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101話 ラストチャンス

神様サバイバル15日目

「一緒に、神を殺そう。」


その言葉が落ちたあと。

古民家は、しばらく静まり返っていた。


誰もすぐには言葉を返せない。

当然だった。


つい先ほどまで十三歳だった少年が、突然十九歳ほどの青年へ成長した。

そのうえ。


21回目。

また全滅する。

神を殺す。

理解の追いつかない言葉ばかりが、次々と飛び出してくる。


そんな中。

最初に口を開いたのは、的場だった。


「……神って。」


わずかに身を乗り出す。

その目には恐怖よりも、好奇心が浮かんでいた。


「殺せるのか?」


どこかワクワクしている。

楓は呆れ果てたように額へ手を当てた。


「あぁ……。」


「厨二病よ。」


医楽を見る。


「医楽、頭見てあげて。」


廃人はそんなやり取りを見ながら、大きくため息を吐いた。


「……はぁ。」


やっぱり。

ちゃんと説明しなければならないらしい。

廃人はゆっくりと腰を下ろした。


「まず。」


全員を見る。


「僕は、神様サバイバルを20回経験してる。」


楓の表情が固まる。

的場も笑みを消した。


「そして。」


廃人は自分の胸へ手を当てる。


「今回が21回目。」


「……どういう意味だ?」


的場が尋ねる。


「リセマラ券。」


廃人は答えた。


「僕はそれを使って、神様サバイバルを最初からやり直してきた。」


「20回も。」


誰も言葉を挟めなかった。

途方もない数字だった。


一度ですら。

たった十五日ですら。

これほどの地獄なのだ。


それを。

20回。


「ちょっと待って。」


楓が眉をひそめる。


「じゃあ、記憶も毎回リセットされるわけ?」


廃人は首を横に振った。


「いや。」


「前回までは、ちゃんと引き継げてた。」


「じゃあ、なんで今回は忘れてたんだ?」


的場の問いに。

廃人は少しだけ目を伏せた。


「……足りなかったんだ。」


その瞬間。

廃人の脳裏に、失われていた記憶が蘇る。



身体が動かなかった。

指一本。

動かす力さえ残っていない。


全身は傷だらけ。

呼吸をするたび、肺が焼けるように痛む。

視界も霞んでいた。


そんな廃人を。

神は楽しそうに見下ろしていた。


『惜しかったねぇ。』


モニターに表示されている数字。

魂レベル 99996

神は指を差し、笑う。


『あと四。』


『四レベル足りないね。』


廃人は床に這いつくばったまま、何も答えられない。


悔しい。

あと少し。

本当に。

あと少しだった。


それなのに。

届かなかった。

神はしゃがみ込み、そんな廃人の顔を覗き込む。


『しょうがないなぁ。』


『特別にサービスしてあげるよ。』


神の笑みが深くなる。


『足りない魂レベルは』


『君の記憶をもらう。』


廃人の瞳が僅かに動いた。


『感謝してね?』


拒否する力など残っていなかった。

それでも。

もう一度やり直せるのなら。


廃人は目を閉じた。

神は楽しそうに続ける。


『あ、そうそう。』


『君、何回もリセマラ券使ってるみたいだけどさ。』


『肉体はちゃーんと元通りになるよ。』


『でもね。』


笑顔のまま。

自分の胸を指差す。


『魂は、ちゃんと削られてるからね?』


『何回も何回もやり直してたら。』


『そのうち本当に廃人(はいじん)になっちゃうよ?』


一拍。


廃人(はいと)だけに。』


神は腹を抱えて笑った。

廃人にはもう、怒る力すら残っていなかった。


ただ。

次こそは。

その思いだけを残し。

意識は闇へ落ちていった。



「……ギリギリだった。」


廃人の声で、全員の意識が現実へ戻る。


「前回。」


「魂レベルが、リセマラ券を使うための条件に届かなかった。」


廃人は自分の手を見る。

今は十九歳まで成長した手。


けれど。

その中に宿る魂は。

もう二十回も、この地獄を経験している。


「神が、記憶と引き換えに足りない分を埋めた。」


「だから今回だけ、僕は全部忘れてた。」


的場が眉をひそめる。


「じゃあ……。」


「今回もダメだったら、またリセマラすればいいんじゃないのか?」


廃人は首を横に振る。


「分からない。」


その声から。

初めて軽さが消えた。


「魂はリセットされない。」


「もう何度も削ってる。」


「今回もリセマラ券を使えるところまで辿り着ける保証なんてない。」


拳を握る。


「だから。」


廃人は顔を上げた。


「今回がラストチャンス。」


静かな声だった。


「今回、神を殺せなかったら。」


一拍。


「ゲームオーバー。」


その言葉の意味を理解し。

誰も、すぐには口を開けなかった。

的場がやがて尋ねる。


「神を殺せなきゃ……クリアできないのか?」


「いや。」


廃人は首を振る。


「最高で29日目までは行った。」


「29…。」


残り一日。

そこまで辿り着いていた。


「でも。」


廃人は乾いた笑みを浮かべる。


「無理ゲー。」


「そもそも……。」


視線が一人の女性へ向く。

夢見。


「羽衣さんがいなかったら。」


「二十日くらいで人類全滅してるんじゃないかな。」


「……私ですかぁ?」


夢見は自分を指差す。

本当に心当たりがないらしい。


