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367.最終回 レポー・トリックの記録、追補

 リック・トリック監督最後の作品、「神話」封切り直後、リック監督は姿を消した。

 最後の仕事を終えた、そう実感した義祖父は忽然と姿を消した。

 無論、衰えたとはいえ強大な魔力を持っていたのですぐ居場所は割れた。


「何故去るんです!妻が、義母やみんなが悲しみますよ!」


 流石に私も怒った。怒らずにいられなかった。

 こんな偉大な、世界の恩人が孤独に死ぬ。

 そんな事許されるべきではない。


「俺はこんなんだからさ。

 俺が死んだって知れたら、ここぞとばかりに外道がはびこるよ。

 だからさ。生きてるんだか死んでるんだか判らない様に、一人でどっかに行きたいんだよ」


 半分本当で、半分嘘だ。


 今まで、義母ブロムさんが残した記録、妻エフィーと結婚した後の義祖父リック社長を見ていれば解る。


 彼はみんなと一緒にいるのが大好きだ。

 一人になんかしちゃいけないんだ。


 私は無線で

「リックさんをマギカ・テラで落ち着いて欲しいと思う」

と親族に、英雄チームの家族に訴えた。


 あそこなら長寿の知己もいる。

 例え義祖父が世を去っても口外しない、信頼できる仲間がいる。


 どこかで孤独で死ぬなんてよりも、余程楽しく過ごせるはずだ。

 皆が同意してくれた。


「お義祖父さん!マギカ・テラへ行きましょう!」

 宿へ戻ると、義祖父の姿はなかった。


 手足を縛ってでも一度キリエリアへ、クランの自宅へ連れ戻さなかった自分の詰めの甘さを悔やんだ。


 既に義祖父の魔力は追える程に残っていなかった。


 数日中には。

 一族は、何か悟った様な顔をしていた。


「お父さんって、そういう人なのよ」

「こんだけ世の中のために尽くしてさ、一人で死にたいなんて!」

「ありがとう。父の最後の言葉を聞けただけでも、君に感謝するよ」


 誰も私を咎めなかった。


******


 こうして、キリエリア、西側諸国、いや大陸中央だけでなく東側諸国にも平和と繁栄をもたらした稀代の英雄。


 そしてゴドランとスプラルジェントの父、特撮の神様、リック・トリックは私達の前から姿を消した。


 その最期は誰も知らない。

 知っている人がいるのか、或いは未だに生きているのかも、誰も知らない。


「死を公言すべきではない。

 あくまで誰も知らぬ旅に向かい、音信不通。

 そう記そう。


 そうせねば我が叔父も許さぬであろう」


 義祖父との最後の対面を報告すると、カンゲース7世陛下の意向でその通り公表された。


******


追補:

 以下はあくまでも筆者であるレポー・トリックの私見に過ぎない。

 歴史記録としての価値は甚だ疑問であるため、無視する事をお勧めする。


******


 数年を経て、ゴドラン復活の気運が高まった。


 だがその検討用台本は、門外漢ながらもゴドラン権利人である私にとって余りに許せないものだった。


 極大魔法の事故がゴドランと、太古に生存した放射線耐性生物を呼び覚まし、国軍の英雄がこれを退け、最後はゴドランが敵を倒し去っていく。


 一見良く出来た娯楽大作だ。


 だが、そこには王国の勝利とゴドランの英雄性しか描かれていなかった。


 人間が驕り高ぶって生み出した極大魔法への怒りと反省が、全く無かった。

 他国が起こした事故としかかかれていない。他人事なのだ。


 私は抗議した。


「義祖父であれば絶対赦さなかっただろう。

 私はゴドランや義祖父が関わった怪獣以外でこれを映画化するならば、一切の意見を申し上げる資格はない!」

と断言し、妻も同意した。


「王国を侮辱する気か?」


「侮辱しているのはあなた達だ!

 無益な戦争に傲慢な極大魔法、これらを戒め続け、平和と協調を尊重し続けたかたこそ、我が国は今の繁栄があるのだ!


 もし敵が極大魔法を持てば我が国も対抗せざるを得ないだろう、それは仕方がない、そうすべきだろう。


 だが、それが怖ろしい事だ、決して英雄の勝利の後ろに隠される事があってはならない、それを忘れてはゴドランは放射線で敵を倒す兵器に堕してしまう!


 この恐ろしさを忘れる事があれば、この国はいつ滅びてもおかしくない!」


 打ち合わせの後。

「あんなに怒ったあなたを初めて見たわ」

 妻にそう言われた。


 諸国条約で働く際、怒りを飲み込め、友情を持って務めよ、そう教えられたはずなのだが。

「本当に。何故だろうか」


「お爺様も喜んでくれるわ」


 権利を任されたものとして、言うべき事は言えただろうか?


