「ボリュームは……。」
少し考える。
「まぁ、5ってとこで。」
「……何の話だ?」
「ほむほむは〜。」
ブリ子が振り返る。
「耳、塞いでて?」
「……。」
不知火は意味が分からなかった。
だが。
何かをするつもりなのは分かった。
「分かった。」
両手で耳を塞ぐ。
ブリ子は。
スタスタと。
一人で兵士たちへ向かって歩いていく。
「お、おい!」
不知火が焦る。
「ブリ子!」
兵士が気付く。
「誰だ!」
二人が銃を構える。
ブリ子は止まった。
両手を軽く広げる。
そして。
「わっ!!!!」
――ドォォォン!!
爆発した。
そう錯覚するほどの轟音が。
地下シェルター全体に響き渡った。
「――ッ!?」
二人の兵士が、その場で崩れ落ちる。
銃が床へ落ちる。
耳から血が流れる。
そして。
完全に気を失った。
静寂。
不知火はゆっくりと耳から手を離す。
「……。」
目の前の光景を見る。
倒れた兵士。
エレベーター。
そして。
何事もなかったように立っているブリ子。
「……。」
不知火は言葉を失った。
ブリ子は満足そうに笑う。
「うん。」
「いい感じ♪」
【相武理子】
【防衛キーワード】
「声」
【能力】
“ よく聞こえる”
自身の声のボリュームを。
一倍から三十倍まで。
自在に設定して発することができる。
不知火は改めてブリ子を見る。
「……す、すごいな。」
ブリ子は振り返る。
「ん?」
「ブリ子。」
「推しになった?」
いたずらっぽく笑う。
不知火は少しだけ考えた。
そして。
素直に笑った。
「あぁ。」
「推しだ。」
「やったぁ〜!」
ブリ子が嬉しそうに両手を上げる。
その声に。
不知火は苦笑した。
「……次は普通の声で頼む。」
「え〜?」
「耳が痛い。」
「ほむほむ、耳弱いんだぁ。」
「そういう問題じゃない。」
二人は笑いながら。
倒れた兵士の横を通り抜ける。
そして。
目の前のエレベーターへ歩み寄った。
長い長い一階層の探索。
ようやく。
二人は目的地へ辿り着いた。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”
15日目 “ 四季”
16日目 “ 嫌悪感”




