表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366/368

366.レポー・トリックの記録

 スプラシリーズも既に30作以上が世に送り出された。リック社長はある日、魔力が急激に減っていくのを感じた。


「ああ。これでみんなの所へ行ける」


 みんなの所へ行く。


 神殿の教えでは、人間の死後は明確ではなかった。

 いつかは民は神の楽園へ導かれる、民はその日を待つ、それが信仰だった。


 しかりリック社長はいつのころからか

「人間の命は不滅だ。死後は神の元へ招かれる」

という、今の聖典より一歩先の考えを信じていた。

 そんな事公言したら異端だが、神殿に属する聖女セワーシャも文句を言うそぶりはなかった。


「みんなも、今ごろ俺に来いって言ってくれてるよ」


 彼は予てから考えていたトリック特技プロの売却を子供達に宣言した。

 誰も後を継ごうと言うものはいなかった。

「私」以外。


「じゃあ君に任せる。

 エフィー、旦那さんを助けてあげてね?」

 義祖父は義母ブロム夫人の娘、我が妻エフェクに頼んだ。


「面倒をおかけします」

「色々大変だと思います」

「イヤな事があれば皆を呼んでね?何とかするから」

 リック社長の子供達は、どこか安心した様だ。

 義家族の皆さんには、夫々の夢や使命がある。


 実家の嫡男ではなかった私は、義父同様諸国条約に出仕し、国家間交渉の歴史を記録する業務に就いた。

 その業務の間に、様々な教えを受けたブロム夫人、そのお嬢さん、エフェク嬢と仲良くなり、聡明な彼女に惹かれて結婚した。


 義実家に対する恩返しを始める事とした。


******


 私はトリック特技プロの自主製作を停止した。

 義理の祖父と共にスタッフをヨーホー映画や国際テレビへと紹介し、版権管理専門会社へと変えた。


 誰よりも特撮を愛し、撮り続ける事に拘った義祖父は、私を責める事はなかった。

「寂しいけど、これも一つの終わり方だよね」


 だが私はあまりに莫大な資産を、映画ビジネスはおろか特殊撮影という未知の世界に注ぎ込もうとは思わない。


 ひたすら国王陛下に時候の挨拶を重ね、その会話の中で何か問題があれば、必要とあれば資産から出資する様準備した。

 幸い義実家でこの莫大すぎる遺産に執着する様な人はいなかった。

 誰もが自分で莫大な財産を稼ぎ出していたからだ。


 その他の仕事と言えば。

 映画業界で労働問題があれば解決のために乗り出し、弱者側を弁護する法律家が必要なら、資金を協力し公平な解決に努めた。


 後は、この莫大な映画遺産。

 彼の空間収納魔法もいずれ限界に達する。

 無限の空間に納められたヌイグルミやミニチュア、台本や検討用資料、設計図、パイロットフィルムや未使用フィルム、録音テープを管理維持するために、遺産を注ぎ込むだけだ。


 どこにそんな維持施設をつくるか。

 第二スタジオにあまり高い建物は建てられない。

 広大な敷地に平屋を建てるか。それも義祖父は予見していたのか。


 しかも、それが私が生きている後数十年続くか、我が子や親類の篤志が注ぐか、はたまた詐欺に遭って数年で奪い去られてしまうか。


******


 そこに勅使がやって来た…勅使?


「やあ国王陛下」


 国王陛下ー?!ご本人じゃないですかー!!

 今までそういうのを聞いていたけど、本当にその現場に居合わせると恐縮するより他無い!


「叔父上、色々な資料とか撮影素材とかは国費で管理して、各社に提供しようと思います」

 国王陛下が義祖父に敬語を?!叔父上?


「駄目だよ。

 各社って、新聞社にしろテレビにしろ、こういう資料は乱雑に扱って捨てちゃって返す気全く無いから。

 誓約書書かせて保険料出させて、違反したら告示してコイツラに物を貸すなー!

 って大声で言わなきゃ」


 そんな事があったのかー!


「レポー君もね、他人事じゃないよ。

 物なんかボンボコ壊れて捨てられて盗まれて消えちゃうから。

 貸与記録を残してその顛末を公開出来る様にしてね」


 余程色々な目に遭って来たのだろうか?

