349.縮小トリック特技プロ、始動!
トリック特技プロの大量解雇?はちょっとした話題になった、主に、リック社長に敵対的な「新聞」という媒体で。
リック社長が齎した世の中を革新する文物の中で、映画やテレビ、ラジオは高度な維持管理能力が無ければ運営できない。
それ故リック社長とアイディー夫人、それに学んだ王立学院や魔導士組合に鍛えられた人材にとって、その技術がどれだけ高度で崇高なものか、そして高額なものかは肝を磨り潰すほど痛く理解できるのだった。
そして、それをポンポコとタダ同然で公開し提供する、アタマのオカシイリック夫婦の、信じられない程の人の良さも。
しかし低い技術でも買い取れる印刷業は…
リック社長から印刷業への影響力を引き剥がさんとし、新聞社を主催し世論を誘導する自分達の思うままに社会を動かそうと企んでいたのだった。
愚かにも新聞社の経営者共は、印刷器具の本来の価格を知らない。
彼らは公報、教育用に本来価格の数十分の一で印刷機と活字を買ったに過ぎなかったのだ。
この、印刷の産みの親であるリック社長と、その恩恵すら理解できていない新聞社の対立は過去30年間続いた。
早速、
「英雄崩れリック、自社を潰す」
「オモチャ商法、子供だましもオシマイか?」
「子供に夢を、リックはそう言った、そして積木は崩れた」
とトリック特技プロが倒産したか破産したかの様に喧伝した。
それら新聞社は即日主筆以下執筆者は王家により死罪を命じられ、社は空襲により爆撃され廃墟と化し、従業員も銃撃で死ぬか手足を失うかして路頭に迷った。
「リック・トリックを侮辱するなら従業員の再就職の世話をする位の真似はするがよい。
それもせぬなら死ぬがよい!」
このカンゲース6世国王陛下のお言葉に、潰された新聞社の従業員は全員氏名が公表され、あらゆる職種から再就職を拒まれ、自殺するか餓死するかした。
愚か者の妻子だけは神殿で保護され、慈善事業に従事させられた。
しかし。
「今の方が余程良い暮らしです」
遺族は「社会の木鐸」と自称していた輩に虐げられていた頃の暮らしより、修道院の暮らしの方が余程良かった様であった。
この事実が知られると多くの新聞記者が新聞社を去り、多くの新聞社が破綻した。
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「宇宙帝国の滅亡」、完成。
その70mm試写は観客から絶賛され、ロードショー公開が決まった。
試写の大絶賛の後。
「俺にはさあ、『宇宙からの英雄達』とか『スプラフィニス』との違いがよくわかんないんだよね」
「「「え”???」」」
精密にして壮大な映像を作り上げた、他ならぬリック監督本人の一言に、
「映像の精密さとか、本編での壮大なマットアートとの合成とかはわかるけど」
「「「それだよ!!!」」」
リック社長は物凄いツッコミを受けた。
「リックきゅんはさ、見えてるものが、みんなと違うんだよ。
でもさ、その違いが、みんなには解んなかったり、時々スゴいって思われたり、色々違うんだよ、ね?」
アイディー夫人が割と的確な、しかし解り辛い事を言う。
「えー?なんでー?」
更に、アイラ夫人も。
「多分ですけど。
作る仕掛けの楽しさ、あのオモチャを作って並べる楽しさ。
リックさんはそれが大好きで、出来た映像以上にそちらに関心がいっているのではないでしょうか?」
それを聞いたショーキ監督以下一同は
「「「はあ~…」」」
壮大なため息を吐いた。
「うんうん」
一人、ポリちゃんだけ物凄くうなずいていた。
「え?俺、おかしい人?」
「リッちゃん!アンタがおかしくなくて誰がおかしいんだよ?」
「「「うわっはっはー!!!」」」
「えー?ヒドくない?」
こんな微笑ましい遣り取りは兎に角。
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年内公開、1年の空白を埋めるべく公開された「宇宙帝国の滅亡」。
ロードショー公開も満員。
そして一般封切りを迎えた。
歴史叙事詩を最新の知見で「SF」というものに翻案したとあって、貴族層も続々と押し寄せた。
原案に比べて大幅に省略されたとはいえ、社会の明日を予想する一つの思考実験として、膨大な国民の意見を数値化して不平不満を探る、そして未来の姿を予測するという描写は貴族には刺さった様である。
まあ、それは兎に角。
