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347.進む新作、去り行く旧知

「宇宙帝国の滅亡」は年内公開を目指して着々と進んでいった。


 ショーキさん、ポリちゃん、そしてリッちゃんの三班体制だ。

 リッちゃん班、トリック特技プロは所定の作業をいち早く終えた。

 更に契約外だったが、ショーキさんの持ち分の助っ人となり、前倒し作業に入った。


 そのため特撮班に余裕が出来、本編でやりたかったが断念した計画を実現した。

 荒野でのロケ。

 この荒野にマットアートで未来都市を合成する、多重露光で多くの未来自動車を走らせるなど、本編の舞台としても壮大な絵を創る構想が実現できた。


「広大なイメージの本編があるとないとじゃ観客の受けるイメージが全然違うからね」

「昔ならセットがホイホイできてなもんだがなあ」


 宇宙船が発進する場面も多く追加撮影された。

「最後の決戦となりゃさ、やっぱイキナリ飛んでる絵より、発進の溜めがなきゃ!」

「それは俺がやりますから!てかやらせてー!」

 未来兵器好きのポリちゃんがガンバった。


 本編の「皇帝」ルクルム・ポクルム監督、何かと手数がかかる作品を起用に熟す職人。

 特撮班との合流や撮影プランの変更も、納得出来るものならばホイホイと受け入れる人なのだが、予定より壮大な絵面が仕上がっていくのには流石に驚いた様だ。


「こりゃ別の意味で1799超えるんじゃないか?」

と他人事の様に言い出す。


 そして敵要塞内での宇宙皇帝対主人公の剣戟。

 内部に発光半導体を仕込んだ樹脂性の剣での格闘。


 学術的な建国劇、膨大な宇宙船の大乱戦、更に古代帝国さならがの剣闘士対決。

 古代遺跡の壮大な壁画の様に物語が流れ去る。


 この剣戟も、巨大な壮大なセット…ではない。

 画面に映る全貌はミニチュア、またはマットアート。

 立ち上がって歓声を上げる観衆が別途合成で焼き込まれる。

 本編でもモーションコントロールカメラが導入され、広大な未来の競技場を多重露出で高画質、そしてブレがない撮影で、人工天体内の競技場が撮り上がる。


「ハイヨーイ!スタート!」


 流石今は亡き他社で「皇帝」と言われたポクルム監督、剣戟となるや突如牙を剥き、往年大ヒットさせた数々のアクション活劇さながらの喧嘩大勝負となる。


「カーット!ダメダメ!もっとブッ殺すつもりで突っ込め!も一回!」

 無茶を言う。


 しかし光る剣という小道具が往年の活劇魂に火をつけた。


 ラッシュを見たリック社長たちが息をのむ。

「『宇宙からの英雄達』の剣戟も凄かったけど、こっちはさらに凄いねえ」

「よく折れねえなあの剣」

「こうなると思って結構折れ辛い素材にしました」


 しかし、あまりにカメラの切り替えしが激し過ぎて、背景セットが見切れてしまう。

「はああ~。もうそこは何とかするよ」合成が足された。


 だが、これに加えて「光が弱いな」と言い出すポクルム監督。


 更に剣に作画合成で光が足され、加えて効果音に甲高いモーター音、更に剣がぶつかる音はガラスをひっかく様な電子音声が付けられ、迫力を増した。


 本編も壮大であり、かつアクションであり、多彩過ぎる要素が続々と仕上がって行った。


******


 最後の宇宙要塞・人口天体の爆発場面。


 ヨーホー大プールの底を黒く塗り、垂直飛行機で真上から高速撮影で撮影された。

 巨大な人口天体の爆発、膨大なエネルギーが飛散する様を表現するため、ミニチュアには加熱するとガス状の空気を炎より早く拡散する薬品が塗られていた。


 かなりの速度で撮影するため露出が不足するので、クレーンは元より、特美倉庫や周囲のスタジオの屋根から照明を当てられた。


 夜。

 今や高級住宅街と化したクラン一体にサイレンが鳴り、お詫びの放送が響き、例によって見物人がフェンスの向う側に集まっていた。


 大爆発!

 あまりの衝撃に一瞬皆が呆然とし、そして立ち上るキノコ雲に一同が喝采を浴びせたのだった。


 なお、プールの床が抜け、思わぬ費用が掛かった。


 この後いつくかの合成素材や本編とのつながりのための撮り足しを行い、この超大作の撮影は終了した。

 編集、録音を含め、年末公開の宣伝が打たれた。


******


「宇宙帝国の滅亡」のポストプロダクションが進む中。


 リック監督は多くのスタッフに声をかけた。


「今までウチのために頑張ってくれてありがとう。

 もしウチが規模を縮めて、貴方の古巣が迎えてくれるとしたら、帰りたい?」


 それは、あろうことか解雇通知?とも捕らわれかねないものであった。


「トリック特技プロ、畳むんですか?」

「もしもだよ」


「イヤですよ!ここは特撮の殿堂だ!勿論クランの特技部もそうだけど、ここみたいななんつうか、居心地の良い所は他に無いんですよ!」

「社長!俺、何かやっちゃいました?」

「クビにしないで~!」


 突然の自社の縮小、スタッフたちの古巣への移籍をリック社長は打診し始めた。

 トリック特技プロのスタッフは、元々ヨーホー映画やキリエリア2、旧ジャイエンで現国際テレビから移籍している人が多い。

 その上、数年前まで他社スタッフを招いてゴチャマゼで仕事をしていた仲間だ。


 とは言え、突然の、聞き取り方によっては解雇宣言みたいな事を言われて

「俺はクビか?」

「社長は会社を畳むのか?」

と一同が不安になった。


「何言ってんですか!リックさん!」

「うわーいつもの数倍怒られたー!」

「当たり前だ!」

「先ず説明すべきではないのか主よ!」

「皆さん、クビになんかしませんから安心してね!」

「リックさん、皆さんに説明を!」


 流石に仲間達から怒られた。


******


 自社スタジオに集まった社員を前にリック社長が先ず深々と頭を下げた。


「えーみんなを不安にさせちゃって申し訳ありません!ごめんなさい!

