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318.大作路線の限界か、社長の辞任か!

 リック社長、いやリック監督が「スプラコスモス」「ヴェネトステラル」の製作に向けて新技術を駆使したパイロットフィルムを披露し、どちらも好評。


 しかし「スプラコスモス」の上映後にホスト役の学士が改題を申し出た。

「オミネス・エト・ユニバースム(宇宙と人)」としたいと。

 宇宙だけが題材ではなく、宇宙と人間との対話の中に知があり歴史がある。


「あの人が言うならそうしよ」

 リック監督は即答。


「でもスプラシリーズが」

 英雄チームがリック監督長年の足跡が絶える事を惜しむ。


「じゃあヴェネトステラルをスプラシリーズにしよっか」

「そんなカンタンに!」


「乗った!」と、今度はマッツォ社長が即決。


 こうしてこの2作品は題名だけでなく設定や内容が変更され、正式な予算組みや配役が決まりつつあった。


(これでちゃんと完成しなかったら、ヒットしなかったら大問題だわ…)

 今まで費やして来た技術開発費に、ミーヒャー専務が怯えた。


******


 条約祭典の年が来た。


 ボウ帝国は宿敵でありながら、先日自分が先に手を出したテッキ王国、更に援軍を贈ってくれた条約諸国への返済に追われていた。


 苦肉の策として、旧来の利益構造を無視して改革を進めるより無かった。


 新皇帝ガダイ陛下、改め「衛統帝」陛下が「なんとか」廻していた。

 だが、世情より自己の利益のみにしか関心の無い貴族たちは新皇帝暗殺を画策し、幾度か実行し、都度失敗していた。

 外務卿カチン大臣が海外から優秀な暗部を雇っていたからだ。


「新皇帝が守旧派に暗殺されてはかなわん」


 更に各国の暗部が暗殺阻止に働き、飄々としつつ腰が低い衛統帝陛下が事業をヘロヘロと進めていく。

 そして暗殺の首謀者が逆に討たれ、反対派が密かに粛清されて行く。


 豊富な資源に物を言わせボウ帝国は祭典の施設である現代的な競技場…その装飾は東国の伝統を意識したものだが、他国からの来客を圧倒する巨大建築を続々と完成させている。


 そして高速鉄道、飛行場、観光開発を行い、テッキ王国の近くにも競技場を設けた。

 和睦への返礼と同時にボウ帝国の威信を見せつけるためでもあった。


 テッキ王国は最強の戦士を出場させる事で答え、かの国も祭典に向け大いに盛り上がっている様子である。


 リック社長は競技場や会場のデザインにだけは関与しつつ

「何でそんなヒマあるんですか!」

「だって東国建築好きなんだもん、昔『白蛇姫』で色々やったしー」

「ウチの仕事して下さーい!」

「またまた怒られちゃった」

「妻よ…」


 他の諸々、競技やら警備やら社交には無関心だった。


******


 いよいよトリック特技プロの新作発表を控えた頃。


 セプタニマ監督待望の新作「極北案内人」が公開された。

 北方諸国では数億のヒット。

 そしてキリエリアでのロードショー。これも絶賛であった。


 やはり、初のカラー作品とは思えない程に、画面が美しい。

 そして雄大。

 英雄ブライとも何度か衝突した吹雪も、極寒の森も、そこに住む精霊と呼ばれた獣たち。


 それらを前にした人間の小ささ、しかし必死に抗う姿。

 伸びていく鉄道。拓かれる街。


 最後には、大自然を前に雄々しく生きて来た命が、無価値だったかの様に盗賊に殺されてしまう。


「巨匠還る!」

「往年の輝き衰えず!」

「至上の映像美!」


 映画関係者、そして新聞は讃えた。


 しかし「随分作風が変わったわね」と案じるセシリア社長。


「今までのセプタニマ監督の魅力とは、明らかに違う」

 豪雪シーンの現像を担当したモンさんが「リッちゃん、どう思う?」と聴く。


「あの人は、自分で結論を出す事を辞めたんだ。