「未然に防いだよ」

 遭ったんだ。


******


 義祖父はスタッフの就職を全て考えていて、彼らは滞りなく転職し活躍した。


 本社機構の要員にも資格試験を義務付け、無事映画博物館へ再就職する事となった。


 僅かに残ったのは版権管理部門、経理部門、法務部門だけだった。

 第一、第二スタジオは、貸しスタジオとしてヨーホー映画にも貸し出されている。


 トリック特技プロ、二回目の卒業式が行われた。

 しかし最初の卒業式と違って、参加者は少なかった。

 それは、義祖父の活躍を、映画が爆発的な進化を遂げ、テレビが誕生し発展した次代を作った人々が、そして義祖父の大切な人達がみなこの世を去ったためだ。


 その代わり、私の様な、彼の子孫と配偶者、そして英雄チームの子孫と配偶者が集まった。


 それでも義祖父「リック監督」を慕う若手は多く、名乗り出て頂き、過去のトリック特技プロ作品を15分程度の映像に編集し、音楽や名場面の音声を含めて餞として上映してくれた。


 今までの職を失い新たな職場に向かう社員たちだけでなく、何故か編集に協力してくれた若手特撮マンたちまで泣いていた。


 こうしてトリック特技プロは製作部門を完全に廃止した。


******


 それからの義祖父だが。

 何と10年以上も、子供達を相手に第二スタジオで「特撮学校」を続けた。


 怪獣が大好き、宇宙が大好きな子供達を集め、どうやって撮影するか、それを子供達に実践的に教えた。


 無論予算を自分の資産からバンバン出すのもはばかられたのか、16mm撮影だ。

 それでも第二スタジオに増築された快適な宿泊施設に数日寝泊まりし、壊れやすい発泡樹脂で高層建築を作り、怪我する危険が無い様ガラスの代りに鏡の様な金属箔を張ってそれらしく仕上げた。


 これに「卒業式」に協力してくれた若手特撮マンたちも無償で参加し、子供達に熱い思いを伝えてくれた。


 豊富に蓄えられた家屋のミニチュア、今では珍しくなくなった自動車のミニチュアやそれらを整理する信号機、鉄道の模型を並べ、自分達がデザインし造形した怪獣たちを撮影し、16mm合成も体験した。


 爆発や火炎噴射、作画合成も行う。


 多くの子供達が、アニメーションによるキャラクターとの共演を希望した。

 妻、エフィーがアニメーションキャラクターの声を演じたり、子供達に指導した。


「もっと大げさにしゃべって。

 お芝居って普通の会話とは違うのよ?」

 流石多芸な義母さんブロム夫人の娘で、何でもできる。結婚してよかった。


 女の子にもこの「特撮学校」は好評だった。

 後にアニメの世界で声優となった子もいた。


 完成作品は映画博物館でいつでも見られる。

 王立学院の学士達も見に来るほどだ。


 完成上映には義祖父も必ず同席して

「楽しかったかー?」

「「「はーい!」」」

「よーし、カンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」

と、私費でごちそうを振舞う。


 私はその運営を、参加希望の子供達を調整したり学校や出版社に参加希望者を募ったりするため奔走した。

 そんな中、我先にと無償で飛んできてくれた若手特撮マンには深くお礼を申し上げるしかなかった。


「ありがとーなーレポー!

