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316.リックの新技術への挑戦

 セプタニマ監督復帰、その新作には多くの期待が寄せられた。

 その特報を見ただけで「過去最高か!?」等の評判が飛び交った。


「まだ出来ても無いのに最高もへったくれもないだろう」

 と監督本人は言う物の、それ程期待が高かったのだ。

 

「これで大コケでもされたら会社の屋台骨が傾くわ。

 いえ、それ以前に国際問題に発展するかも」

 9億という巨額に膨れ上がった製作費を知るや、セシリア社長はかつての騒動の数々を思い出して震えた。


******


 そんな巨匠を巡る騒動とは無関係に、リック監督はと言えば新作「ヴェネトステラル・宇宙開拓戦記」のパイロットフィルムを仕上げていた。


 パイロットフィルムでは基本35mm、多重合成の場面で仕上がりの美しさが問われる場面では70mm合成まで行う凝り様だ。


 冒頭、開拓惑星、夜の面に灯が灯る。

 そこに目掛けて宇宙船が迫り、その一部が開き、艦載機が編隊を組んで飛来する。


 光の点の様な小さな艦載機が徐々に手前に迫ると、その詳細がはっきりと解る。

 最初に操演技師が機械の腕が着いた模型を操作する。

 その動きを電算機が記録し、同じ動作を何度でも機械の腕で再現させ、それと連動してカメラが撮影し、中断し、カメラのピント修正を自動で繰り返す動焦同時操作撮影機、「モーションコントロールカメラ」を作り上げたのだ。


 この技法の原典は、言うまでもなく「1799」で使用された機械でカメラの動作を制御するものだ。

 リック監督、そしてアイディー夫人はそれを更に電算機で操作し、繰り返し操演と撮影を行う事でミニチュアの操演に自由と躍動感を与えられる事が出来た。

 その為、この電算機とカメラと操演支持棒が一組になった仕掛けは「1799」の技法とは別に特許が認定された。

「他にこんなバカな事考える奴いないだろうけどね、あと100年は」


 開発費2億デナリ。以前「1799」のミニチュア購入のため投げ出すはずだった1億デナリがマキウリア女王陛下の決断一つで宙に浮いたため、惜しまず投入した成果であった。


 しかもこの冒頭の場面では何十機というミニチュアを1台の支持棒を分岐させ取り付け、それを撮影しているのだから贅沢というより愚か者一歩手前である。

 この何十基もの敵宇宙船ミニチュアは勿論トリック玩具で金型を起こし、何十基を複製して、屋外でブルーバック撮影している。

 プラスチック製だが屋内の強い照明を浴びていないため熱で溶ける事無く撮影出来たのだ。


「ほ、ホント、バカよね、ウヒヒヒ」

 この動きを記録するには磁気テープでは間に合わず、記録用の半導体媒体まで開発されたが、こちらは宇宙公社が費用を持った。

 そちらに押し付けたのはアイディー夫人、まさに内助の功だった。


******


 未来都市である開拓惑星の街、夜間に辺境防衛隊と未知の宇宙船団の戦闘が行われる。

 都市の高層建築はガラス張りで、王都レイソンが諸国展示会で生まれ変わった以上に未来の景色を生み出している。

 それらが敵の光線を受けて砕け散り、ガラスを四散させて爆発する。


 彼我の小型宇宙艇が都市内部で空中戦を展開し、カメラが敵宇宙艇を上空から追い、そのまま都市の大通りまで追跡する!

 その両側に、下方には都市の夜景が高速で流れ去っていく!


