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317.進む新作の構想、だが?

 トリック特技プロの新作が静かにその評判を広めていく中。

 キリエリアの新聞だけは相変わらずの誹謗中傷を広めていった。


******


 完全にノーマークとなった17th世紀プロ。

 マギカ・テラでこそ「『1799』は自国の誇り」と讃えられたが、他国では天才監督の作品としか認識されていなかった。


 だがそんな評価に構っている余裕は、17th世紀プロには無かった。

 この成功で得た利益が尽きぬ間に、次回作、更に次々回作へと食い扶持を繋ぎ、人形班を見捨ててしまった分今いる仲間達を養って行かなければならなかった。


 リック社長が「イイネ!」と言ったデザインを元にミニチュア作成が行われ、過去作品よりさらに進化した未来兵器が生み出されていた。

 宇宙の未来兵器は白を基調にしたデザインでミニチュアが作られて行った。


 しかし予算には限りがある。


「1799」の成功もあって、「トニトアビス」以上の予算が集まってはいた。

 しかし物価高はキリエリア程ではないがマギカ・テラにも迫っていた。

 それ故10年前の倍とは言わずとも4割増しにはなっていた。


 そんな中でデザインされた、極秘の地球防衛師団は、電探迎撃、有視界攻撃、地上戦の三段階で敵を迎撃する秘密軍隊と設定された。


 敵は「OVI(未知の飛行体)」。

 例の、他国が試行錯誤して飛ばせた試作飛行機群が世間で異星人の宇宙船だと噂になった故、話題性が出来てしまった存在だ。


 異星人は未知の天体から飛来し、人類を攫い、その臓器を移植して生命を維持する。

 ある時は人間の頭脳を操作し潜伏する、人間にとっては不倶戴天の敵である。


「壮大な宇宙観を描いた『1799』の後に、宇宙人の侵略ってのもどうかなあ」

「そうでもないと26話なり39話なりの物語が描けないんですよ」

 リック社長の意見も、17th世紀プロのエンリケ社長の言い分もどちらも尤もであった。


「確かにねー。

 例えば、あの『1799』を5話に分けてテレビで放送したとしても、成功したかって言われたら違うかもねえ」

「終末にテレビで自宅や食堂で見るテレビ映画には、それなりの見せ方ってものがあるじゃないですか」

「ごめんねえ。無茶言った」


 だがこの「OVI」、国内向けのセールスは中々だそうだ。

 自国の作品に対する思い入れがマギカ・テラは強いのだろう


「羨ましーねー」

「何言ってんです、キリエリア程特撮が充実してる国ありませんよ」

「俺程ボロクソに言われてる監督も珍しいよ?」

「そんな愚か者なんか相手にしないで下さい」

「嬉しいねえ」


 こうして、結構な予算を得て、17th世紀プロの新作「OVI」の製作が開始された。


******


 月面の地下に、秘密防衛師団の迎撃機が待機するシーン。


 遠景の同型機が並ぶ姿は、巨大な写真を切り抜き手前のミニチュアの奥に多数配置する。

 操縦席の中で宇宙船を操作する飛行士は、巨大な書割の遥か向う、一発撮りで演技する。


 光線など出せない。

 宇宙戦闘艇は巨大爆薬をロケットで発射する。


 地球に侵入したOVIは、海底で待機する潜水艇の先端に接続された飛行機が迎撃する。

 この戦闘機の迎撃戦も、小型ロケット弾を多数同心円状に配した「ロケットポッド」から連続発射する。


 敵異星人の円盤だけはエリアル合成で光線を発射する。


 ある意味、スプラシリーズがバシバシ未来兵器と人物の合成や、必殺技で多色光線や集中する光等をゲバゲバふんだんに使いまくっていた方が頭がおかしいのではないか?と誰もが思っていた。