 今までのあの人の最強の武器を捨てて、結論を観客に委ねた。

 それがどう観客に届くかだよ」


******


 リック監督の言葉は、悪い意味で的中した。


 絶賛の内に始まった公開だが、その興行収入はキリエリアでは思ったほどではなかった。


 何とかロングランは果たしたが、それも直前まで躊躇われる程度の客の入りだったのだ。


 最終的には製作費9億に対し、世界全体で7億強と、赤字に終わった。


 ヨーホー映画は2億の出資に対し2億の収益と、何とか泥を被らずに済んだ。

 しかしアモルメは…

「文化事業である故、成功と認める」

と意外なまでに寛大な判断を下した。


 鉄道建設ルートの踏査は英雄ブライの探索による所が大きい。

 その費用も映画の製作費から出ている。

 その投資を考えれば、1億強の赤字は許容範囲ではないか、という判断だ。


 だが。

 赤字の知らせを聞いた英雄ブライは探検を中断してキリエリアへ帰った。


「すみません!私が足を引っ張った所為かも知れません!」

 彼は真っ先にセプさんに謝罪した。


「よせよぉ!

 命を救って貰った上に己の無力をライちゃんに詫びられたら、情けなくって死にたくなるよ」


「監督!決して一時の評価に捕らわれないで下さい!

 あの作品は歴史に残ります!

 これからも続く北方開拓に携わるものにとって、必ず見るべき映画になるんです!」


 英雄ブライは巨匠を励ました。

 しかし、巨匠は

「他人行儀だなあ、セプちゃんでいいよ。

 それにしても何が悪かったんだろなあ」


 親し気に、そして哀し気に聞いた。


「私には映画の事は解りません」

「そういう奴の意見が大事なんだよ」


「では。

 結論を観客に委ねた、からではないでしょうか。


 父と一緒に見た、セプさんの過去の作品は、あなたが結論を観客に明確に出して観客を打ちのめした。


 もしかしたら、観客は。

 まだ、今はセプさんの主張する結論を欲してるんじゃないかと思います」


 そう言われて監督は悩んだ。

「難しいなあ」

「だから映画は面白い、と父は言っていました」

「そっか。

 よし!行くぞ!」

「はい?」


******


 久々に白亜の殿堂から庭園鉄道が来た。ノンアポで。


「あー!セプタニマ監督だー!」

 怪獣ではなく、世界の巨匠が鉄道でやって来て、嘗ての怪獣少年は仰天した。


「よう!負け戦の言い訳に来たぞ!

 あんたんちのライちゃんといっしょにな!」


「おにーちゃん!」「にーちゃ!」

 妹たちが兄に駆け寄った。


(しまった、突然来たからなんか言ってやろうと思ったけど娘に先を越されたー!)

「はっはっは!悔しそうな顔してるじゃねえか!」


「マイちゃんも呼びます?

 声がかからなかったの凄ぉ~く恨んでましたよ?」


「アイツもケツの穴ちっちぇえ事言ってんじゃねえよ!

 呼べ呼べ!撮影所の連中も!」


「誰ん家だと思ってんです?」

「リッちゃん家はヨーホー映画みんなの家だ!」

「勝手にみんなの家にすんなよー!」

「とりあえずアイラ、お母さんにもお知らせをお願いね」

「はい!」


 その夜は脚本陣、テンさんも来て、更にセシリア社長も来て大騒ぎとなった。

 いや、他の監督まで来た。


「みんなウチを何だと思ってんだよ!泊めないぞ!

 ってか泊まれないぞ!」


「白亜の殿堂に泊まるぞ!カンパーイ!」

「セプさん、次も撮れー!」

「1億なんぼの赤字がなんだよ!」

「『その陰』ン時はもっと豪快だったぞー!」

「それは言うなよ!」

「ホントあの時は死にそうでしたわよ!」


「ひー!リックさんのお家がクラン祭りみたいな事に!」

「いつもの事だ、妻よあまり気にするな」

「夢みたいー!」


「社長、色々すみません」

「全くよ!セプさんにはヒヤヒヤさせられっぱなしだわ!」


「ブライ、よくやったよ!