 流石に都市全体のミニチュアまでは準備できなかったため、実写で夜の王都の中心部を小型飛行機で撮影して、彼我の戦闘機のミニチュアを合成し、更に光線を合成させている。


 これら映像は光線を放つので特撮だと解るが、しかし今までにない迫って来る迫力に満ちたものだった。


******


 次に撮影されたのは主人公達傭兵団が乗る中型高速宇宙船。


 闇の中に巨大な姿が、その前方、格納庫の扉が開き眩しい光が差し込んできて全容が明らかになる。

 その側面が移動カメラで捉えられ、手前では作業用車両や作業員が往来している姿が映される。


 この辺の演出はスプラシリーズと変わることはないが、移動に伴うピントのズレ等が全くない、まさに巨大な実物がそこにあるかの様な迫力がモーションコントロールカメラの力によって与えられた。


 オープン撮影で格納庫から姿を現し、晴天の下に全貌を表す傭兵船。

 垂直エンジンから膨大な噴煙が立ち上り、青白い光を放つ炎と共に上昇し、宇宙船発着港の管制ビル上空を通過する…その時、傭兵船の姿がガラス張りにビルに反射する!


 開拓惑星の地平から眼前に迫り、通過する傭兵船!

 宇宙で傭兵船の外装が開き、三機の小型艇が発進する、それらは敵宇宙船団に迫り、激しく乱舞しつつ敵小型艇を撃破しつつ敵の大型船に迫る!