 結局、脚本の骨子である、王国の勝利やらゴドランの英雄性やらを削除し、当時の記録を学び直すことによって第二稿が上がった。


 娯楽性や爽快感が無い、映画として失敗する、そう批判された。

 だが譲ってはいけないものは譲るべきではない。


「映画としての爽快感については私は解らない。

 しかし、この第二稿こそが、ゴドランの本当の姿に近い、そう私は思います」


 こうして私の意見は通り、第二稿で行く事になった。


 本作の方向性に多くの人が賛同し、意見した。

 その意見を整理するのに私も駆り出された。


 しかし中には

「キリエリアは諸国条約の先導者である以上軍備を放棄すべきだ」

「平和を唱える以上キリエリアは銃の一丁も持ってはならない」

「怪獣も変身英雄も戦争反対、軍備反対だー!!」

 等と扇動する輩が現れた。


 私はその情報を国王陛下に報告し、扇動者は逮捕され処刑された。

 どれもこれも、敵対勢力の内通者だったのだ。

 拷問の結果、奴らに金を払い扇動させた各国の貴族や軍人が芋づる式に検挙され、各国の手によって斬首された。


 この事件の結果、黒いスポンサーを失った新聞雑誌は

「娯楽性のない、誰が見るのか解らない映画」

と非難を始めた。


 だが、それらは間違いだった。

 蓋を開けてみれば、観客は感涙し、大喝采を贈った。


 最初の、人類の行く末を映し出したかの様なゴドランが、全く正反対に英雄化していくゴドランが、それでもいつも楽しくドキドキさせてくれるゴドランが、そこにいた。


 アドバイザーとして私達夫婦は初日の挨拶の壇上に上がった、その時観客席に。


 私は最後に義祖父を見た。


******


 それからも特撮映画は絶えることなく製作され続けた。


「神話」の成功、そしてゴドランの幾度目かの復活もあって、トリック特技プロの自主製作復活の誘いもあった。


 しかし私達トリック一族は覚悟を決めていた。


 もし自分達の家族から特撮映画を志すものがいれば、この会社をその人に託す。


 それまで、特撮の何たるかを知らない私達は、陰に引っ込む。

 今を活躍する人を陰から応援し、出資する。

 特撮を夢見る明日に向かう子供達を応援し、指導する。


 ゴドランシリーズも40作を超えている。

 しかし相変わらずキメラヒドラとマハラとマキナゴドランが幅を利かせているのは如何なものかとは思う。


 スプラシリーズも、今ではスプラルジェントシリーズ、スプラコスモシリーズ、スプラアノマリア(異変)シリーズの三種類に分かれている。


 それに加えてヒーローズ・ユースティーチ(正義の英雄)シリーズの四種類が随時製作され、人気を博している。


 当初は私と共に義祖父の記録に尽くしてくれた妻エフィーも、今ではトリック特技プロ、改称しトリックプロダクションの専務として版権管理や内容の指導、行き過ぎた内容や眉を顰める様な内容に対する苦情申し立て、更には完成披露や慰労会などの準備に奔走し、製作を委託しているヨーホー映画のお母さんと慕われるまでになった。


 その活躍する姿にはどことなく、今までの記録でしか接した事の無い、かつての英雄チームの女性陣の4人が、部分的に宿っているかの様に感じた。

 身内への贔屓目かと言われればその通りかもしれない。


******


 既に偉大なる英雄にしてこの世界の特殊撮影の父であるリック・トリック監督と会ったものは数少なくなった。


 ましてや彼と共に特撮映画の黎明期を築き上げ、最盛期を盛り上げ、迫る経済危機に耐え続け、復活を求めた声に見事に答え、その後も変わることなく特撮文化を守って来た彼の盟友たちと会ったものはいない。


 しかし、今でもゴドランも、スプラシリーズも、そしてのちの世界に戦争と政治の失敗を教え諭した近未来戦記シリーズも、学術的見地から天災への備えを訴えた災害映画も、進化した特殊技術によって続いている。


 義祖父がお節介で助力した他社の変身英雄シリーズも続いている。


 子供達はどの世代でも変身に巨大化に怪獣退治に憧れ、正義とは、悪とは、それを考え続けて成長している。


 怪獣や巨大英雄ではない、宇宙映画も、あるいは義祖父が協力した宿屋の人情劇の様な特撮を駆使しつつも特撮を主役としない映画も、数多く世に送り出されている。


 残念な事に、ゴドランを超える大怪獣スター、スプラルジェントを超える巨大英雄が生まれていない。

 むしろ、アニメの世界で数多くの新機軸が生み出されづけている事が、健全なのかも知れない。


******


 義母たちトリック一族は、自宅にリック・トリックとその二人の妻の墓、いや、記念碑を建てた。


 今でも休日に怪獣たちや宇宙船を乗せ、出し物的に「怪獣列車」は運行され、クランの住民に、子供達に愛想を振りまいている。

 それを眺める場所に、偉大な人の記念碑が立っている。


「もし死んだら、『天に向って翔た』…

 いや、それは身の程知らずにも程があるなあ。


 異なる世界に特撮を、ってその程度だなあ」


「特撮の他に何もやってない、って思ってるんですか父さん!」

「兄さん、それを言い出したら国王陛下もかすんじゃうわよ、これでいいのよ」

「お父さんらしいわねー」


 この時皆は笑い会った。


 いなくなる前にそう語った義祖父の言葉を、トリック家と英雄チームたちの仲間達は刻んだ。


 いつまでも、リック監督の夢が、彼の仲間達の夢がこの世界から絶える事が無い様に祈りつつ。


******


「異世界に特撮を!

 ~魔王討伐が終わったから異世界で特撮映画を作ります!~」

 終

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。お疲れ様でした。
2026/04/25 07:16 ウミガメさん
完結おめでとうございます! >異なる世界に特撮を 綺麗なタイトル回収ですなあ……
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