「だってそーじゃなきゃカッコよくないじゃん!」

 後にリック監督がそう答え、質問した一同が脱力したそうだが。


 しかし仕上がったフィルムはどれも過去の人形特撮以上に迫力や空気感、ミニチュアの細かな仕上げが素晴らしく、

「やっぱり『1799』の経験はみんなの常識を変えたんだねえ」

と、17th世紀プロ創業者、リック社長に言わしめる程であった。


******


 本編の準備も進んだ。


 俳優は、当初高名な俳優を、と考えられたが

「『1799』での苦労もあった。

 私達には名優に色々思うような指示を下したり、空想物語を理解させる力も、まだまだ拙い。

 過去の作品で付き合いのある中で名の知れた俳優を優先しよう」


 エンリケ社長はそう判断した。


 マギカ・テラ放送局はこれに反対したが

「著明な俳優と意見が違ってしまえば、数か月撮影が止まる事も考えなければ」

とのエンリケ社長の懸念を汲む事にした。


 デザインは本編、特撮とも特撮班が担当した。

 舞台は今から数十年後の未来だが、服装が現代の貴族服の様な華美な装飾を一切持たない、ビニール素材で簡素なものにデザインされていた。


 主人公達の乗る自動車も馬車然とした現代風でもなく、楔の様に前後に尖り、微妙な曲線を描き、しかも扉が横ではなく上に開くという未来自動車が複数デザインされた。


 防衛司令部も映画会社に擬装して地下に設置されたと設定され、新築された最先端のデザインを誇るマギカ・テラ先端技術学院でロケされた。


「宇宙迎撃戦を思い出すなあ」

 キリエリア王立学院の新学舎をデザインし、「宇宙迎撃戦」でロケに使ったリック社長がノンビリと語った。


 しかし最初の諸国展示会以来生み出され続けた自由奔放な芸術的建築を経て、未来感覚は更に進化していた。

 それは建築だけに留まらなかった。


 登場する女性達は妖艶に着飾り、豊かな体の線や肌を大きく見せている。

 これらはマギカ・テラで淫魔族と呼ばれた種族の女優陣が志願して演じた。

 彼女たちは美を競い、注目を浴びる事を美徳としていたのだ。


「ムッキー!サキュバス族なんかに負けてたまるもんですかー!」

「あのなあセワーシャ、俺たちも40後半に差し掛かるって年だぞ?」

「魔力が満ち満ちていますー!まだピチピチですー!」


 セワーシャ夫人が狂った。

「ねえ兄貴、セワーシャ何かあったの?」

「い、いやあ何も?」

「アックス、素直に言うのだな」

「あのね、アックスがね、サキュバス族にね、誑かされそうにね…」

「うわー待てディー!!」


「ディー!あんたも負けなさんな!おめかしすりゃ悪の女王でも大魔導士役でも何でも!」

「イヤー!!セワーシャがおかしくなったよ~!」

「ムッキー!アイラちゃんミーヒャーちゃんも我に続けー!!」


 勿論彼女たちが体の線をクッキリさせた衣装で登場する事は無かった。

「何と言う勿体ない事をー!!」

 後で大祭日の礼拝の後に聞いたミゼレ祭司は血の涙を流したそうだ。


 しかしセワーシャ夫人のこだわり(ムチャ振り)で、完成した作品には制服に身を包んだ英雄チーム夫人会がチラホラ画面に映っていたりした。


******


 トリック特技プロ周辺は、久々に賑わっていた。

 しかし、少し違うのは、あの庭園鉄道がリック邸、トリックスタジオ、そして白亜の殿堂を往来しない事だった。


 今ではヨーホー映像はテレビ広告映像の撮影が専らで、時折トリックスタジオのバーサタイル70にフィルムを持ち込む程度だったのだ。


「つまんねーなあー」

「スプラルジェント、帰ってこないかなー」


 かつて荒野を気ままに、今や住宅地の間を縫って走っていた庭園鉄道。

 そこに乗せられた、まだテレビに登場していない新怪獣を見るのが楽しみだった子供達。

 今では学生になった少年達が、時折寂しそうに呟く。


(ミニチュアが増えたらヨーホー特技部に発注しなくちゃなあ…)


