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100話 今回で殺る

神様サバイバル15日目

静まり返った古民家。

誰もが、廃人の次の言葉を待っていた。


このままじゃ、また全滅する。

その言葉の意味を理解できる者は、一人もいない。


しかし。

廃人は説明するより先に、ゆっくりと周囲を見渡していた。


一人。

また一人。

まるで、そこにいることを確かめるように。


まず目に入ったのは、楓。

水無月楓。

(落雷の女帝。)


何度も見た。

雷鳴の中心に立ち、敵味方関係なく恐れられた姿を。


次に。

的場。

的場射檻。

(不屈の正義マン。)


何度倒れても立ち上がる。

誰かを守るためなら、自分の命さえ平然と差し出す。

その生き様を、廃人は知っている。


そして。

医楽夜捨。

(人類最後の万能薬。)


数え切れないほどの命を繋いだ男。


日枝三郎。

(気狂い爆弾ピエロ。)


笑いながら死地へ飛び込み、何度も戦況をひっくり返した狂人。


そして最後に。

廃人の視線が止まった。

夢見羽衣。


今はまだ。

どこか頼りなく、柔らかな笑顔を浮かべている女性。

けれど廃人は知っている。


(極美の予言者。)


胸の奥から、突然何かが込み上げた。

あぁ……。

廃人の瞳から、一筋の涙が零れる。


(羽衣さん。)


(あなたのおかげで……。)


続きは心の中でも言葉にならなかった。

夢見は不思議そうに首を傾げている。


その姿を見ているだけで、胸が締め付けられた。

みんな、いる。


まだ。

全員、生きている。

それだけじゃない。


(……すご。)


改めて周囲を見渡す。


(ネームドが揃ってる。)


偶然とは思えない。


今まででも、これほど早い段階で彼らが一か所に集まったことはなかった。


もしかしたら。

今回なら。

そんな希望が、ほんの少しだけ胸をよぎった。


「ちょっと。」


楓の声で現実へ引き戻される。


「全部思い出したって、何よ?」


廃人は楓を見る。

しばらく見つめたあと。


「……雷女って、こんな喋る奴だったんだ。」


思ったことが、そのまま口から出た。

一瞬。

静寂。


楓の眉が吊り上がる。


「は?」


「誰が雷女よ!」


「うわ。」


廃人は思わず身体を引く。

的場が苦笑しながら間へ入った。


「まぁまぁ。」


「一気に記憶が戻って混乱してるんだろ。」


「そういうことにしといて。」


廃人は適当に答えながら、再びモニターへ目を落とす。

今は説明している時間が惜しい。


(十五日目。)


消滅ワード。

神様マーケット。

現在の状況。

記憶の中にある情報と、今の世界を一つずつ照らし合わせていく。


(大丈夫。)


(まだ間に合う。)


そして。

自分自身の情報を開く。


魂レベル 0


「……まぁ。」


廃人は苦笑した。


「そうだよね。」


全部やり直したのだ。

積み上げたものも。

手に入れたものも。

何もかも。


今の自分は、またゼロから。

だが。

知識だけはある。


(とりあえず三十。)


(そこまでは上げなきゃ。)


「何一人でブツブツ言ってんの?」


楓が怪訝そうに覗き込む。

廃人は答えない。

モニターを操作する。


そして。

迷うことなく、一つの項目を押した。


【神様通話】


的場が目を見開く。


「おい、待て!」


次の瞬間。

廃人の身体が光に包まれた。


「廃人!?」


楓の声が遠ざかる。

視界が白く染まり。

世界が切り替わった。


気付けば。

廃人は神の間に立っていた。


目の前には、

神がいた。


【神様通話】


・個別スクリーンにて誰でも通話可能。

・通話料十秒=寿命一年。

・神と一対一。通話内容は周囲には届かない。

・神は嘘をつかない。


神はいつもの軽薄な笑顔を浮かべている。


『やぁ、音棘廃人。』


『どうしたの?』


ニヤニヤと笑う。


『攻略がぁ〜、攻略がぁ〜って、いつも言ってたけど。』


『何かいいことでも思いついた?』


廃人は答えない。

視線をモニターへ向ける。

通話時間が刻まれていく。


十秒。

二十秒。


寿命が削れていく。

それを見ながら、小さく呟いた。


「……まぁ。」


「一分ってとこかな。」


神の笑顔が僅かに引きつる。


『……は?』


『何?』


『神と話したいんじゃないの?』


『質問は?』


神は両手を広げる。


『特別に色々教えちゃおっかな?』


「いや。」


廃人はあっさり答える。


「別にいいよ。」


『……じゃあ何しに来たの?』


神は首を傾げる。


『寿命減るよ?』


そして、何か思いついたように笑った。


『あ。』


『神を直接見たかった?』


『それで、いざ会ってみたら緊張しちゃった?』


廃人は神を見る。

その目には。


恐怖も。

緊張も。

憧れもなかった。


「魂レベルを上げに。」


神の表情が止まった。

笑顔が消える。


『……なんで。』


低い声。


『なんで、そのこと知ってんの?』


廃人は小さく笑った。


「お前が昔。」


「ドヤ顔で教えてくれたよ。」


神の瞳が僅かに見開かれる。


『……昔?』


沈黙。

そして。


『君、まさか……。』


「うん。」


廃人は当たり前のことのように答える。


「リセマラした。」


初めて。

神の顔に、明確な動揺が浮かんだ。


『……あぁ。』


『なるほどね。』


神は笑顔を作り直す。


『よくできたね。』


『魂レベル十万も必要な』


廃人は鼻で笑った。


「お前さ。」


「全知全能とか言ってる割には、記憶力ないよね?」


『……は?』


廃人は指を折るように数える。


「今回で……二十一回目かな。」


神の顔から、完全に笑みが消えた。


「そのやり取り。」


「もう飽きたよ。」


『……ぐぬぬ。』


神の眉間に皺が寄る。

廃人はその表情を見て、少しだけ楽しそうに笑った。


『いい気になるなよ?』


今度は神の声から軽さが消えていた。


『毎回リセマラしてるってことは――』


『結局クリアできないから、必死に逃げてるだけで――』


「あ。」


廃人がモニターを見る。


「悪い。」


「時間だ。」


『は?』


「じゃ。」


『ちょ、待――』


ブツッ。

通話を切った。


古民家。

光が弾ける。


「……っ!」


廃人が再び姿を現す。

全員が言葉を失った。


そこにいたのは。

先ほどまでの十三歳の少年ではなかった。


背が伸びている。

幼さの残っていた輪郭も変わり。

肩幅も広がっていた。


六年分の寿命。

六年分の人生。

自ら命を削り。


神という存在と真正面から向き合った経験。

その全てが、魂へ刻み込まれていた。


魂レベル 30

十九歳。

一人の好青年へと成長した廃人が、そこに立っていた。


楓が目を丸くする。


「……え?」


何度も廃人を見る。


「なんか……雰囲気変わった?」


夢見も驚いたように口元へ手を当てる。


「イケメンですねぇ。」


「そこ?」


的場が思わず突っ込む。

だが。

廃人だけは笑わなかった。


全員を見る。

水無月楓。

的場射檻。

医楽夜捨。

日枝三郎。

夢見羽衣。


かつて。

何度も失った人たち。

今度こそ。


廃人はゆっくりと息を吸った。


「みんな。」


その声には。

もう、少年の幼さはなかった。


「協力してほしい。」


一拍。


「一緒に。」


廃人は真っ直ぐ全員を見据える。


「神を殺そう。」

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

13日目 “ 財産”

14日目 “ 嘘”

15日目 “ 四季”

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