廃人は、その顔を見つめる。

今はまだ。

自分の力がどれほどのものになるのか。


何も知らない。

けれど。

廃人は知っている。



過去の世界。

多くの人間が、一つの場所へ集まっていた。

誰もが不安そうな表情を浮かべている。


その中心。

一人の女性が、静かに目を閉じていた。


夢見羽衣。

後に。

極美の予言者。

そう呼ばれる女性。


長い沈黙のあと。

夢見はゆっくりと目を開ける。


「明日消えるのはぁ……。」


全員が息を呑む。


「“回転”ですよぉ。」


その瞬間。

周囲から歓声が上がった。


「おぉ!」


「さすが夢見さんだ!」


「回転か!」


「今のうちに対策できるぞ!」


「いつもありがとう!」


次々と感謝の言葉が飛ぶ。

夢見は嬉しそうに頬を緩めた。


「へへへぇ。」


いつもの。

少し間の抜けた笑い方。

誰もが安心してその場を離れていく。


明日も生きられる。

夢見のおかげで。

誰もがそう信じていた。


だが。

誰もいなくなったあと。


「……っ。」


夢見は口元を押さえた。

指の隙間から。

赤いものが零れ落ちる。


血だった。

膝が震える。

壁へ手をつき、何とか身体を支える。


『おい。』


夢見の中から声が響く。

Bちゃん。


『こんな負荷の大きい予知、何回もしてたら。』


『本当に死んじゃうぞ?』


夢見は口元の血を拭った。

そして。

笑った。


「うん。」


「ありがとう、Bちゃん。」


『だったら――』


「でもねぇ。」


夢見は遠ざかっていく仲間たちの背中を見る。

嬉しそうに。

本当に嬉しそうに。


「嬉しいんだよぉ?」


『……。』


「私の占いが。」


「みんなの役に立てててぇ。」


Bちゃんはしばらく何も言わなかった。

やがて。


『……勝手にしろ。』


その声は消えていった。

夢見はまた、小さく笑った。


「へへへぇ。」


その姿を。

物陰から見つめている少年がいた。

廃人だった。

声を掛けることはできなかった。


ただ。

拳を握り締めながら。

全部、見ていた。



「……。」


現在。

廃人は夢見から静かに視線を逸らした。


「とにかく。」


「羽衣さんの力は、それくらい重要ってこと。」


夢見はよく分からないまま微笑んでいる。


「そうなんですかぁ。」


楓はまだ納得していなかった。

腕を組みながら、廃人を見る。


「ていうかさ。」


「本当に20回もやってるなら。」


「これから何が消えるとか。」


「何が起きるとか。」


「全部知ってるんじゃないの?」


廃人は首を横に振る。


「それが無理なんだよね。」


「なんで?」


「消滅ワードは、毎回違う。」


楓の表情が変わる。


「同じものが消えることもある。」


「でも順番が違ったり。」


「そもそも前の周回では消えなかったものが消えたり。」


「それに合わせて人間の動きも変わる。」


「死ぬ人。」


「生き残る人。」


「出会う人。」


「全部。」


廃人は楓を見る。


「正直。」


少しだけ笑う。


「雷女……。」


楓の眉が動いた。


「……楓と仲間になったのも。」


慌てて言い直す。


「今回が初めて。」


「……は?」


楓は目を丸くする。

廃人は思い出していた。


自分が知る。

別の世界の水無月楓を。



広い会議室。

集められていたのは、魂レベル100以上。

神を討つ。


ただその目的のためだけに集められた、世界でも屈指の強者たち。


その中に。

一人だけ。

誰とも話さず、壁際に立つ少女がいた。

水無月楓。


常に単独行動。

誰とも組まない。

誰にも媚びない。


彼女の防衛キーワードは――。

“電気”


「電気?」


一人の男が吹き出した。


「なんだよ。」


「ただの便利屋の姉ちゃんか。」


周囲から笑い声が上がる。

便利屋。

消滅ワードによって失われたものを再現し、人々の生活を支える非戦闘要員。


必要不可欠な存在でありながら。

戦う者の中には、そう呼んで見下す者もいた。


楓は何も言わない。

男はそれが気に入らなかったのか。

ニヤニヤと笑いながら近付いていく。


「おい、姉ちゃん。」


楓は無視する。


「よく見りゃ顔は悪くねぇな。」


周囲から下品な笑い声が上がる。


「どうだ?」


「俺の女になれよ。」


「満足させてやるぞ?」


男が手を伸ばす。

その指先が。

楓の肩へ触れた。


瞬間。

楓の瞳が、男へ向いた。


感情はない。

怒ってすらいない。


ただ。

静かに。

一言。


落雷(テンペスト)。」


轟音。

白い閃光が室内を埋め尽くした。


誰も反応できなかった。

焦げた臭いが鼻を突く。


さっきまで笑っていた男が。

黒く焼け焦げ、その場へ崩れ落ちる。

笑い声は消えていた。


誰一人。

動けない。

楓は倒れた男を見ることすらしなかった。

肩に触れられた場所を、鬱陶しそうに手で払う。


そして。

凍りついた会議室の中。

静かに告げた。


「私に触れるな。」

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

13日目 “ 財産”

14日目 “ 嘘”

15日目 “ 四季”

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