111話 2人1組
神様サバイバル16日目
巨大な鋼鉄の扉を前に、六人は立ち尽くしていた。
近くで見るシェルターは想像以上だった。
山肌へ埋め込まれるように造られた無機質な外壁。
人一人では到底開けられそうにない分厚い扉。
十年前から極秘裏に建設されたという言葉が、ようやく現実味を帯びる。
「……でけぇな。」
不知火が思わず呟く。
天涯はゆっくりとシェルターを見上げた。
「あの中は五階層になってる。」
全員の視線が天涯へ集まる。
「一階層。」
「食料や物資の保管庫。それと警備兵の住居だ。」
「二階層。」
「上流階級の住居。」
「三階層。」
「政府関係者や政治の中心人物。」
淡々と語られる言葉に、誰も口を挟まない。
「四階層。」
「王族関係者。」
「そして、日本最高峰の医療設備。」
その言葉だけは、金剛の耳を逃さなかった。
無言のまま煙草を咥え直す。
天涯は最後に、シェルターのさらに奥を見つめた。
「五階層。」
少しだけ間を置く。
「……そこだけは分からねぇ。」
「何があるのか。」
「誰がいるのか。」
「俺にも分からねぇ。」
重い沈黙が流れる。
巨大なシェルター。
その最深部だけは、元政府関係者だった天涯ですら知らない。
その事実が、この場所の異質さを物語っていた。
「一つ確認したい。」
不知火が口を開く。
「さっき、ここへ来る前に使った能力。」
「“ ヘルプ”だったか。」
「あぁ。」
「誰も地下から呼ばれなかった。」
「つまり、この中には魂レベルの高い人間はいないってことか?」
天涯は首を横へ振る。
「違う。」
「俺の能力には条件がある。」
全員が耳を傾ける。
「呼べるのは、自分と同じ高さ。」
「同じ目線にいる人間だけだ。」
「地上で能力を使えば。」
「地上三十キロ圏内。」
「地下なら地下。」
「高さが違えば対象外。」
「なるほど……。」
不知火は静かに頷いた。
能力にも万能はない。
だからこそ、この世界は面白くもあり、残酷でもある。
「ご、ご護衛の人とかって……。」
ビビりが恐る恐る手を挙げた。
「強いんですか?」
天涯は笑う。
「あぁ。」
「特殊な訓練を受けた連中だ。」
「銃器の扱いは当然。」
「素手でも、そこらの格闘家なら瞬殺だろうな。」
「……。」
ビビりの顔色が一気に青ざめる。
「む、無理じゃないですかぁ……。」
「そんな所に六人で突っ込むとか。」
チー牛が眼鏡を押し上げる。
「寄せ集めにも程があるだろ。」
「死亡フラグで草。」
「まぁな。」
天涯は否定しなかった。
「だから真正面から暴れる気はねぇ。」
巨大な扉へ歩み寄る。
「鍵はもう消えた。」
「一階層へ入ること自体は難しくない。」
「問題はその先だ。」
天涯はシェルターの中心部を指差した。
「あの中には巨大エレベーターがある。」
「四階層まで一気に下がれる。」
「俺たちの狙いはそこだ。」
「王族。」
「医療設備。」
「全部四階層に集まってる。」
金剛が小さく鼻を鳴らす。
「面倒くせぇ。」
「だが、医者がいるなら話は別だ。」
天涯は満足そうに頷いた。
「ここからは別行動だ。」
「二人一組で動く。」
全員が顔を上げる。
「不知火。」
「ブリ子。」
「はいは〜い。」
ブリ子が元気よく返事をする。
「金剛。」
「ビビり。」
「ひぃっ!」
「よ、よろしくお願いします……。」
金剛は返事もしない。
「俺。」
「チー牛。」
「了解。」
チー牛は淡々と答えた。
不知火が首を傾げる。
「なぜ三組に分ける?」
天涯は迷わず答えた。
「リスクの分散。」
「そして成功率を上げるためだ。」
「全員一緒なら、一度見つかった時点で終わる。」
「三方向から動けば、生き残る可能性も増える。」
誰も反論しなかった。
確かに、その通りだった。
「自己紹介も終わった。」
天涯が笑う。
「まずは入るか。」
「こわ〜い。」
ブリ子は口元へ手を添え、大袈裟に肩を震わせる。
だが、その目だけはどこか楽しそうだった。
「え、えっと……。」
ビビりは今にも泣きそうな顔になる。
「もう少し慎重に作戦とか立てません?」
「死亡フラグしかなくて草。」
チー牛がぼそりと呟く。
「草じゃねぇ。」
天涯が笑った。
「ここからが本番だ。」
六人はゆっくりと巨大な鋼鉄の扉の前へ並ぶ。
目の前にあるのは。
十年間。
誰にも開かれることのなかった巨大な要塞。
神の存在を知りながら。
自分たちだけ生き残ろうとした者たちの城。
六人は互いに顔を見合わせることなく、一歩前へ踏み出した。
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”
15日目 “ 四季”
16日目 “ 嫌悪感”