 主人公側の宇宙船は白・黒・赤いアクセントが入る。

 未知の敵側は薄紫である。


 そのデザインは従来の特撮未来兵器の様な曲面よりも直線的なデザインが増えている。

 直線と円筒を組み合わせ、複雑な凹凸で表面を埋め、その表面各部に書かれた細かな注意書きなどが目立つ。

 これも過去のスプラシリーズから書かれており、児童雑誌や玩具でも再現されていたのだが、本作ではそれが強調された形になった。


 完成したフィルムを見たトリック特技プロ一同は呆然とした。

 そして、感慨は様々だった。


「こんなの出来るんだなあ…」

「何で今までやんなかったのよ…」


「いや、俺がやっちゃあ駄目かなーって思ったんだけどさ、『1799』出来たからもういっかーって」


「所詮この世は主の掌の上だったか!」

「違う違う!ほかの誰かが開いてくれた道の上に俺が乗っかるんだよ。

俺は二番煎じでいいんだよ」


「いいのかよ…」

「無欲ねえ」


「でさ、音楽どうしよっか」

「これはアスペルさんしかないだろなあ」

「ちょっと待って、リックが悩んでるって事は、それでいいかどうかって事でしょ?」

「あ」


「アスペル師は『スプラコスモス』も予定している。

 二作とも頼むべきか。

 或いはこのスピード感に適した新たな逸材を探すか」


「これなら『スプラ・イントレピド』のシンセス師でもいい気がするけどな」

 しかしシンセス師は今や電子楽器と電算機を組み合わせた一人大編成コンサートで世界各国から引く手あまたの人材となっているのだ。


「この映像の勢いを生かす音楽が宛てられるべきだ。

 しかも壮大な感じを効かせつつ…やはりアスペル師だなあ」

「確かに、主とナート師の描く音楽とはまた違うものがある」


「駄目元でシンセス師に聞くだけ聞いてみたら?」

「「「そうかあ」」」


 セワーシャ夫人の意見に従ったら、正解だった。

「久々にお役に立てそうです!」

 この映像に心酔したシンセス師は即答した。


「でも電子楽器は使いませんよ?」

「何で?」

「絵が充分未来的じゃないですか」

「ほほー」

「それに主人公達にとって、宇宙はもう未知の世界じゃない、稼ぎの場でしょう。

 なら、もっと世俗的な英雄譚の音楽、極論を言えば管楽器と打楽器だけでもいいかな、と」

「うおう!」


 意外とアッサリと、シンセス師に内定した。

 パイロットフィルムには、シンセス師の過去の作品から曲が当てられ、ヨーホーテレビとの検討会が開かれた。


 大喝采の後、マッツォ社長が頭を下げた。

「是非お願いします!」


******


 一方、ヨーホーテレビが蹴って公立放送が買ってくれた「スプラコスモス」。


 案内人となる学士の論文、いや、宇宙と人間、自分との対話を綴った様な物語が一章、一章と書き上げられてきた。


 その結果、必ずや必要となるシーンは先行して撮影に踏み切る事とした。


 完成した章は著書から脚本をリック監督とアイディー夫人が起こす。

 それを学士の教え子が健闘し、手直しし、最後に学士氏が再チェックして特撮部分の撮影に入る。


 実写部分も今までにない撮影技術が必要になる。

 そのため、これもリック監督が撮影に当たった。


 微生物の撮影、野生動物の無人カメラによる撮影。

 栄華を誇りながら滅亡した古代王朝の遺跡。

 あの極大魔法の惨禍の跡地も。


 無人小型飛行機の操作によって、地上から上空へ飛び立ち、その広大さをある時は讃える様に、ある時は滅んだ遺跡の運命を哭き叫ぶかの様に撮影された。


 また、古代に失われた叡智、様々な発見が行われた遺跡については、学院の学士の論文に基づいた復元ミニチュアが作られ、モーションコントロールカメラによる、まるで内覧会の様にミニチュアの奥までカメラが入り込む撮影が行われた。


 この館内を再現したミニチュアは、案内役の学士がその場にいるかの様に内部を歩き、蔵書の豊かさ、古代人の知識の広さを説明する場面が撮影される予定だ。

 しかし、35mmカメラの小型化により、このミニチュアは約1.5m三方と驚くほど小さい。


 更には、動物や人間の体の組成を記憶する、目には見えない細かい物体、デオキシリボ核酸の模型が分裂し、複製される映像が作られた。

 これは粘土細工を毎秒24コマで撮影した、粘土アニメーションだ。


「宇宙からの便り」を読んだトリック夫婦は、学士が必要とするだろう映像を35mmフィルムの合成とテレビカメラ信号の両方で作成し、長短を比較した。


「個人的には35mm、出来れば70mm、は無理かあ。

 でも、ビデオ映像はこれから果てしなく進化していくだろうから、再生環境が遥かに長持ちするフィルム撮影で行きたいんだけど。

 とはいっても、テレビカメラの生々しさも捨てがたい。悩ましいね」

「あたしはフィルムの方がい~と思うよ~?」


「リックさん、ディー。凄く細かい事に悩んでますね?」


「1799で分かったけど、細かな拘りって大事だよ。

 同じ映像でも数十分の一秒の間があるか無いかで全く印象が違う」

「で、でもさ。

 10年ごとに『フィルムにしときゃよかった~』とか、『ビデオにしときゃよかった~』とか、替りばんこに後悔したりしてね、ひゃひゃひゃ!」

 それほどに映像技術がフィルムとビデオで競いつつある未来をアイディー夫人は想像して、笑ってしまった。


「ありえそうで笑えないよ」

「私には考えも及ばない話ですね」

「でもさ、多くの人がそういうものに敏感に反応出来る様になったんだ。

 凄い事だよ」

「私達が映画を始めた頃は、白黒でしたからね!」


 結局、案内人本人の撮影スケジュールが押す事が懸念される場面はビデオ合成に、それ以外は光学合成にと、実に現実的な結果に落ち着いた。


******


 小説版の完成を前に、関係者内部だけで試写された「スプラコスモス」。

 上映はフィルムではなく、例の「家庭映画館」。


 飛行機も使って撮影された巨大隕石、南方で発見された奇怪な岩石群、実は河岸段丘が果てしなく刻み込まれた結果、更に資源乱獲と経済の行き詰まりで滅びた遺跡。

 無人の小型垂直飛行機での映像も含め、パノラマ的な風景が撮影された。


 音楽は、古典的な神殿音楽や世俗音楽からリック監督が選んで編集した。


 更に、植物の種、空を飛び生息域を増やす雑草の種が、その姿そのままに宇宙船となり、星雲を超える映像。


 古代に存在した知識の宮殿、そのイメージ映像が撮影され、関係者の意志を大いに高ぶらせた。


 生命の進化の最新学説を、線画アニメで再現し、電算機映像の様に見せた映像も披露された。


 同じ様に線画で宇宙の大きさを示す映像も作られ、試写会は大好評と完成作の期待の高まりと共に幕を閉じた。


 後は多彩な学士の著書の上梓を待ち、彼本人の撮影を待つ事となった。

 試写会で彼は大いに感動し、更なるやる気を燃やしたそうだ。

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