348.英雄達への餞、第二弾
トリック特技プロが規模縮小を宣言、多くの熟練スタッフたちを解雇した。
しかし皆が再就職の心配もなく、むしろリック社長に感謝してその場を去り、トリック特技プロに就職する前、映画斜陽の時期に左前になり、今や不況を乗り切り活躍している古巣に戻る事になった。
その再就職は全てリック社長が受け入れ先に打診し、条件を詰めて紹介したものだった。
彼らが去った寂しい日は、一同仕事を忘れ思い出を肴に宴会となった。
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しかし宴会は後日も行われた。
古巣に戻るスタッフたちが別れを惜しんで、第一スタジオでリック社長はじめ英雄チームへのお礼の回を開いたのだ。
最初リックは敬遠しようとしたが、みんなの気持ちを有難く受け止める事にした。
スタジオに招かれてリック社長たちはビックリした。
スクリーンが張られ、スタッフ有志がバンドを組んでいた。
流石映画人、音楽にも造詣がある。
「これ、スプラ・ファブラ最終回の同時視聴の宴会みたいだよね」
「いや、今回は俺たちの卒業式だ!」
今では国際テレビの重鎮となり、かつての国際特撮から離れざるを得なかった仲間達を再度迎えてくれたポンさんが答えた。
「卒業式?」
「みんなそう言いましてね!」
自分は下戸なのに、満面の笑顔で酒樽を率いて来たのはショーウェイのトレート部長。
彼も作画合成班を16mm用に迎えてくれた。
「おう!ウチもそっちに預けっぱなしじゃ義理が立たねえしな!」
「ショーキさんは酒につられただけでしょ?」
ヨーホー映画からショーキさん、ポリちゃんも来てくれた。
そして参加者一同に酒が振舞われた。
本来、あくまでもヨーホー映画の出向だった光学合成のケミさんが音頭を取った。
豪快なこの人はエールに替わって今や酒場のビールの主流となった、リック社長特製のピルスの瓶二本を組み合わせ王冠をポン!と明けた。
「みんなー、注いだか?じゃ、いくぞ!
映画の世界であんだけ光ったりヘンな景色作ったり、それに無茶苦茶フィルムを廻せてもらったりできるのは昔のヨーホーか今のリッちゃんとこしかない!」
「「「おー!!!」」」
「特美無視すんなー!」「特効もだー!」
「悪ぃ悪ぃ、そうだな、都市爆発は特撮の華だからな!」
「「「ハハハハー!!!」」」
「だが俺たちは今日で、いや、離職したあの日でトリック特技プロを卒業だ。
せめて、卒業パーティーを楽しんでくれよな!特撮学校校長先生!」
「「「イエーッ!!!」」」
単発で髭面、強面だがいつも笑顔の合成技師のケミさんが場を沸かす。
「じゃあ、リック社長、美しきご婦人方、大先輩の英雄チーム。
これからの我らのトリック特技プロダクションの未来に!
カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!!」」」
一瞬で盃が空になり、笑いと拍手が響き、そこにファンファーレが。
そして舞台上、やや照明が落とされたスクリーンに嵐の中を進む小舟が映し出された。
トリック特技プロ第一作の「大西洋ひとり縦断」の特撮シーンだ。
「ほあー、こんなの編集してたんだー」
続いてドン!と太鼓の音が。更に謎の捻じれたような擬音。
生演奏による「スプラQ」の主題曲が始まった。
タイトル映像に続き、最終回「連れて行け!」のダイジェストが映し出された。
「いいねいいえー!」
リック社長はすっかりスクリーンに釘付けだった。
「社長シャチョー!みんなが挨拶に来てますよ?」
「ちょっと待ってよ!ね、みんなで見ようよコレ!コレ編集したの誰?」
挨拶に来たチーフ級のスタッフが呆れた。
「だから言ったじゃねえか、こんなのやったら絶対社長没頭しちゃうってさ」
「う~ん、企画ミスったかなあ」
「いや、そうじゃなかろう」
曲が替わって「スプラルジェント」主題歌。続いて「スプラセプト」。
リック社長は自分が撮った作品なのに嬉々として見入っていた。
「ご満足頂けてるじゃないか!」
「違いねえ!」
「やっぱリッちゃんはリッちゃんだよなあ!」
「「「はっはっは!!!」」」
過去作の主題歌メドレーを演奏し、スクリーンでは最終回を編集して流した。
家族のために理想郷へ行きそこなった平凡な男の嘆き。
最強の宇宙恐竜ウルティモスに倒されたスプラルジェント。
命をすり減らして戦い、去って行ったスプラセプト。
敵に利用された愚か者たちを救って殉死したSI隊員と、最強戦艦、海底基地を撃破するSI号。
どの最終回も様々な思いが込められた傑作だった。
ここで生演奏メドレープラス最終回ダイジェスト第一部、終わり。
拍手喝采が沸き起こった。
「ずっとこればっかりやってると社長が動きゃしねえんで、ここでご歓談願います」
「「「うわははは!!!」」」
やっとみんなからの挨拶が始まった。
そしてバントと映写師が交代して、続きの上映が始まった。
長かった。
作品数が週2作、3作だった時代だ。
みんな食事しつつ作品に没頭した。
愛する人に別れを告げ、異世界へ光線と化し去っていくエキスペクラリ。
初代スプラルジェントが苦戦し恐怖した宿敵、宇宙恐竜ウルティモス二代目を倒し、地球を去るスプラルジェント二世。
打ち切りのためドタバタしつつも、結構壮大な最終回を迎え、スプラルジェントたちまで共演したトレスヒーロー、兄二人と妹が別れ、兄たちは故郷へ去る。
男女の性を超えたスプラステラ。
ゴーレムブームに乗ったルキスマキナA。
神話の神々に愛されつつ、最後はその力を拒み、一人の人間として歩み出したスプラミティス。
「これでナントカ氏と縁が切れたんだねー良かった良かった」
「「「ははは…」」」
朝の5分英雄達も登場。
こうしてみると大予算を掛けた他の巨大英雄にも引けを取らない。
「カッチョイー!」
リック社長が声を上げると、
「「「やったー!!!」」」
金も時間もない中、必死に撮影した当時若かったスタッフが歓声を上げる。
地底へ古代竜たちを導き救い、地底へ消えたヴェラトラヴィ。
地球を去り滅んだ母星に別れを告げたスプラグラディエ。
彼ら巨大変身英雄の全員集合の様なスプラ・ファブラ。
最後はその最終回の撮影、過去全ての巨大英雄がクランの大プールから去っていく。
近所の子供達が必死で彼らに手を振る。
長丁場の演奏が終わり、灯が灯ると拍手喝采。
トリック特技プロが最も多忙を極めた時期だった。
中には涙をこぼす者も多かった。
わずか数年前とは言え。
懐かしさの所為か、物語の盛り上がりの所為か、はたまた多忙だった頃の辛さを思い出したのか。
「よくもまあこんだけ撮ったもんだねえ」
「主よ…いまさら何を言うか」
「いやいや、マッツォさんがしっかりしてたら、第二期スプラシリーズって言うのかな?あの頃はスプラ1作で済んだんだよ?」
「でもでもぉ~!
そのお陰でえ!