 会社を畳む事はありません!」


 まずは一安心した一同。


「俺はもう一度スプラシリーズをやってみたい。

 それに、人形特撮みたいな未来兵器もやりたい。

 もしやりたくなったら億の予算を掛けた超大作もやってみたい。


 だけど数年に一度とか、少人数で細々と、ちまちまやって行きたいんだ。


 でもみんなはそれじゃ困るよね」


 裕福な英雄チームと、定期的に仕事して稼ぐ必要のある従業員では全く立場が違う。

 無論映画人だけあって結構収入は高かったが。


「俺はみんなに必ず仕事を、次の職場、出来れば今はやっと回る様になった古巣に戻って活躍できる様にします。

 それがウチのために頑張ってくれたみんなのために出来る、最低限のお詫びです」


 一同は考えた。

 そもそも自分達は潰れたり左前になった会社からリック社長に拾って貰った身だった。

 それがここまでやって来れたのは全てリック社長のお陰だ。


 映画会社というものはやくざなもので、多くの商会が潰れて多くの職人が技を捨てた。

 自分達はリック社長に声をかけて貰って技を捨てずに済んだ、幸運だった。

 そして更に多くの技を身に着ける事まで出来た。


 今ならアモルメでもゴルゴードでもマギカ・テラでもやっていけるだろう。


 それを勝手知ったる古巣の仲間の所を世話してくれるとまで、あの若くないけど若々しい社長は言ってくれている。

 それも自分達を切り捨てざるを得なかった数年前の映画不況から、リック社長は多くのスタッフを復帰させたり、新作を送り出す機会を提供してくれた。

「ゴドラン対トルドー」なんか奇跡の一作だった。

 あれのお陰で映画界に戻れた仲間はどれほど多かっただろう。


 自分がここに居座るより、リック社長の思いに応えたい。


「俺は古巣に戻るぞ!」

「俺もだ!」

「帰る場所があるっていうんなら、またそっちでご奉公するかあ」

「寂しいけど、楽しかった!」


 特美班、照明班でチーフ級を突燃えてくれていたベテランたちが声を上げてくれた。

「すまないね、ありがとうね。

 また大作映画やりたくなったら会社の頭に話を通すから、手を貸してね!」


 こうしてトリック特技プロは従業員を解雇した。

 無論、全員が勝手知ったる古巣に戻る様、受け入れ先に話を付けた上でだ。

 更に退職金も弾んだ。


「宇宙帝国」の撮影も終わり、ガランとした社内。

 残ったのは、リック社長に憧れ、スプラシリーズに憧れて入社した文芸や経理のプロパー、あの早朝の子供番組のムチャクチャな低予算と短納期に耐えて年々面白くしていった根性ある現場組だけ。


「寂しくなっちゃったわね」

 何だかんだ聖女業?もこなしつつほぼトリック特技プロとリック邸で一日を過ごしていたセワーシャ夫人がため息を吐く。


「現場組なんて仕事ない時でも酒抱えてその辺で飲んでたしなあ」

 多忙な頃を思い出すアックス氏。


「いーめーわくでしたよー」

 嫌味を言うミーヒャー専務、だが、おかしくなったのか、噴き出してしまった。


「一時みたいに2本3本撮ってた方がおかしかったのだ。

 だがあそこで規模拡大、事業拡大に奔らなかったら落ち着けた今があるのだ」

「ヨーホー映画みたいになっていたかも知れないけど?」

 そんな事あるはずない、と思いつつセワーシャ夫人が冗談めかして言う。


「あのね、ジャイエンが潰れてヨーホー映画とショーウェイがのこったのはさぁ」

「劇場配給網、不動産があったから、でしょ?」

「流石ミーヒャーさんですね!」

「リックがそんなの望むかっていったら」

「ないでしょ~?」

「そうよねえ」


 するとミーヒャー夫人がワインを運んで来た。

「じゃあリック社長がヤル気になるまで、ノンビリ開店休業といきますか!」

「気が利くな!妻よ!」


「アンタたちも今日はもう仕事切り上げて…ってやる仕事もないでしょ?」


 若手達も事務所でなし崩し的に宴会となった。


「でもさあ!あの早朝の5分番組!

 最初スッゴく投げやりだったのに、みんな段々ヤル気になってて面白かったよねー!」

「社長が何でもいいから頭を働かせろって指導してくれたんですよ~!」

 泣き上戸がいた。


「最後の緑の、派手だったなー!」

「中に入る人がスッゴイスラっとしてて、代役いなかったんスよねー!」

「あーあれ、ベルトが下半身スーツに接着されてたでしょ?あれはがして調節できる様にしといたから」

「社長…」

「リックは古いヌイグルミでも修復して取ってあるんだ。

 俺も何度古いゴドランの中入った事か!」


「「オオー!」」「流石生きた怪獣伝説!」


 多くのスタッフたちが去ったその日、トリック特技プロの事務所はほぼ宴会となって一日を終えた。

「で、何で5分番組?」

「あれが一番思い出深いからです!」

 確かにあれはプロパーの訓練にしていたっけ、とリック社長はしみじみ思った。



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