 窓の外、庭の外を眺めてぼや~っとしているリック社長にアイラ夫人がワインを注ぐ。

「また商売と関係ない事考えてるんですね?」

「あ!いえそんな事はですね…」

 と、無理やり取り繕うが。


「みんな賑やかな方が良いですもんね?」

 そう、聖女の微笑みを投げかけてくれる。


「これからまた世間が、昔より金がかかる特撮を必要としてくれたら。

 俺はまだ頑張れるよ」

「弱気ですね?」

「勿論必要とされなくても好き勝手やるけどさ、それじゃ寂しいからね?」

「それでもい~じゃ~ん」

 アイディー夫人も来た。


「またさ、キャビーちゃんと人形特撮始めても、いいんじゃない~?」


 もう18歳、すっかりお年頃になったキャビーちゃんはマギカ・テラで各地を回って歌や歴史や世界のお話しを伝える人形劇団の、裏方の花形?となっていた。

 勿論、ルーイン夫人やナンシー夫人、かつての人形特撮の母親たちと一緒だ。


「いやさあ。

 あの子達にはいーかげん結婚相手何とかしなきゃなあ」


 長男の英雄ブライはただでさえ英雄の称号を持ち、更にアモルメの民を飢餓から救い、その上公開を待つ巨匠の新作「極北案内人」のリアルな案内人を務め、テレビの宣伝フィルムにも顔と名前が出ている。


 国王陛下の下に婚約の申し込みが多数来ているそうだ。

 しかし本人は目の前の冒険に夢中だ。


「な~んか、懐かしいわね~」

 またソラチムちゃんを連れて遊びにやって来たセワーシャ夫人。

 先にパイロットフィルムのセールスの相談に来ていたミーヒャー夫人と、その子達が「あかちゃん、かわいーねー」と集まる。


「あやや~や~い~え~」

「年上の子がいると子供の成長が早いって、ホントよねー」

「うふふ。ハンマちゃんももう騎士錬成所を卒業するって、凄いわよねえ?」


 アックスとセワーシャの長男君は英雄である父と聖女である母の教えを受けて、幼くして騎士錬成所に入所し、12歳にして卒業を目の前にしている。


「あの子は未だ本当の戦いを知らないわ。

 せめて、辺境の野獣狩りの手伝いでもさせたいわね」

「そんな…」


「誰かを助けるって事は覚悟が要るのよ。

 その空気だけでも、知って欲しい。

 その上で、どんな道を歩むのか、選んでほしいのよ」


 厳しくも、我が子の行く道を案じる母であった。


「確かに。親の歩んだ道だけは全てなんかじゃありませんものね」

 笑顔で、感慨深く言うミーヒャー夫人。

 この美しい夫人もまた、唯の映画スター大好き少女から、映画界の凋落を救い多くの有能な人材を雇い続けた優れた経営者の一人になってしまった。


「リックって、やっぱスゴイわ」

「デシアス様もアックス様も凄いですわよ?」

「そりゃそうだけどさ」

 旧知の仲のセワーシャは、男二人に厳しい。


 アイディー夫人がアイラ夫人をちらっと見て言った。

「まあさ、まさかあたしたち、こんなかわいい子供がいてさ、仲良くノンビリ。

 幸せだよね~」


「ぶふっ!」

 セワーシャ夫人が噴いた。

「アンタがそんな事言うなんてね!」

「え~?」


「あたし、時々ヘンな夢観るのよ。

 子供のころ、まだ神殿で一人だったのに、アックスやデシアスやあんたと神殿抜け出して、アイラや今いるみんなと一緒に市場に出かけて、誰だか解んない友達と一緒に温泉入ってお酒飲んでるの!」

「それは、ステキな夢ですね!」


 英雄チームとは戦後に知り合ったアイラ夫人は嬉しかった。

 夢の中でも、この仲間達の中に居られる事を。


(子供達は、もうみんな仲間ですけどね)

 年長のブロムちゃんとマーニャちゃんが、怪我しない様に小さい子の面倒を見ている。


(あ~。

 こんなノンビリした感じで、特撮続けていけたらいいよなー)

 そう思ったリック監督だが。


(あ。これって、異世界で言う「フラグ」って奴か?)


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