スプラルジェントと違うエキスペクラリ達が生まれたんじゃない~!」
珍しくアイディー夫人が反論した。
「そうだそうだ!」
「スプラルジェントじゃない変身英雄もカッコイー!」
「エキスペクラリは革命的なデザインだった!」
「撮影大変だったけどな!」
「え?やっぱりそう?」
みんなからそう言われて、何故かゴキゲンなリック社長。
「企画や脚本、色々アイディーに助けて貰ってさあ」
「「「リア充が!!!」」」
今度はみんなから非難された。
宴席で、古巣に帰るみんなは既に次の作品での役割が決まっていた。
ヨーホー組はほぼ成功が決まっている「宇宙帝国」の第二部と、近未来戦記の新作に。
「聞いてないよー!やるんだ離島決戦!」
「今度は本編が主になるんで特撮が少ないとか」
「あちゃー、一番血生臭い戦いだー!お客さんが目を背けるよ?!」
何でもガウディム・コリス監督、特撮嫌いのガウちゃんが推しているらしい。
国際テレビ組は変身巨大英雄へ。
中には特美チームで外注先と合流し、かつて獅子に変身する毛皮系英雄が大好きな商会と合流して「アルジェント・レオニス」という宇宙を舞台にした作品、または人気漫画家の原作でSF人形劇ゴーレム特撮を企画中とか。
ミニチュア大好き青年がトレート氏に頼み込んで変身騎士団に雇ってもらえた。
「これだよ!
俺はさ、こういう風にみんな色んな夢を持ってさ、俺の考えじゃない作品を生み出して欲しかったんだよ!
特撮を広げて欲しかったんだ!」
「卒業後」の夢を語る「卒業生」の手を固く握り、涙混じりに彼らの成功を祈るリック社長。
「うれしいよ、頑張って、成功させて。
色々意見を聞いて、マズそうだったらいつでも相談しに来て!
助けになるか約束できないけどね」
「ひでーなー!」
「「「わははは!!!」」」
映像とバンド演奏も第三部。
壮大な演奏…は電子楽器で、「エクソダス」。
更に電子楽器が「スプラフィニス」「スプラレグリナス」を壮大に奏でる。
敵司令官の死、敵母性の爆発を背に、未来に不安を孕みつつ旅立つ傭兵部隊を。
人類の故郷である地球を去る宇宙重装艦ステラアルカを称えるかの様に演奏する。
ファン待望のスプラルジェント復活の「スプラテリトス」では人間がスプラルジェントの危機に恩返しした終幕を。
古代叙事詩的な「スプラオラクルム」では無限の力を拒み人の力で困難に立ち向かう決意をした王と妃から離れ、宇宙に去るスプラオラクルムとの姿を。
「スプラ9戦士・惑星を救え」では最終決戦と、軍命に背き有罪判決を受けた主人公と9人のスプラルジェントの別れを。
そして最新作「二賢王」の最終決戦、宮殿大爆発と、未来に向かって築かれる街道を眺める二賢王の後ろ姿で、この壮大なコンサートの幕は閉じた。
「「「うおー!!!」」」
「「「すごかった!!!」」」
「忘れないぞー!」「何言ってんだー!」「これからも続けるんだよー!」
「そーだったー!」
熱気の籠った拍手喝采、そして歓声が飛び交った。
「ちょっとちょっと!これで終わりじゃないからね!」
「「「おおー!!!」」」
「皆のお陰で、ここにいないヨーホー映画や国際テレビ、ショーウェイのみんなのお陰で!
ここに出てこなかった『スプラ・カピタリウス』、『彗星戦士レジオ』、『インヴェンス・ヴィルフェレス』。
あの作品にも凄く助けて貰えて…」
「助けられたのはこっちですよー!」
トレート部長が叫んだ。
「ウチもですー!」
マッツォ社長も叫んだ。
「お互い様ですよー!」
「「「わはははは!!!」」」
湿っぽかった空気をリック社長が吹き飛ばした。
「えー、まだまだ細々とやるよ。
今も変身!巨大!それも5~6人出る!」
「「「おおー?」」」
「変身巨人同士の格闘!怪獣とも激闘!光線!街並大破壊!
未来兵器出動!そんなの考えてます。
俺はのんびりやるけど、辞めたりしません!
生きてる限り、予算が続く限り!
ミニチュアぶっ壊し未来兵器活躍しまくり特撮を続けまーす!」
「「「おおー!!!」」」
「人手が足りなくなったらみんな手伝ってねー」
「「「おー!!!」」」
この「卒業式」は、次回作への期待を込めた拍手で締められたのだった。




