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350.新生トリック特技プロ、始動…せず?

 規模縮小したトリック特技プロが最初に向かった17th世紀プロ、早速新作の企画に協力し、一部の特殊美術を担当した。

 久々の人形特撮の復活に、本人以上にリック社長の長女、キャピー嬢が人形操作と声優に挑む。


 この報せは放送が近づくにつれ、マギカ・テラ王立放送局で、キリエリアでも王立放送局で特集され、新聞のデマを吹き飛ばしていった。


 そしてリック社長はデマを流した新聞社を法的に訴え、廃刊に追いやり印刷機を差し押さえ、マンガ出版社に安価で譲った。


 それでも暫く後には踏まれても踏まれても蘇る悪の組織の様に反社会的な新聞社が続々出現するのだが。


******


 そして自社作品だが、先の「卒業式」で宣言した巨大変身英雄の企画を進めようとした矢先に。


「ミニチュア特撮の味を生かした、心に残る小さい映画を撮りたい!」

 とある監督が慌てて駆け込んで来た。


 監督が持ち込んで来た企画やスケッチを見ると。


 都会の生活に疲れた男が突如旅に出る。

 やけにデカい飛行機の中で珍妙な客に絡まれてドタバタ。


 着いた先は、古くからの伝統があるのだが何故か安い、岡の上の豪華なホテル。

 ここでも更にヘンな客とドタバタ。


 飛行機、ホテル、古都をミニチュアで描き、笑いと涙で都会人の乾いた心を癒そうとする小品だ。


「いいねえ!

 こういうのは俺じゃできないよ!

 特撮なら何でもやるから言って!」


 怪獣に破壊されるばかりであった飛行機やビルが、今度は人の心を優しくする舞台に生まれ変わる。

 しかし一方で実景に見せる為の精度と、ミニチュアらしさがどこかしら残る愛嬌が求められる。


 そして製作費は…5千万デナリ。安い。

「できるか?」

「できるかな?じゃない、やるんだよ。これ、面白いよ!」

「確かにかわいい感じだけどね」

s

「だが本編にも相当工夫がいるぞ?」


 撮影スケッチには。


 飛行機の中といい、ホテルの中といい、カメラが多くの人の顔、表情、演技を捕えつつ、主人公の室内に入り込むという凝ったカットが多数あった。

 飛行機も、数多く仕切られた個室の中の演技から一度飛行機の外にカメラが飛び出し、次の演技が行われている室内に飛び込んでドラマが続く、というコミカルな演出が数多く書き込まれていた。


「勿論その辺の仕込みもやるんだよ!」

 早速テスト撮影に入った。

「まだギャラ出せませんよ?」

「ギャラもなにも、先ず出来るんだ、って事を証明しなきゃ」


 結構大きめのミニチュアの内部にダニング・プロセス用の鏡が設けられ、例によって英雄チームの芸達者たちがセットで撮影し、それを鏡面で写したミニチュアの窓から覗く様に映したカメラが別の窓へ移動し、先程の逆の手順で次のセットでの演技を映す。


