338.リックの仕上げ
リック社長が次に向かったのは、かつて映画大手だったジャイエンのスタッフが再結集した国際テレビ。
かつて映画詐欺で結成された国際特撮が母体となって再編された会社だ。
今では特撮以外の、若手女性アイドルを主役とした軽妙なコメディドラマで大人気を誇っている。
無論特撮作品も。
物価高にもめげず巨大ゴーレム特撮を3作繰り出し、人気も維持している。
そこに、自社スタジオと自社スタッフの休眠中の仕事をもらい受けに行った。
「リックさんのスタジオを貸して頂けるなら…いや、それは違いますね。
予算がオーバーします。
やはり我々が出来る範囲で我々がやらなければ」
低予算の中人気シリーズを守り続けて来た矜持が、目の前のアッカリダ監督にはあった。
かつてヨーホー映画の古参だったポンさんもそうだ。
「じゃあ、ウチのスタッフ養って貰って、代わりにスタジオ安く貸すって条件なら?」
「そりゃもう!でもいいんですか?」
「遊ばせているよりいいよ」
こうして、「ルーバーエクエス」等エクエスシリーズを送り出していた国際テレビは、実はずっとやりたかったスプラルジェントの様な巨大変身英雄シリーズを開始した。
主人公は防衛隊ではなく、強力な宇宙船の技術を持つ兄弟姉妹。
この宇宙船の力を奪い、地球人を宇宙の敵だと訴える偽善的宇宙人たちが敵だ。
変身英雄は初回は等身大、二回目で巨大変身を遂げる。
しかしこの兄弟姉妹を狙う宇宙人が関係者を暗殺し、事件を起こし、疑心暗鬼にかられた付近住民が兄弟姉妹の心を追い詰めてしまう。
「かなりネガティブな作品だなあ」
「先行き不安な世情を映しているとも言えようか」
「今までが上手く行き過ぎただけなんだけどなあ」
「主よ…」
トリック特技プロはスタジオとスタッフを貸し出す契約を結んだ。
久々にスプラルジェント以外の巨大変身英雄が登場した。
児童雑誌で特集が組まれ、若者向けの特撮雑誌からも撮影中から取材が入り、それはスプラルジェント不在の渇きを埋める存在だった。
しかし、流石にネガティブな内容すぎたか、或いはミニチュアワークが予算的にトリック特技プロ程精巧に出来なかったのか。
スプラシリーズの様な60%台まで行かず、初回で50%超え、それ以降は40%台を維持するのが必死だった。
それでも成功、大成功なのだ。
何しろ製作費が安かったのだ。
「これならもう数年やって行けそうですよ!」
アッカリダ監督が感謝してくれた。
この変身巨大英雄もスプラルジェント不在の間を埋め、なおかつ独自のペシミズムを発揮しつつ、トリック特技プロの技を伝授された国際テレビスタッフは数年のシリーズ化に成功した。
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そしてリック社長の古巣、ヨーホー映画。
「グラン・パクスの最期」も「ゴドランの復活」も成功し、特殊技術部は面目躍如たるものがあったのだが、次回作に思い悩んでいた。
次もゴドランで行くか、「スプラフィニス」の成功を受け、宇宙SF作品で行くか。
次回作「スプラプレグリナス」も70mmパノラマ、6チャンネルで編集され劇場公開されることは決まったが、「スプラフィニス」同様、ヨーホーテレビ作品ではあってもヨーホー映像作品ではない、他社であるトリック特技プロ作品なのだ。
ヨーホー映画としては自社系列のヨーホー映像作品を続けていく必要があった。
そんな中でのリック社長の訪問を、マッツォ社長は大歓迎した。
「実はSFブームを受けて書かれた企画があるんですよ!
古代帝国の様な大帝国が宇宙でも勃興して、いずれ分裂して滅亡、宇宙各地に文明が放たれるという壮大な物語を描きたいという」
そう言われて渡された企画は、壮大過ぎた。
「あちゃー!!」
「え?」
どう見ても、数億デナリで収まる規模ではなかった。
「やれって言うんならやりますけど。
全三部作、しかも政治抗争とか思想の解説とかが中心でしょ?」
「何故そう思います?」
企画書にはそこまで書かれていなかったが、侵略や開拓による物質文明と、節制や哲学による精神的な充実を図る一派との対立が主軸となる以上、その相違はどうしても理屈臭くなる。
「思考実験としては面白いけど、エンターテイメントとしてはどうかなあ」
「うーん、そう思われますか」
初期段階でここまで指摘されるとは思われなかったマッツォ社長。
「俺なら一番派手で壮大な戦いがある場面を第一作にして、その後時間を前後させて公開するかなあ」
マッツォ社長はしばらく悩んで、頼んだ。
「企画に協力して頂けないか?」
「それは良いですが、成功するか実現するか、凄い難しいですよこれ」
「あなたが生み出したSFに触発された結果なんですけど」
「いやいや、SFブームの開祖は『1799』の完成度の高さですよ」
そう言われては二の句が継げない。
「俺の場合、必ず見せ場を意識しましたよ?