やはり古代史定番の皇帝対奴隷の一騎打ちの末負けるバカ皇帝。
しかしこれが盛り上がった。
流石「皇帝」と呼ばれたポクルム監督だ。
最後の人工天体が大爆発するシーンも素晴らしかった。
敵の敗残艦隊が逃げうせた後に、素早く波動を飛散させた後に、緩やかに爆発四散する人工天体。
夜間の一瞬の爆発を、暗い照明の中、高速度撮影し明暗をきつく現像したこの世のものならざる場面。
それが、辺境の「学団」の勝利を表した。
それが同時に、愚かな皇帝が自ら死に飛び込んだ結末、そして続く「宇宙帝国の滅亡」の序曲として観客に壮大な破滅の歴史を印象付けたのだった。
ロードショーの結果は頗る話題となった。
封切りを前に、テレビ、ラジオで紹介と宣伝がないまぜになって広まった。
そして迎えた初日。
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初日から行列。
「SFブームを上手く喰い繫げたなあ」
本社事務室ではなく、劇場の扉の前で観客を迎えたマッツォ社長。
貴族層は兎に角、若いファンたちが深々と挨拶して観客席に向かう。
その向こうでは、先程貴族と思う程の礼を捧げてくれたファンが「売ってるの全部下さい!」と叫んでいる。
(リックさんが直接徹夜組に会いに行った気持ちが解るなあ…)
何故か売れしくなったマッツォ社長は、来客一人一人に頭を下げて迎えた。
そして、大歓声と共に閉幕。
しかし初日の挨拶には、例によってリック監督の姿は無かった。
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「宇宙帝国の滅亡」。
ロングランを果たし、キリエリア内だけでの30億近く行くという大ヒットを果たした。
「1799」の後塵を拝したヨーホー特撮。
この一作のスピード感、スケール感で「特撮のヨーホー映画」というお株を取り返した。
大入りを果たしたヨーホー映画からの追加報酬はトリック特技プロにも齎された。
「スタッフ解雇にかかった費用も楽に取り戻せましたよ!」
嬉々として報告するミーヒャー専務だが、やはり人の少なくなった事務所は物寂しかった。
「いや、それは退職したみんなの勤務実態に合わせて配分しなくちゃ」
「退職金は結構払いましたけど?」
「それはウチとしての義務。
これは、あの作品に対するみんなの頑張りへの見返りだよ。
ちゃんと払わなきゃ」
金にうるさいミーヒャー専務も、今自らの手で仲間達を古巣へと押し付けた、寂しそうなリック社長の横顔を見て、無言で頷いた。
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トリック特技プロは第三の転換期を迎えた。
一度目は内乱の前、ナントカという人が自分の意志を強いようとして抗い、スプラシリーズが最初の中断を迎えた時。
無論、カンゲース5世陛下御崩御後の内乱こそ中断の主因だったのだが、
「あいつ気に入らねー」
と、リック社長の中ではナントカが第一期スプラシリーズ終了の元凶になってしまっている。
二度目は変身英雄人気の衰退。
今回は三度目、体制の大幅縮小と、のんびり作りたいというリック社長のワガママが原因だ。
そんな事が許されるのも、リック社長とヨーホー映画との強固な関係によるものだ。
今のところリック社長の貸しの方が圧倒的に多いのだが。
だが、その転換期後をどう過ごすか。
まずリックが向かったのは17th世紀プロ。
「コスモ1700」が26回毎、2年に亘り計52回の製作が続けられ、ヒットした。
毎回ペシミスティックな結末、オカルトな展開だった。
しかし宇宙に神秘や畏怖をも抱きながら宇宙基地の危機を回避する司令官の活躍、彼を慕う女医。
人気の鴛鴦夫婦俳優を主軸に据えての大人気だった。
割と単純な展開が好まれるマギカ・テラでも、影のある作風が大好きなアモルメでも、そしてSF特撮の激戦区であるキリエリアでも好評を博した。
主役となる未来兵器、連絡艇プレカティオの模型はトリック玩具が精密なものを発売し、これも好評だった。
そんな人気SFテレビ映画を放った17th世紀プロはマギカ・テラ映画界の牽引役となっていたのだが、王立放送局から「子供向けの企画が欲しい」と求められたそうだ。
どの程度対象年齢助言を下げるべきか、エンリケ社長から助言を求められたのだ。
「全力で行こー!