 セット内での普通の演技と、ミニチュアを出入りするカメラは途中で切り替わるのだが、その不自然さを感じさせない様アングルや切り替えタイミングは厳しくチェックされる。


 それからリック社長は打ち合わせを第一スタジオ内で行い、必要とあらばミニチュアを並べ、即ビデオを廻した。

「ビデオだと質感がわからないなあ」

 フィルムも廻した。


 テスト用に夜景の街並を取ったフィルムを見て監督は

「雪を降らせよう。

 外は寒く、中は暖かい、そんなホテルがいい!」


 雪は難しい。ミニチュアの輪郭がボヤけてしまい、どう撮ってもミニチュアっぽく見えてしまいやすい。

 だがその反面、曇天や夜景はミニチュアと実写の境界が曖昧になり、説得力を増すのだ。


 結局リック社長は大理石の粉末を事前にミニチュアに纏わせ、ミニチュアに降る雪は軽い樹脂の粉末を使い分けた。

 どちらも体に良いものではないので、危険物取扱作業と同じ装備で撮影した。

 そこに画面全体の明暗のコントラストを刻みながらも、舞い落ちる雪の粉末に反射素材を含ませ、実に幻想的な情景を再現したのだ。


 その仕上がりに

「行ける!これはいい!」

と監督氏は大喜びした。


 いくつかのテスト撮影を経て、監督は低予算ながら手作り感あふれる小編の企画を各社にセールスし、何とか製作にこぎつけたのだった。


 規模を縮小したものの、早速トリック特技プロは新境地に挑む事になった。

 

******


 撮影が開始された。


 勿論予算は少なく、監督が各国の中から選び抜いたホテル、実は改装中の大商店なのだが、そこで撮影する面々に英雄チームも参加していた。

 監督がテスト撮影での好演に惚れて「是非!」と請うての事だった。


 移動撮影などもスプラシリーズで培ったこだわりの本編撮影技術が、監督氏の夢を実現して見せた。


 ミニチュア特撮もリック監督お任せではなく、監督氏が付きっ切りでファインダーを交互に覗いてアングルを決め、ラッシュを見て色調や照明まできめ細やかに指示した。


 考え込まれた色、照明。

 怪獣映画とは比較にならない程本編と特撮の融合が求められる。


 撮影、ラッシュ、再撮影、現像の色調の指示が交互に行われる。

 都度残ったプロパーのスタッフが、英雄チームが走り回る。


「超大作より厳しいねー!」

「でも見事です!こんな無茶、リックさんとこでなければできない!」

「ムチャって自覚あるんだー」


 仕上がったフィルムはパステルカラーを基調とした、幻想的なものだった。

 どこか人を喰った愛嬌ある登場人物と、彼らが背負い、捨て、大事にして来たものが交錯する。


 そして形容し難い感動が、優しい画面からにじみ出て来る。


 この作品は半年後に完成するのだが。


 リック社長は例によってクレジットを拒んだ。

 だが監督の熱意に負け「撮影協力」として社名だけ載せたため、多くの評論家はこれを見落とした。


「特撮というより、一つの映画の効果ですよこれ。

 でもこんな手法が普通に使われる様になれば、映画はもっと面白くなると思います」


 この監督にはしばしば請われて撮影協力したが、彼らはその手法を学んで自力で撮影する様になり、数年後には監督氏は独自の特撮スタッフを抱える様になった。


 だが彼は感謝を忘れず、参加していないにもかかわらずトリック特技プロのクレジットを載せ続けたのだった。


 その評価は、世界映画祭の論評を待つことになった。


******


 春。

 実家の稼業には無関心なトリック家の長男、英雄ブライが帰って来た。


「なんか凄い資源見つけちゃった」

 挨拶そっちのけ、母たちが迎える言葉も待たずに、困り果てた様に言い出した。


 彼は大陸中央南方に油田を発見し、この未開の地の領有を近隣の領主から認定されたのだ。

 無論、世界最強のキリエリア、更に世界最強の英雄リックに配慮しての事だった。

 無論、この話は諸国条約の元首たち以外には、未だ公表されていない。


「はっはっはあー!