でもこの話、宇宙の辺境に知恵者を集め、文明の破滅を阻止する…って、結構難解ですよ。
それに俺は未来兵器でドンパチが好きなんです」
「なんと」
改めて後日脚本会議が開かれ、リックの積算を見た一同が頭を抱えた。
特撮以上に本編の、宇宙帝国に説得力を持たせるための衣装やセット代が膨大だ。
1作5億デナリで三部作合計15億デナリ。
「ぬう~!せいぜい1億デナリでなんとかならないか」
「『惑星攻防伝説』のスケールに納めるなら」
「それじゃまた笑いものだ!」
「でも客入りましたよ?」
何だかんだ好きな「惑星攻防伝説」をバカにされたリック社長がムッとした。
「或いは、まったく別の企画にするか」
「例えばどんな?」
一転して一同はリック社長の意見を身を乗り出して聞いた。
「太陽系最大の惑星、雷星。
観測の結果、可燃性ガスの塊で、激しい気流が常に起きている事が解っています。
ガスの塊であるこの星で極大魔法を進化させた核融合を起こして太陽にし、外惑星地域に地球同様の惑星を構築して開発を進めようとする時代」
「雷星が、太陽に?」
「理屈の上では小さい太陽に出来ますが」
「ピンとこないなあ」
「これに反対する過激な若者たちが開発公団と武力抗争する」
「最近増えて来た、出稼ぎ崩れの他国民ですな?」
「過激派はちょっと今日的な話題っぽくて面白いかもねえ」
近年キリエリアへ移住しても職に就けず、街で暴れる若者が増え、中には王権を批判させる運動に取り込もうとする貴族が手駒にしているという話も聞く。
キリエリアは現在入国制限を厳しくしているのだ。
「そこに赤色矮星が接近。
主人公は雷星太陽化を断念し、巨大な極大魔法爆弾と化する計画を立案する。
太陽系開発公団は計画を変更、雷星爆破、赤色矮星の軌道を変える作戦を実行。
しかし地球から宇宙への移民を推進する政治団体が過激派をそそのかし爆破計画のサボタージュを命じる。
地球の消滅を背に過激派船団と爆破計画の激闘が繰り広げられ、主人公達は過激派撃退に成功、しかし脱出の時間を逃し、爆破計画に殉ずる。
というのはどうでしょうか?」
「中々面白そうだが」
「怪星バベルのリメイクだねえ」
「あれが失敗したのは、天文知識が世の中に知れ渡ってない頃だったからです。
今どきの教育を受けた若者なら理解できると思いますよ?」
「しかしほぼ宇宙が舞台で悲劇的要素かあ。アモルメあたりが食い付きそうだ」
「話の持って行き方によっては、これは面白くなるのでは?」
段々と反応が良くなった。
「今の構想を、SF作家と相談して企画を纏めよう」
誰かが言った。
その瞬間
「あの~、あんまり風呂敷を広げない様釘さしてもらえます?」
リック社長が凄くイヤそうに言った。
「1799みたいに宇宙の未知の存在からの通信とかそういう要素を入れたり、あんまり恋愛要素をブチ込み過ぎると、観客を置いてきぼりにしちゃいますんで」
「しかし恋愛要素は映画には必要だろう?」
「『ゴドランの復活』や『スプラフィニス』がウケたのは、そういうのバッサリカットしたからですよ」
「難しい事を言うなあ」
なお、リック社長の不安は的中した。
この企画はSF作家、「内海が広がる時」の原作者フルクトゥ・ピヌス氏に持ち掛けられ、触発された氏が
「雷星には異星人の古代の宇宙船が眠っていて人類にメッセージを送っていた、しかし解析されないまま太陽化の中に」
「過激派団体に主人公の幼馴染の女がいて、敵味方に分かれて銃を討ち合い」
「過激派団体は自然を愛する吟遊詩人を囲む集まりで」
等々言い出して、結局頓挫した。
「なんといいますか、スミマセン」
「原案の権利はウチが確保させて貰いますからいいです」
そしてリック社長の意見を尊重して「宇宙帝国の滅亡」が壮大な歴史絵巻の様なスペクタクルを前面に押し出して三部作で製作される事になり、リック社長はモーションコントロールカメラをヨーホー映像に貸し出す事となった。
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スタジオ、人員、更にモーションコントロールカメラを貸し出したトリック特技プロ。
「なんか、もう俺の出番も無い感じだけどね」
各社それぞれ新作に向けて奮闘する様を眺めつつ、英雄チームの面々を前にリック監督は言う。
「それは寂し過ぎます」
「リックきゅんはさ、時々自分に自信なくすよね?」
二人の夫人がリック社長を諫めた。
「俺は天から与えられた恵みで生きてるんだ。
それを世間様に返したら…
なんか懐かしいなあ。
王国復興に目途が付いた時もそんな感じだったなあ」
「主は特撮が嫌いになったのか?」
「そんな訳ないよ。
何ならこれから各社を渡って特技監督として雇って欲しいくらいだけど、何しろ予算がねえ…」
確かに各社を回って、どこも予算枠が最大の問題だった。
「カネの問題なのかなあ」
「違いますよ?」
アイラ夫人が即答する。
「お前の進む先には未来があるんだ」
「だから人も金も期待も集まるのだ。
それを呼び込めるのが主、貴方だけなのだ」
「自分を安く見ちゃダメよ!」
「そうですよ!社長は予算とその後ろにあるみんなの期待を集める力があるんです!」
リック社長を見守る一同の目は暖かかった。
「きっと神様もあなただから素晴らしい力を授けたのですよ?」
「そうだよ~!
リックきゅんが色々作んなかったら、寒波や戦争で何万って人が死んでたよ?
それを止めたんだよ?
すごいよ~!」
先の戦争以来苦楽を共にした夫人二人も彼を励ました。
「そっか、そうだね。
各方面への義理は果たせたかな、寂しいけど。
これからは自力で好きにやろう。
ヨーホーもショーウェイも頼らない、唯の映画売りになって」
「あんま今までと変わんねえ気がしないでもないけどな?」
「それもそうか!」
「ふふっ!」
「「「あははは!!!」」」
一同はリック社長の厳しい覚悟を歓迎して乾杯した。




