表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/111

108話 落ちましたよ

神様サバイバル16日目

古民家。


「はぁ〜……。」


楓はソファへ深く腰掛け、大きく息を吐いた。


「生き返るぅ……。」


部屋の中には、ひんやりとした風が流れている。

外は一年中夏。


昼間ともなれば、立っているだけで汗が噴き出すほどの猛暑。

それなのに。

古民家だけは別世界だった。


「電気って最高……。」


楓は天井を見上げながら呟く。

楓の電気のおかげで、古民家のエアコンは今日も元気よく動いていた。


「外の人たちには悪いけど……。」


「もう外に出たくないわ。」


「わしも同感じゃ。」


医楽がお茶をすすりながら笑う。


「この歳になると暑さは堪えるからのう。」


「まぁ、その快適さも今日までかもしれない。」


廃人がモニターを閉じながら言った。


「そろそろ動く。」


的場が腕を組む。


「万能鍵か。」


「あぁ。」


廃人は頷いた。


「万能鍵は神愛教本部。」


「祭壇にある。」


その言葉に。

夢見と的場が同時に反応する。


「神愛教……。」


「呪崎黄泉。」


夢見の声が少し低くなる。

花魁夜。


夢見の親友を奪った宗教団体。


そして。

現在、神愛教を束ねる男。

呪崎黄泉。


「直接ぶつかることもできなくはない。」


廃人は冷静に続ける。


「でも。」


「正面突破は被害が大きすぎる。」


「だから潜入。」


「祭壇から万能鍵だけ盗んで帰る。」


「それが一番現実的。」


「盗むなら。」


的場が自然と口を開く。


「盗丸がいればな。」


「あぁ。」


廃人も苦笑した。


「盗丸は僕の周回でも。」


「潜入、調達。」


「偵察、逃走。」


「そういうの全部得意だった。」


少し笑う。


「戦闘以外は、器用になんでもそつなくこなしてたよ。」


「褒めてるの、それ。」


楓が笑う。


「褒めてる。」


廃人は即答した。


「盗丸は便利。」


「けど。」


その表情が少しだけ曇る。


「今はいない。」


部屋に静けさが流れる。


「だから。」


廃人は三人を見る。


「顔が割れてない。」


「僕、楓、ピエロ。」


「この三人が潜入役かな。」


その時だった。

ブォォォォン……。


遠くから。

大型車両のエンジン音が聞こえてきた。


「……!」


的場の目が変わる。


「外!」


そう言うより早く。

的場は玄関を飛び出していた。

ピエロも続く。


庭へ出る。

的場はライフルを構えた。

ピエロは背中から特製大砲を下ろす。


銃口が。

ゆっくりと道路へ向く。


やがて。

一台のトラックが古民家の前で止まった。


「来るぞ。」


的場が呟く。

荷台の幌が揺れる。


「……。」


全員が息を呑む。

その瞬間。

荷台の中から。


「おーい!」


聞き慣れた声。

勢いよく手を振る男。


「盗丸!」


「よぉ!」


盗丸だった。


「なんだよその物騒な歓迎。」


的場とピエロは顔を見合わせる。

そして同時に武器を下ろした。


「脅かすなよ。」


盗丸は笑いながら荷台を飛び降りた。


事情を聞き終えた古民家。

部屋の空気は重くなっていた。


「……なるほど。」


医楽が静かに頷く。


「高熱。」


「食事も摂れん。」


「子供か。」


盗丸も頷く。


「あぁ、かなり危ないらしい。」


医楽は立ち上がった。


「分かった。」


「行こう。」


「待って。」


廃人だった。

部屋の全員が振り返る。


「安全なの?」


「……。」


「医楽は僕たちにとって大事なヒーラーだ。」


「危ない場所へ、ほいほい連れて行かれても困る。」


その言い方は。

どこか冷静すぎた。


合理的。

損得だけを見ているようにも聞こえる。

盗丸が首を傾げる。


「……なんか。」


「雰囲気変わったか?」


廃人を見る。


「前のお前なら。」


「もっと先に『助けよう』って言ってた気がする。」


「……。」


一瞬。

廃人の表情が止まる。


「いや別に。」


短く答えた。

それ以上。

何も言わない。

医楽が笑う。


「病人がおる。」


「それだけで十分じゃ。」


ゆっくり歩き出す。


「病人がおる以上。」


「動くのが医者じゃ。」


廃人を見る。


「心配せんでも。」


「ちゃんと戻ってくるわい。」


その笑顔に。

廃人も何も言えなかった。


「……。」


「頼む。」


その一言だけを残す。

医楽は微笑み。

盗丸と共にトラックへ乗り込んだ。


エンジンが唸る。

トラックは土煙を上げながら。

刑務所へ向かって走り出した。


刑務所。


「ここで待っててください。」


桐山がトラックを降りる。


「金剛さんを呼んできます。」


「分かった。」


盗丸は頷いた。

医楽も静かに座ったまま外を眺める。

桐山は足早に刑務所へ入る。



所長室。


「金剛さん。」


「準備が整いました。」


「医者も到着しています。」


「……そうか。」


金剛は短く答えた。

葉巻を灰皿へ押し付ける。


「今行く。」


立ち上がる。

所長室を出る。


その後ろを。

桐山が歩く。


廊下には。

鉄格子。


そして。

拘束されたままの刑務官たち。


誰も。

金剛へ逆らおうとはしない。


ただ。

黙って見送るだけだった。


その時。

一人の女性が口を開く。


「……あの。」


若い女性だった。

楓の同級生。

橋本。


「なんだ。」


金剛は立ち止まらない。

橋本は恐る恐る指差した。


「ポケットから……。」


「紙。」


「落ちました。」


金剛の足が止まる。

振り返る。


床。

一枚の紙。


「……。」


桐山も足を止めた。

金剛はゆっくり戻る。


しゃがみ込む。

手紙だった。

藤崎栞からの。

あの手紙。


この時。

金剛が戻った距離は。

ほんの数歩。

数メートルにも満たない。


だが。

その数歩が。


後に。

世界の運命を大きく変えることになる。


金剛は手紙を拾い上げた。

胸ポケットへ戻そうとした。


その瞬間。

個人モニターが眩く光を放つ。


「……?」


桐山が目を細めた。


「金剛さん……?」


光は。

一瞬だった。


次の瞬間。

そこにいたはずの金剛堕落は。


跡形もなく。

姿を消していた。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

13日目 “ 財産”

14日目 “ 嘘”

15日目 “ 四季”

16日目 “ 嫌悪感”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