 これでブライも俺みたいな、いや俺なんかよりよっぽど凄い財産持ちだなあ!」

 だがリック社長は知っていた。


「お父さん俺どうすりゃいいんだよー!」

「好きにするがよい!わっはっはー!」


 結局彼は僅かな権利だけ受け取ることにし、運営を現地に設立した諸国公社に委ね、産出国へも利益配分した。

 多すぎる金を受け取る事で要らぬやっかみを世間から受ける事から逃れたのだ。


 彼が受け取るべき利益は厳しい条件が課せられた。


 即ち、現地王国の教育・医療費に回す事。

 諸国条約の厳しい監査の元、この利益は運営された。


 英雄ブライの残した学校、病院は王国の珠玉と讃えられ、卒業生たちが大陸東西貿易に頭角を現すのは十年と待たなかった。

 彼らは母国と世界の発展に寄与したのだった。


 そして安価な石油は世界のガソリンエンジン普及を加速した。


 英雄ブライは現地王国の貴族位を授爵されそうになったが

「私は貴族ではありません、奴隷です。まだ見ぬ、『世界の果て』の奴隷なのです」

と固辞した。


 彼の発見と、それに続く原油発掘によって世界は思わぬ好景気に包まれた。


******


 マギカ・テラで予定されていた諸国展示会。


 思わぬ好況の波は、展示内容の変更、来客の倍増、その結果大幅な計画変更を強いる事になった。


「なので助けてたもれ」

「うわ!」

 マキウリア女王陛下がまたリック邸に来た。


「諸国展示会も何度目です?

 専門のスタッフいるでしょ?」

「みな腰が抜けておる」

「全くもう!」


 リックは渋々計画変更に協力した。


 着工済の建物以外は拡張した場所へ移動。

 多くの歩道に日よけの屋根がある、屋外型の「動く歩道」が設置された。

 その屋根は虹色の布が張られた。

 そして万博名物モノレールが主要なブロックを繋ぐ。


 広くなった敷地には休憩所を兼ねて木々が植えられ、未来の姿と豊かな緑が共存する風景を生み出した。


「まさに未来の風景よのう」


 高層建築と緑、その間を走るモノレール、更にカラフルな休憩所。

 かつて魔王の国と思われていたマギカ・テラの印象も相当変わるだろう。


 数少なく残った特美スタッフが作り上げた立体設計図ともいうべき会場模型に、マキウリア女王も展示会関係者も喜んだ。


******


 一向に自分の企画が進まないリック社長。

「なんだか思ってたのと違うー!」


 だが。


「いやいやリック、新作やってたらここまで色んな人の手伝いなんて出来なかっただろ?」

「待てアックス!主は自分の夢を叶えるため多くの仲間を古巣に返したんだ」

「それもそうだけどさあ。

 俺は、あちこち飛び回って誰かのために頑張るリックこそ、リックらしいとおもうんだがなあ」

「それはその通りなのだが…」

「嬉しくない評価だよー!」

「「「うふふふ!」」」「ぶひゃひゃひゃ~!」


リック社長本人は不満だが、妻達仲間達はそんなリックこそ慕っていたのだ。


 その時、電気機関車の音がした。


「おう!リッちゃん!」

「「「え?」」」


 今度はセプタニマ監督までやって来た!


「あ”~!!」

 思わずリック社長は頭を抱えた。


「何だよ人の顔見るなり!

 それよかリッちゃん特撮辞めるんだって?」

「辞める時は死ぬ時!まだ死ねないよ!」

「なんでぇ!折角ウチの班で面倒見てやろうと思ったのによ!」

「あんたと仕事したらみんな死んじゃうよ!」

「覚悟が足んねえ!」

「ブライ呼んで説教させるぞ!」


「仲良しさんですわねえ」

「キリエリア映画界の頂点の口喧嘩が仲良し…」

「妻よ、その程度に思っておけ。考えるだけ無駄だ」


「極北案内人」、ギリギリ赤字を出さずに済んだが評論家に絶賛されたあの一作の後、何と今度はゴルゴードの出資で一大歴史悲劇を企画していたのだ。


「舞台設計や爆破指導とか頼もうと思ってたのによお!」

「ミニチュアならやるよ?」

「そんなチャチなもん要るか!

 ホンモノ建ててブっ飛ばすんだよ!」

「贅沢だなあ」


 かき集めた予算は何と20億デナリ!


 結局トリック特技プロは関与せず、仕事はショーキさん麾下のヨーホー映像特技部が担当する事を前提に企画が動き出したそうだ。


「てか先ず古巣に声かけるのが先でしょが!」

「主よ、既にセプタニマ監督はヨーホー映像の人ではないのだ」

「あーそーいやーそーだったー」


 分社化という一時代の区切り。

 その非情さを痛感するリック社長であった。


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