ウチのモーションコントロールが空いてるから人ごと貸すよー」
「そんな予算ありませーん!」
そう言う人だったと思い出し、エンリケ社長は少々後悔した。
「まーまーお試し価格でいいから」
「相場が崩れますってー!」
「そっちはもとはウチの支社みたいなもんだったじゃないさー」
まさかの最新技術がポンと落ちて来た。
こうして割と気合が入った新作「トニト・アシビター(雷の鷹)」の企画が始まった。
「OVI」同様の秘密防衛隊が主役だが、その殆どはゴーレム兵団から組織され、登場人物は司令官他数名。
彼らトニトアシビターの敵は、老婆の様なゴーレム侵略者と、全力の宇宙戦争…ではなく、頓智比べの様な一進一退の戦いを繰り広げる。
価値観の全く異なる彼我の対話。
人格が無い筈のゴーレム軍団は妙に人間臭い。
主人公は生体培養によって同じ人間が複数生み出され、万一戦死しても経験や記憶は受け継がれ継戦可能という非情な設定。
コメディとペーソス溢れる、皮肉なプロット。
「考えたねえ」
「リックさんが考えそうなペシミスティックなアイデアで行きました」
「何かヒドくない?」
「でもいいアイデアでしょう?」
「それはそうだけどー」
納得いかないながら、これはいけるんじゃないか?とリック社長は期待した。
「で、これ人が演じたらすごく金かかるじゃない?
いっそ人形劇をもう一度やって見ない?」
そう言われ、エンリケ社長は考え込んだ。
「んで、ゴーレム兵、みんな球体にして、敵の手下は直方体にして」
「ええ~?!」
「そん位解りやすい方がいいですって」
「放送局の希望も、それなのかも知れませんね…」
彼らの、「OVI」「コスモ1700」の成功と裏腹に、求められたのは人形劇。
その矛盾と郷愁の中、久々に人形特撮が復活する事となった。
そして。
「お久しぶりですリックさん!」
ナンシー夫人とキャピー嬢。
「お久しぶりです!お元気に…って、ご活躍はキャピーから聞いています!」
「うふふ、光栄です、またこちらでお世話になります」
17th世紀プロに人形たちのお母さんが帰って来た。
「私もがんばるよ!」
何とキャピー嬢は声優もやるという。
「それもいいけどさー、たまには帰って来てよー」
娘の活躍を素直に喜べない父親だった。
「そ~だよ~」
ミーヒャー夫人がキャピー嬢にしがみついてもじゃもじゃし出した。
「うぎ~!うざい~」「ヒドイ~」
リック社長たちからの助言を得て、「トニト・アシビター」は製作費は「トニトアビス」の同額、しかし物価を考えれば6~7割程度、という予算で製作が始められた。
リック社長もミニチュア製作、球体で発光半導体で感情表現するゴーレムたちの造形や戦闘シーンの撮影の一部を請け負った。
怪獣列車が今度はマギカ・テラへ宇宙船を積んで出発した。
トリック特技プロ倒産のデマを新聞に信じ込まされた付近住民は、怪獣、もとい宇宙船を積んで走る列車を見かけると、大喜びで手を振ったのだった。




