109話 4人
神様サバイバル16日目
「金剛さん!!」
桐山の叫びが、刑務所の廊下へ響き渡る。
眩い光。
それは一瞬だった。
目の前に立っていたはずの金剛堕落は、光に包まれたかと思うと、そのまま跡形もなく姿を消した。
「……。」
桐山は目を見開いたまま、その場へ立ち尽くす。
何が起きた。
理解が追いつかない。
「え……。」
鉄格子の奥から、小さな声が漏れた。
楓の同級生。
橋本だった。
先ほど、金剛へ「紙が落ちました」と声を掛けた女性である。
橋本は青ざめた顔で桐山を見る。
「な、なによ……。」
「わ、私じゃないわよ?」
「……。」
桐山は橋本を見つめる。
そして静かに首を横へ振った。
「分かっています。」
「あなたに、そんなことができるとは思っていません。」
橋本は胸を撫で下ろす。
刑務官たちは依然として鉄格子の中にいた。
鍵はすでに消滅している。
だからこそ、檻の外には常に銃を持った見張りが立っている。
逃げられない。
逃がさない。
それだけで十分だった。
桐山は近くの見張りへ視線を向ける。
「しばらく留守にします。」
「ここは頼みましたよ。」
「はっ!」
見張りが敬礼する。
桐山は頷き、そのまま足早に外へ向かった。
刑務所前。
トラックの荷台。
盗丸と医楽が待機していた。
桐山が戻ってくる姿を見て、盗丸が周囲を見回す。
「ん?」
「大将は?」
桐山は一瞬だけ言葉を探した。
「……金剛さんは。」
「目の前から消えました。」
「……は?」
盗丸は間抜けな声を漏らす。
「なんだそりゃ。」
桐山も苦笑いするしかない。
「私も意味が分かりません。」
「光ったと思ったら……。」
「消えました。」
盗丸は腕を組む。
「……。」
嘘ではない。
この世界に嘘は存在しない。
ならば、本当に消えたのだろう。
「まぁ。」
盗丸は肩をすくめた。
「大将が、そう簡単に死ぬわけねぇ。」
「……ですね。」
桐山も小さく笑う。
「病人が待ってる。」
盗丸は助手席へ乗り込んだ。
「急ごうぜ。」
エンジン唸る。
トラックは再び走り始めた。
金剛を乗せないまま。
⸻
薄暗い倉庫。
「……。」
金剛はゆっくりと目を開けた。
湿った空気。
鉄の匂い。
知らない場所だった。
「なんだ、ここは。」
低く呟く。
辺りを見渡す。
男が三人。
女が一人。
少し離れた場所には、さらに二人。
全部で六人。
全員が同じように戸惑っている。
どうやら、誰一人としてここへ来た理由を知らないらしい。
「ちょ、ちょっと!」
若い男が慌てて辺りを見回す。
「ここどこですか!?」
「誰か説明してくださいよ!」
その隣では若い女が身体を震わせていた。
「なにここ。」
「誘拐?」
「こわぁい……。」
誰も答えない。
空気だけが重くなる。
その時だった。
「おい。」
低い声。
全身に刺青を入れた男が前へ出た。
懐から一本のナイフを取り出す。
ギラリ。
刃が鈍く光る。
「ふざけんな。」
男は周囲を睨みつける。
「誰だ。」
「こんなくだらねぇことしやがったのは。」
返事はない。
男はさらに苛立つ。
「おい!」
そして。
目の前に立っていた一人の男へ、ナイフの切っ先を向けた。
黒いスーツ。
鋭い眼光。
葉巻を咥えた男。
金剛堕落。
その瞬間だった。
倉庫の空気が変わる。
奥で様子を見ていた不知火が息を呑む。
(……まずい。)
そう思った。
理由は分からない。
ただ、本能が警鐘を鳴らす。
奥にいた男も、小さく肩をすくめる。
天涯帝。
「……。」
よりによって。
一番、刃を向けてはいけない相手だった。
しかし。
刺青の男は気付かない。
「聞いてんのか、コラァ!」
ナイフを構えたまま近づく。
金剛は動かない。
逃げない。
構えもしない。
ただ。
男を見ていた。
「……。」
次の瞬間。
「え?」
刺青の男の声が漏れる。
気付けば。
自分の手首が、金剛の右手に掴まれていた。
いつ動いた。
誰も見えなかった。
「なっ……。」
ボキッ。
鈍い音が響く。
「ぎゃあああああっ!!」
手首があり得ない方向へ曲がる。
ナイフが床へ転がった。
「て、てめぇ!」
男が叫ぶ。
だが。
遅かった。
金剛は折れた腕を放すことなく。
そのまま左手で男の首を掴んだ。
軽々と持ち上げる。
「ま、待っ――」
ゴリッ。
嫌な音。
首が百八十度回転する。
力なく揺れる身体。
そして。
ドサッ。
金剛はゴミでも捨てるように死体を床へ放り投げた。
倉庫が静まり返る。
「きゃああああ!!」
女が悲鳴を上げた。
腰を抜かし、その場へ尻もちをつく。
「こ、こわい……!」
別の男は腰を抜かし。
そのまま失禁した。
「ひっ……。」
「ひぃぃ……。」
もう一人の青年だけが、呆然と死体を見つめながら思わず呟く。
「ヤクザ瞬殺で草……。」
その声だけが、場違いに軽かった。
奥の闇から。
ゆっくりと二人の男が姿を現す。
一人は不知火。
もう一人は。
天涯帝。
天涯は死体を一瞥し、苦笑いを浮かべた。
「五人……。」
一拍置く。
「いや。」
「四人か。」
金剛は無言で天涯を睨む。
「悪ぃな。」
天涯は頭を掻いた。
「ここへ呼んだのは、俺だ。」
「協力してほしいことがある。」
金剛の目が細くなる。
「あぁ?」
低い声が響く。
「どうやら。」
「まだ死にてぇ奴がいるらしい。」
凄まじい殺気。
倉庫の空気が一気に重くなる。
それでも。
天涯は笑っていた。
「こりゃあ。」
口元を吊り上げる。
「でけぇ獣が引っかかったな。」
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”
9日目 “ 約束”
10日目 “ アルコール”
11日目 “ 血の繋がり”
12日目 “ 疲れ”
13日目 “ 財産”
14日目 “ 嘘”
15日目 “ 四季”
16日目 “ 嫌悪感”