 この難物の世話して良く生きて帰って来れた」

「父さん酷いよ!俺を殺す気だったのかよ!」

「いやいや!

 お前みたいな超合理的で筋の通ったヤツじゃなきゃ、この人のお世話は無理かなーって」

「確かにその通りでしたよ!」


「全く似た物親子でさ!

 言ったら聞かないガンコさは流石リッちゃんの子だよ!参った参った!」


「参ったじゃねえよ!」

「ひー!マイトさまー!!」

 マイちゃんが来た!


「何で俺を呼ばねえんだよ!酷ぇよ!」

「まあまあ、ありゃ北の御国のお声掛かりだ、カンベンしてくれよ!」

「次は俺が主役ですから!頼みましたよ!」


「次かあ…

 次は、何しよっかなあ…」


 その時、一瞬場が静かになった。


「なんか撮って下さいよー!」

「俺たちゃ映画撮ってナンボなんだ!」

 他の監督たちやスタッフが叫ぶ。


「なんかアイデアが出たら読んで下さい、一緒に形にしましょう」

 長年付き添った脚本の大家も盃を捧げた。


「俺は出番ないからね」

「何言ってんだリッちゃん!

 今までもちょくちょく仕事廻しただろ?」


 映画は何だかんだ細かい合成や一発撮りのための細工が不可欠。

 特撮をニセモノ呼ばわりしたセプタニマ作品でも、随所随所に特撮は使われていたのだ。


「これが長い草鞋って奴かー!」


「久々に賑わってしまって、ご迷惑をお掛けするわねえ?」

 セシリア社長が、ジッセイダー家のメイドと一緒に料理や酒の采配をするアイラ夫人を呼び止めた。


「いいえ。私達がここにいられるのは、皆さんあっての事ですから。

 それに、このところ久しくこういうのが無くて寂しかったです。

 今夜は嬉しく思います!」


「私は本当に良い人達に囲まれて過ごせてきたわ。

 夢みたいな日々だった」

「これからも続きます。

 リックさんが続かせるでしょう。

 あの人も、寂しがりやですから」


 何気に、既に昔の事みたいな言い方をするセシリア社長に、アイラ夫人は心配になった。

「これからも、いつでも来て下さいね?」


******


 映画の興行というものは、理不尽である。

 製作費の10倍稼いで大成功という尺度も理不尽なら。


「海広」の様に、そこまでのヒットを期待していない作品が大ヒットしても次回作の予算は減らされる。


「1799」の様に製作費の数倍程度のヒットでも世界的に話題になれば歴史的記念碑の様に称えられる。


 そして、「極北案内人」は早くも失敗作と見做された。

 製作に深く関与せず、全体の一部しか出資していない分の元も充分回収しているにも関わらず、勝手に20億30億のヒットを期待されたばかりに。


「ヨーホー映画は大作路線を志してきましたが、これにも限界が来ているのではないでしょうか?」


 社長会でそんな事を言い出す者がいた。


(みんなが委縮してしまっているわね)


 セシリア社長は危機感を覚えた。


 そもそも、映画というものは手堅くやろうとすれば低予算でそこそこのヒット、過去から著明な物語を人気俳優で演じれば大儲けという、全時代の芝居小屋の精神に逆戻りしてしまう。


 その枷を打ち砕いたのがヨーホー映画の歴史そのものだった筈だ。


 リック監督が持って来た驚くべき特撮フィルム、更にイキナリ魔法で生み出されたクラン撮影所、白亜の殿堂。


 その驚くべき先進性の恩恵でヨーホー映画は、キリエリアの、世界の映画が爆発的に進化して来た。


 それが今更芝居小屋の精神に戻るというのは…

 いや、嘗ての芝居も、新たな驚きや表現を求めて進化して今がある。

 そんな精神にも劣る弱気で、それはもうヨーホー映画と呼べるのか。


「どうやら、私が夢に見た映画の時代は、もう過ぎ去ってしまった様です。

 分社化後の安定を見届ける使命は果たしたかと思いますので、私は辞任します」


 予てから考えていた辞任を、セシリア社長はこの場で宣言する事になった。


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