 エフィー、いい男と結婚したよ!」

「おじいちゃんのお陰であっちの方は全然よ!」

 そういう事を大勢の前で言ってくれるな妻よ。


 注釈、上記4行は削除する事。


******


 私達はインス特撮研究所を訪れ、ショーウェイの特撮についても調査し、トレート部長の死後放棄されている資料の存在を知り、確保した。

 色々なメモが、それこそ食堂の手拭き紙にまで書かれた油まみれのイメージスケッチまで残されていた。

 トレート部長が如何に特撮を愛し、その記録に必死になられていたか、現物を目の当たりにして深く頭を下げるよりなかった。


 それにショーウェイが待ったをかけ、法外な使用料をふっ掛けてきたりもした。


 だが

「これ、俺が書いたもんなんだけど?」

と義祖父が乗り込んで来た。


 それに原作者のペトロ氏の御子息も

「これはリックさんのものです」

と証言してくれて、当時を知らないショーウェイの版権部門は分が悪いとみて引っ込んだ。


 関係者のご家族、ご子息の証言の元、多くの資料が義祖父へ、そして私へとなだれ込んで来た。


 とはいえペトロ氏のものを始め多くのマンガ家氏の遺産を勝手に引き取る訳には行かない。


「ちゃんと保存して記録してくれるなんてリックさんの所しかいませんよ」

「いずれ他の作家さんもそういう余裕が出てきます。

 その時のために、整理や権利区分は行います」

「律儀ねえ、流石リックさんの跡取りね」


 ペルソネクエスの父たるペトロ氏、そのご子息にそう言われて悪い気などしない。


******


 そんな義祖父もいよいよと悟り、最後の仕事に取り組んだ。


「天地開闢」を再度、今の高画質高音質で、という声は何度もあった。


 ヨーホー映画から幾度目かのオファーがあり、それに取り組む事にしたのだ。


 制作費は義祖父の何百億デナリにも上る資産から潤沢に出資された。

 最後だから、という覚悟だった。


 そこには悲劇もありながらも、血沸き肉躍る冒険活劇、友情、恋愛と、娯楽のあらゆる要素を詰め込んだ夢の作品として構想された。


 かつての旧作は、神殿との調整や公開先各国での反応に気を配って、更に今よりもはるかに少ない各国の伝承を義祖父自らが現地調査してかき集めて、相当な苦労の末完成させた大作だ。


 だが、今ではそれら各国各地の神話伝承も多くが発掘され公開され、そして親しまれている。

 義祖父の文化的な偉業だと、深く感じる。


******


 義祖父はピクトリアルスケッチを多くの才能ある画家と共に描き上げ、撮影設計を行った。


 その設計は今の特撮を担うヨーホー特技部、トリック特技プロの才人が検証し、更に具体的に落とし込んだ。


「ここはさ、モンさん」

「…」

「あ、ごめん、エキちゃんだったね」

「師匠の師匠と間違われたんなら光栄ですよ!」


「いやさショーキさん」

「バドゥムですヨー」

「おっとゴメン」


「どうもね、ここで熱中しちゃうと昔のみんなと一緒にやってる気がしちゃってね」

「いい事じゃないですか」

「後輩として嬉しいッスよ!」


 そのクラン撮影所も、全面的に新築されていた。

 特撮映画用の0番スタジオは規模をそのままに建て替えられた。


 特美倉庫、特撮プールは時折製作される海戦映画、怪獣映画用に改修されるに留まったが、稼働率は落ちている。

 いつかは解体され、住宅地へ売られ、今では不動産業の方が圧倒的に収益を上げているヨーホー映画グループの、一時的な肥しにされてしまうだろう。


 かつての内乱の際に焼き討ちされ、その後再建された各スタジオも、電子機器の進化に伴い改築され、新たに再整備、一度解体され計画的に新築された。

 スタッフの安全に配慮し、火気厳禁とされた。


 かつて溶鉱炉を運び込んで溶鉄を撮影したなどと言う荒業は、もう出来ない。

 0番スタジオを除いては。


 テレビ向けのビデオ合成用スタジオも充実してヨーホーテレビの作品で賑わっている。

 義祖父、義祖母が残した「電気信号式高画質合成システム」の構想も、もう数十年後には実現するかもしれない。


******


 100年の時を経た新作「天地開闢」、いや「神話」は、部分的に電算機による映像を取り入れていた。

 何世代か進化したモーションコントロールカメラ、未だリハーサル用、ラッシュ試写替わりだがフィルムカメラ・ビデオカメラを同時に回し、現像を待たずして完成映像のイメージを確認出来るシステムが一般的になった。


 化学的な合成も、6ヘッドでかつ70mm横回しという、かつてのバーサタイル70を遥かにしのぐの高画質を誇るバーサタイル17を駆使してパイロットフィルムが完成した。


 合成大好きな義祖父による新作映像は、前作を過去の作品たらしめる、興奮と歓喜に満ちた映像だった。


 これらパイロットフィルムは製作発表で堂々と上映され、多くの関係者にリック特撮の健在を示した。


 製作発表には、リック監督も登壇し、過去作より進化した技術を解りやすく、短く説明した。

 何よりも珍しく人前で堂々と自作を語るリック監督の姿に、改めて会場は大喝采を贈った。


 1年半の製作期間の後、本作は、今では絶滅したロードショー公開が行われ、70mm横回しという贅沢な大画面システムで上映された。


 その迫力はリック監督の本気を久々に世間に見せつけた。


 今では世界30数か国に増えた条約加盟国で、それ以外の地方部族でも上映され、確実視されていた100億デナリの枠を遥かに超え、1000億デナリに迫った。

 そして本作は、ヨーホー映画、トリック特技プロに莫大な利益を齎した。


 これに各国が自国の神話伝説を映画化したいと熱望し、リック監督を訪ねたが。


 この一般公開初日の挨拶が、世間に姿を現したリック監督の最後だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